豊川悦司が藤枝梅安 初共演の相棒・片岡愛之助とはLINE友「“彦さん”と呼んでいる」

俳優・豊川悦司が主演を務める映画『仕掛人・藤枝梅安2』(河毛俊作監督、4月7日公開)。主人公は腕の良い鍼(はり)医者として人の命を救う顔と、依頼を受けて生かしておけない悪を葬る仕掛人というふたつの顔を持つダークヒーロー。歴代の名優が演じてきた役に、どう挑んだのか。

映画『仕掛人・藤枝梅安2』で主演を務めた豊川悦司【写真:荒川祐史】
映画『仕掛人・藤枝梅安2』で主演を務めた豊川悦司【写真:荒川祐史】

映像化には「原作へのリスペクトが大きなテーマ」

 俳優・豊川悦司が主演を務める映画『仕掛人・藤枝梅安2』(河毛俊作監督、4月7日公開)。主人公は腕の良い鍼(はり)医者として人の命を救う顔と、依頼を受けて生かしておけない悪を葬る仕掛人というふたつの顔を持つダークヒーロー。歴代の名優が演じてきた役に、どう挑んだのか。(取材・文=平辻哲也)

 本作は時代劇小説の大家、池波正太郎の生誕100年を記念し、代表作のひとつ「仕掛人・藤枝梅安」(講談社文庫刊 全7巻)の映画化した第2作。梅安と、その相棒、彦次郎(片岡愛之助)が過去に因縁のあった男たち(椎名桔平、佐藤浩市)と対峙(たいじ)していく物語。梅安役はこれまで緒形拳、田宮二郎、萬屋錦之介、小林桂樹、渡辺謙らが演じてきたが、身長186センチの豊川は原作のイメージに近い。

「たくさんの素晴らしい先輩方が演じられてきたので、自分がどういう梅安を作り込むかというイメージはあえて持たずに、現場で僕が感じたことをアドリブ的にやった方がいいのではないかと思っていました。梅安はえたいの知れない男ですが、その中にいろいろな人間的な感情を持っているというイメージでした」と話す。

 映像化にあたって、普段は原作を読むことはほとんどないというが、本作では今までとは違ったアプローチもした。

「今回は柱として池波正太郎さんの生誕100年があったので、原作へのリスペクトが大きなテーマでした。まず原作を読んで、今見られるだけの先輩方の梅安作品を見てから、原作を読み直しました。その時、最初の印象がどう自分の中で変わるのかなということに興味があったのです。先輩方のアプローチを見るだけでなく、その作品全体がどういうふうに原作にアプローチしていくのかが見えてきて、自分の方向性が見えてきました」

 2度、原作に触れたことで、大きな発見もあった。

「映像から逆算して原作に戻ると、あの原作がいかに映像的な小説なのかということをすごく感じました。池波先生の独特なリズムみたいなものがあって、すごく絵が浮かぶ。出てくる料理も、その匂いが沸き立つような感じがしました。お酒もおいしそうで、撮影中もホテルの部屋で普段はあまり飲まない日本酒も飲みました。最後は絶筆で終わってしまいますが、その続きが読みたくなります。その中から、自分が感じた、原作の梅安像を再現する感じでした」

「続けられるものなら続けてみたい」と続編にも意欲を見せた【写真:荒川祐史】
「続けられるものなら続けてみたい」と続編にも意欲を見せた【写真:荒川祐史】

片岡愛之助とは初共演、豊川のアイデアから実現

 彦次郎役の愛之助とは初共演だが、その起用も、豊川のアイデアから実現した。

「(製作サイドから)『彦次郎役のイメージはありますか?』というお話があった時に、僕は『愛之助さんがいいと思います』と答えました。『藤枝梅安』はある意味、時代劇っぽくない話だと思います。マゲも結っていないし、刀もさしていない。そんな中、時代劇のリアリティーを出せるのは、時代劇と現代劇の両方できる人、愛之助さんだと思ったわけです」

 撮影期間中はコロナ禍という事情もあり、なかなか酒席で一緒になることはなかったが、LINE友達でもあり、本作のイベントがある際はいつも連絡を取り合っているという。

「愛之助さんはすごく忙しい人ですが、取材日や舞台あいさつで一緒になるときは必ず朝、LINEをくれて、僕は返すことがルーティンになっています。先日もプロモーションの仕事が終わった後に、愛之助さんと2人だけではなかったですが、みなさんと食事をして、お酒を飲んでという楽しい時間を久しぶりに過ごしました。これは、撮影中に愛之助さんと言っていたのですが、『僕たち梅安と彦さんみたいだね』って。僕は、愛之助さんを『彦さん』と呼んでいますけれど、そういう関係がいまだに続いています」。

 歴代の梅安役は40~50代の俳優が演じてきたが、豊川はそれよりも上の年齢だ。だが、その年齢の重みが作品に深みを見せている。

「この年齢で巡り合えたことは僕の中ではすごく良かったのではないかと思っています。今までさまざまなことを経験してきて、身につけてきたことが表現できるということをすごく感じました。(第3作以降については)続けられるものなら続けてみたいなという気持ちはあります」

 梅安役を続けるため、俳優業を続けるため健康にも気をつけている。

「年齢的にはだんだん衰えていく時期だと思うので。現状維持ができるようには考えています。昔は仕事に合わせて、痩せてみたり、トレーニングしたり、という感じだったのですが、今は仕事に関わらず、日常的にきちっと体と向き合っています。日々のジョギングなど体力づくりをしていかないと、仕事は続けられないと思っています」

 現在は見慣れた長髪だが、再び梅安を演じるとなれば、丸刈りにもしないといけない。技術の進んだ今では、かつらや特殊メイクもあるが、その選択肢はなかったともいう。

「『あちらにいる鬼』で共演した寺島しのぶさん(瀬戸内寂聴がモデルの主人公役)とも話しをしたのですが、彼女も特殊メイクは考えなかったと言っていました。頭を丸めるというのは、ある意味、俳優にとっての役への決意でもあり、役に近づく一つの手段だと思っていますから」。数多くの当たり役を持つ名優・豊川だが、藤枝梅安がその一つになるのは間違いない。

□豊川悦司(とよかわ・えつし)1962年3月18日、大阪府生まれ。1990年、北野武監督の映画「3- 4×10月」に出演し注目される。以降、『12人の優しい日本人』(91年)、『きらきらひかる』(92年)、『Love Letter』(95年)、『八つ墓村』(96年)と映画に出演。ドラマでは、『NIGHT HEAD』(92~93年)、『愛していると言ってくれ』(95年)、『青い鳥』(97年)など主演ドラマが大ヒットし、人気、実力ともに日本を代表する俳優に。主な映画主演作には『新・仁義なき戦い。』(2000年)、『愛の流刑地』『サウスバウンド』『犯人に告ぐ』(07年)、『今度は愛妻家』『必死剣 鳥刺し』(10年)、『一枚のハガキ』(11年)、『後妻業の女』(16年)、『パラダイス・ネクスト』(19年)、『弟とアンドロイドと僕』『あちらにいる鬼』(22年)など。20年ハリウッド映画『ミッドウェイ』では連合艦隊司令長官・山本五十六を演じ、好評を博した。ほか『キングダム2 遥かなる大地へ』(22年)、『そして僕は途方に暮れる』(23年)と話題作にも出演。8月に『リボルバー・リリー』の公開が控える。

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