卒業式の記念映像が拡散→数年後大手企業のCMに “日体大コール”投稿主は営業マン兼アメフト選手
「レッツゴー、日体大! 日体大、日体大、日体大! ウーッ!」。2017年にツイッターで拡散された“日体大コール”と呼ばれる卒業式映像。音頭を取っていた男性は“メンディー兄貴”として親しまれている。バズった“日体大コール”はホームズや日清食品のウェブCMに起用される異例の事態となった。当時、動画を投稿した“メンディー兄貴”ことイグエ・ケリー・祥一に話を聞いた。
最初の投稿から5年以上たった今も拡散され続けている
「レッツゴー、日体大! 日体大、日体大、日体大! ウーッ!」。2017年にツイッターで拡散された“日体大コール”と呼ばれる卒業式映像。音頭を取っていた男性は“メンディー兄貴”として親しまれている。バズった“日体大コール”はホームズや日清食品のウェブCMに起用される異例の事態となった。当時、動画を投稿した“メンディー兄貴”ことイグエ・ケリー・祥一に話を聞いた。(取材・文=島田将斗)
ツイッターで有名になった“メンディー兄貴”も今や社会人6年目。さらに実業団に所属するアメフト選手でもあり、20年からはYouTuberとしても活躍している。
具体的な仕事内容はというと北海道での照明器具の営業企画をしているという。「どう売り上げを作っていくか考えて企画したり営業をしに行っていますね」と営業スマイルだ。
「基本的に朝から夕方まで仕事をして、その後にアメフトの練習したり、試合をしたりという感じですね」と大忙し。
さらにイグエは現在、事務所にも所属していた。「今は2社目。入ったきっかけは自分のYouTubeを1人で企画とかすることに限界を感じて自分から入れる事務所を探して、エントリーしました」と経緯を説明する。
事務所に入るメリットは何なのか。その裏側をこう明かす。
「案件とかもいただけます。あとは自分でギャラの交渉をするのもいやらしいじゃないですか(笑)。そういう部分も代わりにやってくれるのでありがたいですね。動画の編集や企画も見てくれたりするので、入って良かったですね」
日体大コールとは何なのか。ネット上では飲み会で行う“コール”というイメージも先行しているが「決して違う」と力強く否定する。
「元々は日体大のアメフト部のときのウォーキングアップでやっていたんです。動画のように勢いよくはやらないですけど。自分たちの間では、練習前のピリピリした空気で士気をあげるためにやっていたものでした。それを卒業式の後にやるのが伝統のような形になっていました。飲み会のコールとかでは決してないんです。そもそも“日体大コール”という名前もネットの誰かがつけたものです。本当は“レッツゴー日体大”です」
最初に映像がツイッター上で拡散されたのは2017年ごろ。体の大きな、カラフルな髪色をしたスーツ姿の学生がコールを行う映像はたちまち拡散した。5年以上たった今でも話題に上がるほどだ。イグエが当時を振り返る。
「最初に拡散されたときは“バズる”という言葉すら浸透していなかった。『いいね!』とリツイートがやけに多いなという印象でした。“バズる”という言葉がなかったから動画の再生回数とかに価値を今ほど感じていませんでしたね。コメント欄の反応も見ていませんでしたし、それを副業とかビジネスにつなげようとか思いませんでした」
動画アップから1か月後には就職だった。昨今の就職活動では、学生のSNS利用について企業が裏アカウントを特定する動きがあるほどシビアな問題だが、イグエにはその認識は全くなかった。
「そもそも卒業記念に撮影していて、それを何となくツイッターに僕がアップしたんです。そのため怖さは全くなかったですね。動画が拡散するというのがどういうことなのか。デジタルタトゥーっていう言葉もそのときはまだありませんでした。周りも含めてそういう概念がなかったので気にしませんでしたね」
その後、イグエはこの映像をSNSから削除したというが、2020年に日本でTikTokがはやりだすと、何者かの手によってアップロードされ、たちまち拡散。ここで“バズり”を実感した。
「家族からも『なんか出てきたよ』って言われましたね。2回目のブレークは自分が追い付いていませんでした。でも、当時の新入社員の後輩とかが、『あれってイグエさんなんですか?』という声をかけてくれる子もいてうれしかったです。若干芸能人みたいな感じですね」
ウェブCM化で心境に変化
日体大コールは22年、ウェブCMへ昇華する。コールの“日体大”を日清食品は「合体だい」とホームズは「もったいない」とアレンジ。元ネタを知るファンは騒然となっていた。
ある日突然オファーが届いたという。当時の心境を「誰でも知っているような会社のCMだったので『いいの?』って素直にうれしかったですね」と振り返る。
ホームズのCMでは、元ネタの卒業式映像に登場するメンバーの一部も出演した。撮影の難しさを思い返すと、眉間にしわを寄せた。
「やっぱりちゃんとした撮影なので、何度も撮り直しするんです。真夏にスーツで撮影しました。3時間くらい声を出し続けたので、のどがしんどかったです。僕ののどが限界を迎えたのもあって、最後はそろそろ決めましょうかという雰囲気になり、撮影しましたね」
投稿したプライベートの映像がCMになるとは誰もが想像できなかった。この経験をきっかけに人生はより明るくなった。
「社会人になるまでは行きたい学校もなんとなく決めていたし、小中高は一貫校だったので、どうしても先が見えていて、自分が思っていた通りに大体は進みました」とイグエ。
その上で「CMになったことは、本当に想像できなかったです。人生って何があるか分からないって言いますけど本当に分からないと思います。分からないからこそ、この先も何があるんだろうと楽しみに思えるようになりました」と白い歯をこぼした。
「卒業記念として何となく」撮影した映像がCMに。炎上映像で得たものは悪い意味での知名度だ。イグエのように「人に迷惑をかけない」投稿で注目を集めるインフルエンサーが増えることを期待したい。
□イグエ・ケリー・祥一。1994年4月16日、東京・練馬生まれ。小中高と軟式野球を経験。日体大では大学1年時に硬式野球部に所属。「同じ野球だけど、全く違うスポーツ」と感じながらも前向きに練習していたが、大学2年の途中にアメフト部コーチに誘われたことをきっかけに転部した。現在はアメフトの強豪実業団に所属。2022年からスタメンを奪取し準優勝を飾った。