愛車と交換で渡されたポルシェは“盗難車” 「頭が真っ白に…」 悪質すぎる手口、被害者多数か

インターネットを通じた自動車の個人売買で、相手から入金されずに車両をだまし取られる詐欺被害が相次いでいる。同一人物の犯行とみられ、被害者同士が情報共有をしながら警察に相談。車と犯人の行方を追っている。ENCOUNTは複数の被害者に取材。悪質な被害の実態に迫った。

奪われた2013年式BMW320d
奪われた2013年式BMW320d

被害に遭った男性「頭が真っ白に…」 悪質な手口に共通点

 インターネットを通じた自動車の個人売買で、相手から入金されずに車両をだまし取られる詐欺被害が相次いでいる。同一人物の犯行とみられ、被害者同士が情報共有をしながら警察に相談。車と犯人の行方を追っている。ENCOUNTは複数の被害者に取材。悪質な被害の実態に迫った。

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 3月24日の夜、埼玉県の20代男性はツイッター上のある投稿に言葉を失った。2日前に、所沢市内の駐車場で自身が所有していた2013年式BMW320dと交換したばかりのポルシェに対し、別のオーナーから“ポルシェの捜索願い”が出されていたからだ。「びっくりしました。焦りと後悔が半分半分。頭が真っ白になりました」。男性は取材に対し、ぼう然とした表情でつぶやいた。

 ポルシェとの取り引きを持ちかけてきたのは、かいわいで“極悪詐欺師”と知られる人物Aだった可能性がある。ポルシェが“盗難車両”と気づいた男性はすぐに連絡を取ったが、Aは「盗難車と交換とはどういうことですか?」と非を認めないまま、BMWの返却にも応じず、音信を断った。

 もともとのポルシェオーナーもAと接触してだまされた1人だった。金銭との交換条件で車両をAに渡したのは18日の土曜日だった。その日、Aから振り込み完了画面のスクリーンショットが送られてきた。着金が口座に反映されるのは月曜日。しかし、「よくできたスクショでした」。確認を待たずにポルシェをAに渡してしまう。銀行が営業しない土日を挟み、巧妙に車両をだまし取るのはAの常とう手段だった。

 Aはだまし取ったポルシェをエサに、続くターゲットを物色する。それが埼玉県の男性だった。男性はツイッター上で「BMW乗りますか」と購入希望者を探していた。売値は135万ほどだった。AからDMを通じて連絡があったのは21日の祝日。ポルシェとの交換に、色めきたったという。

「わらしべ長者できると思いました。ポルシェはどれだけ走っても(最低ラインの)値段は変わらない。交換したいと思いましたね」

 少なく見積もっても100万円以上、ポルシェのほうが価値が高かった。男性が駐車場でAと過ごした時間はわずか15分。必要な書類を用意してその日のうちに車を交換した。Aは「嫁と子どもがいるから3人で狭い。だから2人乗りじゃなくてセダンがいいと思って」と、語っていたという。「盗難したばかりだから全然(車に)荷物が入っていなかった」。今振り返ると、不自然な点はあった。なお、Aは本名ではなく、ポルシェのオーナーに関連する名前を名乗っていた。

 BMWを失った男性はポルシェのオーナーと警察に相談。顔の特徴などからともにAから被害を受けたことで一致した。ネット上には他にも被害者がおり、DMで連絡を取り合っている状況だ。「僕も何も考えていなかったので、こんなことがあるんだなって思いました。単純に135万円の損失です」。とりかえしのつかないことをした自責の念と、犯人への憎しみが募った。

Aとのやり取りが残されたスマホを見る横浜市の男性【写真:ENCOUNT編集部】
Aとのやり取りが残されたスマホを見る横浜市の男性【写真:ENCOUNT編集部】

「生活が苦しいから先に振り込んでくれ」 豹変した態度

 横浜市の男性もAに対する怒りを口にする。Aから車両交換のDMが来たのは昨年9月だった。

「僕のレクサスと相手の210クラウン・シルバーを交換するという取り引きでした。9月26日の夜9時ごろ、横浜の新山手のドンキで現車確認。お互い会って話しました」

 そのときAは男性に対し、車両プラス名義変更代として3万円を払うよう要求してきたという。男性は同意し、レクサスの修理が終わる約1か月後に車両を交換する約束をした。

 すると3日後、Aから連絡があった。「生活が苦しいから先に3万のうち1万を振り込んでくれ」。男性は10月15日にも残りの2万円を振り込む。レクサスの修理が終わったため、車両の交換を打診すると、Aは態度を豹変(ひょうへん)させたという。

「仕事が忙しいだのなんやかんやと言って、車を渡してくれなくて、そこからちょこちょこ連絡を取っていたんですけど、けんか口調で脅してきて、そこから連絡が取れない」

 3万円も戻ってこなかった。「お金は返したと言う。ただ銀行に反映されていないだけだと」。さらに男性は続ける。「クラウンもAのものじゃない。車を交換して名義変更だけしないで乗り回していた」。被害をSNSで告発すると、ほかの被害者から次々に連絡が届いた。「DMだけで7人。僕以外は全部車です。お金(の被害)は自分だけですね」。レクサスが手元に残ったのは不幸中の幸いだった。被害者の相談にも乗ってきた男性は「スクショ画像を送って、本当は振り込んでいない。月曜日だから待てない。だいたい同じ手口です」と証言した。

 情報を総合すると、Aは盗難車両と交換するだけでなく、手に入れた車両をどこかで解体、部品をネット上で売っているようだ。被害者たちは警察に相談しながら、大手売買サイトを毎日チェックするなど足取りをつかもうとしている。ツイッターのDMやLINEを使ったAとのやり取りの記録はそれぞれの被害者が保持しており、証拠はそろっている。ネット上にはAの顔写真も含め、個人情報が流出。しかし、居場所は特定できていないという。

 ポルシェを元のオーナーに返した埼玉県の男性は、被害届を提出する意向。「最低でも車を返せ。そして自首してほしい、捕まってほしいという気持ちが強いです」と、犯人の早期逮捕を願っている。

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