TDR、東京駅の長~い乗換え回避するには? 人気の新木場乗り換え 構想が宙に浮く“幻のルート”も
春休みに入り、東京ディズニーリゾート(TDR)への行楽客でJR京葉線がにぎわう時期がやってきた。京葉線といえば、あまりありがたくない名物なのが始発駅・東京駅の長い乗換え通路。この煩雑な移動から解放されるルートと、本当ならばもっと便利になるはずだった、複雑な歴史とは。
乗換え数百メートルの東京駅を通らずに済むには、どこで京葉線を降りる?
春休みに入り、東京ディズニーリゾート(TDR)への行楽客でJR京葉線がにぎわう時期がやってきた。京葉線といえば、あまりありがたくない名物なのが始発駅・東京駅の長い乗換え通路。この煩雑な移動から解放されるルートと、本当ならばもっと便利になるはずだった、複雑な歴史とは。(取材・文=大宮高史)
官庁街のど真ん中にある東京メトロの永田町駅。この駅は、休日の夕方や平日夜になると、TDRの耳飾りやバッグを持った若者をしばしば見かける。特に半蔵門線ホームで渋谷方面の電車を待っていることが多いが、TDR最寄りの京葉線舞浜駅をかすりもしない半蔵門線ではなかなか目立つ。
なぜディズニーファンがこの駅に? の答えは、有楽町線と半蔵門線の乗換駅になっているためだ。和光市~新木場を走る有楽町線は、始発駅の新木場で京葉線と接続。舞浜方面から新木場で有楽町線に乗換えると、永田町や池袋までは電車1本で移動できてしまう。
永田町での有楽町線と半蔵門線の乗換えも、有楽町線和光市方面の階段を上るとすぐ半蔵門線ホームに降りられる階段があるので、東京メトロの駅ではかなり便利な部類だ。この乗換えに慣れていると、京葉線を東京駅まで乗らずに新木場・永田町と乗り継いで京葉線沿線と渋谷方面を行き来できるというわけだ。運賃も舞浜~渋谷間を東京駅経由なら410円(IC406円)に対し、新木場乗換えのメトロ利用では430円(同419円)と大差ない。
TDRや幕張メッセへのアクセスを担う京葉線だが、“難所”はやはり東京駅での移動。地上の新幹線やJR他線からは地下通路を約300~400メートルほど歩いた上でさらに地下深くに降りるという、大きい荷物を持っていてはハードな移動を余儀なくされる。乗換え時間は少なくとも10~15分は見ておく必要があり、ほとんど別の駅かと思うくらいに離れてしまっている。
あまりにも東京駅の他線と離れているので、京葉線地下丸ノ内口と有楽町駅北端の京橋口とを徒歩で移動できる特例が設けられているが、こちらも地上に出て有楽町駅まで歩く必要がある。これらの長い乗換えを回避したい場合に有用なのが、新木場駅で乗換えてしまうルートだ。京葉線と有楽町線、りんかい線の3社の改札が同じフロアに集まっているため分かりやすく、動線はきわめてスムーズ。「初乗りはやや高いが遠距離だと割安になる」という東京メトロの運賃の特徴を押さえておくと、有楽町線から飯田橋で東西線に乗り換えて中野、飯田橋か市ヶ谷で中央・総武線各駅停車に乗り換えて新宿、というルートも選べる。
また、京葉線八丁堀駅から日比谷線に乗換える経路もあるが、日比谷線が八丁堀以南でカーブが多く遅くなるため、このルートが有効なのは上野方面からアクセスする場合に限られるだろう。
線路はつながっているのに 国鉄の負債が生んだ、りんかい線と京葉線の分断
もう1本、有楽町線とともに新木場を始発駅にしているのがりんかい線。同線は新木場から大崎まで約20分で結び、大崎からはJR埼京線に直通する。こちらも直通先の埼京線で渋谷・新宿・池袋に行くことができる上、大崎で山手線と湘南新宿ラインにも乗換えられるルートで、途中の大井町でJR京浜東北線と東急大井町線にも乗換えられるのだが、いかんせん運賃が高い。新木場~大崎を通しで乗車すると400円(IC398円)もかかる上、前後のJR区間の運賃もかかってくる。有楽町線を新木場から和光市まで全線乗り通しても330円なので、いかにりんかい線が割高か分かる。
ところが、りんかい線と京葉線は線路もつながっていて、京葉線のもともとの計画にりんかい線の区間も含まれていた。
京葉線の原型計画は昭和30年代に国鉄が定めた「東京外環状線」までさかのぼり、現在の武蔵野線・京葉線・りんかい線のルートに貨物列車を走らせる構想だった。これが首都圏の人口集中で旅客列車も走らせる計画になり、1970年代から武蔵野線と京葉線を順次建設。京葉線は90年に全線が開業してTDR最寄りの舞浜駅も東京駅と直結されたが、新木場から東京貨物ターミナル(品川区)方面を想定していたりんかい線の区間は手つかずになってしまった。
なぜりんかい線区間だけが“放置”されたかというと、国鉄の財政難で、需要が見込みづらい区間ゆえに80年代に建設が一時凍結されたため(東京臨海高速鉄道発行『臨海副都心線工事誌』)。それでもバブル期になると、臨海副都心の開発に合わせて建設の機運が高まり、JRではなく第三セクター方式の運営を前提にりんかい線建設が具体化してきた(1990年東京都策定『第三次東京都長期計画』)。
大ざっぱながら事情を整理すると、旅客輸送重視のJRとしては京葉線を東京駅まで乗り入れできればとりあえず一段落となるが、臨海副都心の交通機関を整備したい東京都が音頭をとって、建設が中断されていた貨物線を転用してりんかい線を整備していく構図になった。こんな歴史から、りんかい線を運営する東京臨海高速鉄道は今でもJRではなく東京都が筆頭株主(東京都の出資比率91.32%に対し、JR東日本は2.41%)で、別会社となっているのが現状だ。りんかい線の八潮車両基地が東京テレポート駅から分かれた回送線を通って、東京貨物ターミナルに隣接した場所にあるのもこういった歴史の名残である。
もともとは“兄弟”のような関係で、まれに臨時列車が直通することもある京葉線とりんかい線。行政からは両線の相互直通運転化もそ上に上がるが、検討レベルの域を出ていない。また直通運転を行うと、新木場で改札を通らないため舞浜方面から渋谷・新宿方面を乗り通す場合にJR東京駅経由かりんかい線経由かを判別できず、作為・不作為を問わず“キセル客”を逃してしまうデメリットも事業者側にはある。
もし京葉線とりんかい線を一体に開業できていれば、新木場も改札を通らずに乗換えができ、京葉線沿線と渋谷や新宿ももっと安い運賃で行き来できるのだが…と過去の事情が作り出した複雑な運賃と乗換えには、一乗客としては改善を望みたくなる。
運賃の値下げは前例がないわけではなく、神戸市営地下鉄の新神戸~谷上間は、北神急行線として建設された当区間を2020年に神戸市交通局が統合したために地下鉄他線と運賃が通し計算になり、北神急行の初乗り運賃を支払う必要がなくなって値下げが実現した。
東京臨海部ではJR東日本が羽田空港アクセス線にも着手しており、さらなる新線開業を奇貨として、運賃体系の変革にも期待したいところだ。