日本のアニメ・マンガの海外普及は「映画祭が重要」 調査の背景に“利潤第一”への疑問
先月、初めて開催された新潟国際アニメーション映画祭(3月17~22日)で、文化庁と開志専門職大(新潟)の共同調査による「海外における日本のマンガ・アニメの価値づけの状況」の概要発表が行われた。登壇者は開志専門大アニメ・マンガ学部長・教授で、本映画祭の実行委員長でもある堀越謙三氏、文化庁・文化庁・メディア芸術担当調査官の椎名ゆかり氏、本映画祭プログラム・ディレクターで国内外のアニメーションビジネスの調査・研究を行なっている数土直志氏ら。調査の背景については、堀越氏が文化的なものに対しても“利潤第一”が求められる現代の風潮に疑問を抱いたからだという。
新潟国際アニメーション映画祭で共同調査の概要を発表 近く文化庁の公式サイトに掲載へ
先月、初めて開催された新潟国際アニメーション映画祭(3月17~22日)で、文化庁と開志専門職大(新潟)の共同調査による「海外における日本のマンガ・アニメの価値づけの状況」の概要発表が行われた。登壇者は開志専門大アニメ・マンガ学部長・教授で、本映画祭の実行委員長でもある堀越謙三氏、文化庁・文化庁・メディア芸術担当調査官の椎名ゆかり氏、本映画祭プログラム・ディレクターで国内外のアニメーションビジネスの調査・研究を行なっている数土直志氏ら。調査の背景については、堀越氏が文化的なものに対しても“利潤第一”が求められる現代の風潮に疑問を抱いたからだという。(取材、文=中山治美)
堀越氏はマイクを手にして言った。
「小津安二郎の『東京物語』(1953年)は70年間、世界中のどこかの国で毎日上映されていると言われている。それに近いことをアニメで構築できないか? 数値以外の部分で重要な、価値を生むメカニズムを検証したい」
調査では、欧米で日本のアニメ・マンガの普及に大きく携わった7人の批評家や配給会社スタッフにインタビューしている。「手塚治虫の芸術」(ゆまに書房刊)の著者で、英国人の日本文化研究家であるヘレン・マッカーシー氏によると、価値づけを生み出す装置には、人、映画祭、情報を拡散するメディアの3つがあるという。
例えば、欧米でのジャパニメーション・ブームに火をつけた作品として大友克洋監督『AKIRA』(88年)が挙げられるが、「ファンコミュニティー=人の影響力が大きかった」という。ただし当時、日本のアニメといえば性と暴力描写が満載のイメージがあり、きちんと価値づけされたわけではなかったという。
対してジブリ作品はジャパニメーションの文脈から欧米で広がったわけではなく、各地で開催される日本映画祭の中で実写作品と並び、紹介されたことで認知度が高まったという。その流れが、世界3大映画祭でアニメーション映画としては初の快挙となった『千と千尋の神隠し』(2001年)のベルリン国際映画祭金熊賞(グランプリ)受賞へとつながっている。
細田守監督作の海外セールス担当者「作家に実力ありはもちろんだが」
そして、細田守監督作の海外セールスを手がけているフランスの映画配給・制作会社シャレードのヨハン・コント氏は、「欧米で評価されるには、作家に実力があることはもちろんだが、映画祭が重要」と分析している。細田監督の『未来のミライ』(18年)でカンヌ国際映画祭に初参加しているが、その前の作品『バケモノの子』(15年)を新鋭発掘に定評のあるサンセバスチャン国際映画祭(スペイン)に出品。映画祭関係者や評論家に価値づけされることで、カンヌへとステップアップを狙った戦略だったという。それらを把握するコント氏は「細田監督と(制作会社の)スタジオ地図が海外展開に協力的だった。映画祭戦略には日本側の動きが重要」と語っているという。
この共同調査の報告書は近々、文化庁の公式サイトに掲載される予定だ。日本のアニメやマンガの評価は海外から逆輸入されたことで、国内でも文化として捉えられるようになり、専門学部を設ける大学も増えた。公的機関での学術研究がさらに進展することを期待したい。
ジェンダーバランスへの配慮は? 主要ポスト、受賞登壇者は男性ばかり
本映画祭では映画の上映だけでなく、アニメ業界の未来を考えるシンポジウムやトークイベントも多数行われた。特筆すべきはアニメーション業界の女性の地位向上を目指す団体「Woman in Animation」のヴァイス・プレジデントで、本映画祭のコンペティション部門の審査員を務めたジンコ・ゴトウ氏が参加したトークイベント「アニメーションと女性監督」。同団体は毎年、アヌシー国際アニメーション映画祭で大規模なサミットを開催しているが、日本からの参加者はほぼなし。ゴトウ氏は「日本のアニメ業界の問題は私たちの耳にも届いています。ですので今回、日本側と繋がることができて良かった」と語った。
一方で、本映画祭は「ジェンダーバランスに配慮していた」とは言い難かった。理由は、フェスティバル・ディレクターをはじめ主要ポスト、第1回大川=蕗谷賞の受賞登壇者、一部シンポジウムの登壇者も全て男性だったからだ。本映画祭実行委員長の堀越謙三氏はインタビューで、「多様な映画作りがあることは国際映画祭を開かなければ見えてこない」と語っていたが、運営の方でも世界の潮流に敏感になるべきだろう。
本映画祭は24年も開催予定。堀越氏は今後に向けて「新千歳国際アニメーション映画祭や、ひろしまアニメーションシーズンとも協力していきたい」と語るなど、他の国際アニメーション映画祭と連携し、日本のアニメーションの振興に尽力する意欲を示した。
中山治美