【映画とプロレス #13】「ファイティング・ファミリー」盲目のプロレスラー「カラム」その真実の物語
ザックとジェームズが二人三脚でトレーニング
ここで登場するのがザックだ。最初は2人でリングに入り、ジェームズにリング内を歩かせることからスタートした。歩数を確認させ、リングがどんなものか体でおぼえさせる。これを何度も繰り返した後、基礎から技術的練習へと進めていく。他者より数倍かかる作業だが、ザックとジェームズは二人三脚でトレーニングに打ち込んでいった。
やがて、レスリングスクールの練習生が増えていった。映画でも見られるように、少年少女のクラスができあがったのである。そして約半年後、ザックの決断によりジェームズのデビューが決定する。デビュー前、地元紙がジェームズを取材した。「盲目の少年がプロレスラーに」。もちろん本名で紹介されたため、WAWはジェームズ・チルバースの名前で彼の初戦を宣伝、対戦カードに入れた。本来なら本人の意向もありリングネームを用意するつもりでいたが、新聞で見た人には本名の方が伝わりやすい。結果、「ジェームズ・チルバース」がそのままリングネームに用いられた。
デビュー戦は15年4月5日、地元に近いグレートヤーマスにておこなわれた。相手はダレン・ソールという1か月前からともに試合を想定し、トレーニングを積んできた同門だ。「プロレスは信頼のスポーツ」とも言われるが、ジェームズと闘う場合はそれ以上の信頼関係が求められる。盲目のジェームズは対戦相手が出す音を頼りに動かなければならない。それこそ相手がむやみに攻撃をかわしては試合として成立しない。だからこそ、手の内のわかるダレンは最適の相手だったという。
現役プロレスラーとしていまも活躍中のジェームズ
現在もハンディを克服し現役レスラーとしてリングに上がるジェームズ。試合はほとんどがシングルマッチでタッグは未経験だ。3WAYが一度、バトルロイヤルが何度かあるくらい。今後はもっと空中戦を展開できるレスラーになりたいとのことである。
テレビドキュメンタリーとして放送されたナイト・ファミリーの物語がロックによって映画化されたことは、ジェームズにも驚きだった。残念ながら映像そのものを見ることはできないけれど、自身がモデルのキャラクターも出てくるとあって喜びも倍増。映画で描かれているカラムのエピソードはほぼ現実に忠実だとジェームズは証言する。
「ザックが車で迎えに来るのは脚色だね。乗せてもらったことなんて一度もないよ(笑)。でも、ボクについて描かれていることはほとんど本当のことさ。ボクはザックに教えてもらったからプロレスラーになれた。彼はボクだけではなく、訳ありの子たちにレスリングを教えてくれた。もしも視力が普通にあったら、まったく別のレスラーだっただろうし、デビューしていたかどうかもわからないよ。いまではハンディがアドバンテージと思えるくらい。ハンディがなかったら目立たなかったし、注目もされなかっただろうね。逆転の発想ができたのも、ザックのおかげさ」
ジェームズの夢は憧れのクリス・ジェリコとの対戦
得意技はダイビングボディープレス。直近では3月22日、WAWノリッジ大会で長男ロイ・ナイトとシングルマッチをおこないノーコンテスト(ある意味、ジェームズの金星!)となった。そしてここ数年、レスラー仲間から日本についての話を聞く機会が増え、日本のプロレスにも興味がわいてきたという。たとえばWWEの中邑真輔。動く姿は見えなくても、聴覚によってレスラーとしての色気を感じるのだとジェームズは言う。最後に、今後の夢を聞いてみると…。
「無理だとは思うけど、究極の夢をなにかひとつ挙げるのだとすれば、クリス・ジェリコと試合がしたいな。ホント、なにかひとつ挙げさせてもらえるのなら、クリス・ジェリコと試合できたらいいね」
もしも実現すれば、それこそ「ファイティング・ファミリー」スピンオフ。彼が歩んできた道は、映画化に値するほどドラマチックなのだ。