【映画とプロレス #13】「ファイティング・ファミリー」盲目のプロレスラー「カラム」その真実の物語
22日にDVD&ブルーレイが発売され、レンタルや配信もスタートした“ザ・ロック"ドウェイン・ジョンソン製作(&出演)の「ファイティング・ファミリー」(2019年)は、WWEのスーパースター、ペイジと彼女の家族を描いた爽快なサクセスストーリーである。元気を出したいこの時期だからこそ見るべきこの作品には、ペイジの両親をはじめ実在の人物が数多く登場する
盲目の少年レスラー「カラム」のモデル「ジェームズ・チルバース」
22日にDVD&ブルーレイが発売され、レンタルや配信もスタートした“ザ・ロック”ドウェイン・ジョンソン製作(&出演)の「ファイティング・ファミリー」(2019年)は、WWEのスーパースター、ペイジと彼女の家族を描いた爽快なサクセスストーリーである。元気を出したいこの時期だからこそ見るべきこの作品には、ペイジの両親をはじめ実在の人物が数多く登場する。
WWEのトライアウトに失敗し落胆する兄ザック・ナイトは、ペイジと並ぶもうひとりの主役。映画ではアメリカに渡るペイジと地元に残るザックの兄妹愛と確執が交錯していくのだが、ペイジが世界最大の団体WWEで厳しい生存競争にさらされるなか、ザックは家族経営団体WAWで子どもたちにレスリングを教えている。なかには障害者も含まれており、ザックの教え子として登場する盲目の少年カラムは、現実にプロレスラーとしてデビューし現在も現役だ。視力を失ったハンディを克服した彼の名は、映画でのカラムではなく、ジェームズ・チルバース。筆者が今年1月、WAWのナイト・ファミリーを訪問すると、彼がわざわざ道場にやってきてくれた。プロレスラーに憧れ、一度はあきらめた夢を叶えてみせたジェームズ。今回の取材では、ペイジ一家とはまた違う、もうひとつの奇跡を聞くことができた。
WWEに憧れた少年ジェームズ・チルバースは不慮の事故で視力を失う
ジェームズは1998年3月28日、ノリッジから東へ1時間ほどのゴーレストンという海辺の街で生まれた。プロレスに興味を持ったのは8歳の頃。テレビで偶然目にしたWWEの虜になったのだ。ジョン・シーナがヒーローで、すぐにジェフ・ハーディー、レイ・ミステリオのファンにもなった。「強くなりたい」。幼いながらに自分も大人になったらプロレスラーに、と思うようになったのだという。
ところが、悲劇が突然やってくる。9歳で自動車事故に巻き込まれ、左目の視力を失ったのだ。すぐに右目も見えなくなった。以来、自暴自棄に陥り精神的にも病んでしまったとのこと。16歳のとき、彼はセラピストから「将来はなにをやりたいんだい?」という質問を受けた。完全に目標を失っていた彼は答えることができなかった。が、しばらくの沈黙の後、「僕はプロレスが好きなんです…」と一言。それを聞いたセラピストは、小さい頃抱いた夢を引き出した。が、現実的には不可能と考えるのが常識だろう。しかしセラピストはノリッジのプロレス団体WAWに連絡を取り、入門の可否を聞いてみた。電話を取った団体の長リッキー・ナイトは、ジェームズに道場に来るよう指示。以来、ジェームズはバスに乗って自力で道場に通うようになったのである。エクササイズ目的ではなく、プロレスラーをめざしての毎日が始まった。