38歳・松山ケンイチ、「すでに遺書も書いている」 10年前から始めた終活「困るのは周りの人」
どのように生き、そして最期を迎えたいのか。大切な人と話をしたことがありますか――。俳優の松山ケンイチが10年前に出会った原作を、名手・前田哲監督とともに映画化した『ロストケア』が24日に公開された。企画から携わった松山は「描いたことは誰もが自分事になること。日本の社会には、介護だけではなく、たくさんの穴があり、僕も落ちる可能性がある」とし、「自分や大事な人の死について向き合って」と呼びかける。5日に38歳になったばかりだが、家族が困らないよう始めた終活では、すでに遺書も書いていると語った。
最新映画では24人の高齢者を手にかける介護士を演じた
どのように生き、そして最期を迎えたいのか。大切な人と話をしたことがありますか――。俳優の松山ケンイチが10年前に出会った原作を、名手・前田哲監督とともに映画化した『ロストケア』が24日に公開された。企画から携わった松山は「描いたことは誰もが自分事になること。日本の社会には、介護だけではなく、たくさんの穴があり、僕も落ちる可能性がある」とし、「自分や大事な人の死について向き合って」と呼びかける。5日に38歳になったばかりだが、家族が困らないよう始めた終活では、すでに遺書も書いていると語った。(取材・文=西村綾乃)
介護問題などをテーマにした映画『ロストケア』では、介護士でありながら42人の高齢者を殺害した斯波宗典を演じた。撮影は2022年3月5日。松山の37歳の誕生日にクランクインした。
「前田監督に小説の存在を聞いて読んだのが2013年。当時は介護をしている人たちがどんな状況に置かれているのか。その存在を認識できていませんでした。完全に(事件を担当する検事の)大友側でした」
内閣府が22年に発表した「高齢者白書」によると65歳以上の人口は、「団塊の世代」が65歳以上になった15年に3379万人となり、同世代が75歳以上となる25年には3677万人に達すると見込まれており、42年にピークを迎えると推計されている。
「今の日本は、平和のような雰囲気がありますよね。でもそれって、安全地帯にい続けられれば成り立つことで、斯波とその父親(柄本明)のように穴に落ちてしまったら、すぐに孤立化して、二度とその穴からは抜け出すことができない。絆とかつながりがあったとしても、乗り切れるものじゃない」
社会が目を背け、助けようとしなかった老人たちを手にかけたのは「救い」だと主張する斯波と、「身勝手な犯罪だ」と法のもとに裁こうとする検察側。映画化したいという思いを形にするまでに時間を要したのは、「介護」や「死」が題材となっていたからと語る。
「生きている以上、いつか向き合うものであるのに、目を背けてしまいがちなテーマでもある。そして今まさに介護をしていて、押しつぶされそうな人たちもいるので、形にすることはかなり難しかった。でもわざわざそのフタを開けて見てくださいと言うのは、僕自身が社会に穴があることに気が付いたから。日本の教育には道徳はあるけれど、介護とお金のことを学ぶ機会は少ないんですよね。でも介護は道徳でなんとかできることではないんです」
社会に穴があると気が付いたのは、子育てをしている経験も大きいという。
「家族のために役場に行ったとき、映画の中で斯波が経験したように事務的に扱われ、たらい回しにされたことがありました。セーフティーネットとか助けを求められるうちはいいけれど、ボタンをかけ間違えたら、すぐに穴に落ちてしまうという危機感がありました」
19年から家族との生活の拠点を里山へと移した。田舎で過ごす中で周囲に生かされて生きていることを身をもって感じた。それは子どもたちにも伝えている。
「『命は大切』と言いながら、蚊が飛んでいたら手でペチャっとつぶしますよね。ゴキブリだったら殺虫剤を撒く。何気なくやっているけれど、僕ら人間と同じ命なんだよって話をするんです。飼育した動物が死んだときもそう。自然や動物から学べることはたくさんあるので、子どもたちに話しています。そして自分(松山自身)が、『君たちよりも先に死ぬんだよ』ということも言ってあります。まだ理解しようとしないですけど」
自らの死について考えるようになったのは26歳のとき。11年3月11日に発生した東日本大震災で混乱する社会を見て、備えることの大切さを感じたという。
「理想とする死に向かうため、どう生きて行くべきかについて考えるようになりました。今は子どもたちを自立させるという大事な目標のために生きているけれど、明日地震が起きてつぶされるかもしれないし、隕石が落ちて来て死ぬかもしれない。車にぶつかってひん死状態になる場合もある。医療は全ての面倒を見てくれるわけではなくて、困るのは周りの人。だから延命するのかしないのかも含めて、自分の人生にどう線を引くのか考えてほしい。僕も10年前から、終活を始め、すでに遺書も書いています」
人生100年時代。平均寿命が延びたことで、介護期間も年々長期化している。家族のケア、また自らの終末期をどう生きたいのかは、誰もが考えなくてはいけないことだ。
「周囲に介護をしている人はまだいないし、自分も親の介護をする状況になっていません。でもこれから出てくる可能性はあります。親からは『介護なんていらない』と言われていますが、介護を必要としないのならば、老人ホームに入るのかなど考えることが必要かなと思っています。要介護になったら、どことつながれば良いのか。いきなり死んで、財産分与とかでてんやわんやするのは残された側なので、震災への備えなどと同じように、大切な人と考える時間を持ってほしいです」
□松山ケンイチ(まつやま・けんいち)1985年3月5日、青森県生まれ。2002年にテレビドラマ『ごくせん』でデビュー。映画『デスノート』(07年)で演じたL役で大きな注目を集めた。NHK大河ドラマ『平清盛』(12年)では主演を好演。23年1月期TBSドラマ『100万回言えばよかった』では悲痛な現実にほんろうされる恋人同士を繋ぐ刑事・魚住譲を演じた。放送中の大河ドラマ『どうする家康』に本多正信役で出演するなど、幅広く活躍している。6月には映画『大名倒産』(前田哲監督)の公開も控えている。