森山直太朗、『さくら』大ヒットで葛藤「肯定できない自分もいた」 40代は「もうボロボロ」

シンガー・ソングライターの森山直太朗が3月1日にシングル『さもありなん』を配信リリースした。昨年10月にメジャーデビュー20年を迎えた森山は現在、自身最大規模の全国ツアー「素晴らしい世界」の真っ最中。昨年6月に東京・吉祥寺にあるライブハウスで幕を開けた全100本のツアーは、前編の弾き語りや中編のブルーグラス編成などを経て、フルバンドを引き連れた後編が始まったところだ。アーティストとしての“成人”を迎えてもなお、挑戦をし続ける森山に、「新曲」、「ライブ」、「20周年」という3つのテーマでインタビュー。最終回は、デビュー20年を迎えた心境について聞く。

歌手の森山直太朗【撮影:ENCOUNT編集部】
歌手の森山直太朗【撮影:ENCOUNT編集部】

何でもない日常に、活動の原点がある 見つけた豊かさ

 シンガー・ソングライターの森山直太朗が3月1日にシングル『さもありなん』を配信リリースした。昨年10月にメジャーデビュー20年を迎えた森山は現在、自身最大規模の全国ツアー「素晴らしい世界」の真っ最中。昨年6月に東京・吉祥寺にあるライブハウスで幕を開けた全100本のツアーは、前編の弾き語りや中編のブルーグラス編成などを経て、フルバンドを引き連れた後編が始まったところだ。アーティストとしての“成人”を迎えてもなお、挑戦をし続ける森山に、「新曲」、「ライブ」、「20周年」という3つのテーマでインタビュー。最終回は、デビュー20年を迎えた心境について聞く。(取材・文=西村綾乃)

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――2002年10月にミニアルバム『乾いた唄は魚の餌にちょうどいい』でメジャーデビューされました。1月には『さくら』、『生きとし生ける物へ』など、20年の間に制作した曲の中から、26曲を集めた初の弾き語りベストアルバム『原画Ⅰ』、『原画ⅠⅠ』をリリースされました。

「『原画』は、持っている山小屋や、プライベートスタジオにこもって、歌いたいときに歌う形で制作をしました。ふたつの作品は、いま全国を回っているツアーの会場でお客さんに手渡しで、物理的に手渡しできないときは、手渡しの代わりのサインを入れた形で、販売をしているんです」

――楽曲は音楽ストリーミングサービスでの配信はなく、ライブ会場でのCD販売のみ。このため、会場のロビーに試聴コーナーが設けられていました。終演後は、CDを受け取る人たちの長い列ができていましたね。

「はい。手渡しをするときに、少し会話もさせていただくのですが、それこそ、20年間聴き続けてくれた人もいれば、久しぶりの方もいらっしゃって、色々な感想を聞くのが新鮮です。(デッキの中で)回転するCDを見て『直太朗さんの曲を聴き始めた頃の自分を思い出しました』と、曲と出合った頃の気持ちに帰れたと聞いたときは『このアルバムを出して良かったな』と思いました。20年たって、本当の意味での原点回帰ができたと感じています」

――デビュー20年を記念したツアーで、全国100か所を巡っている最中です。20年の活動の中で変わった部分。逆に変わらず深まったと思われる部分はどのようなことですか。

「20年をかけて元に戻ったっていうような感覚でいます。20年前の自分と今の自分が全く同じかっていうと、それは違うんだけど、紆余曲折を経て同じ場所にもう一度立っているような気がしています」

――最新シングル「さもありなん」は、3月24日に公開される映画『ロストケア』(前田哲監督)の主題歌です。介護施設が舞台の劇中では「老い」について描かれる場面がありました。40代半ばを過ぎて、老化を実感したエピソードなどはありますか。

「もうボロボロです(笑)。視力は元々良くて、左右共に2.0あるけれど、置いてあったプリントの文字が見にくかったときに、スマートフォンの画面に指を置いて広げるように(ピンチアウト)、紙の上で指を滑らせたことがあって、『やばいっ』て思いました。アスリート的な視点で考えると故障が多いのは、ひとつのシグナル。自分の身体を過信して過ごしていたことを見つめ直しましょうというサインなので、気づいたら整体に通ったり、はり治療をしています。そうすることで、フィジカルから自分のスイッチを見つけられるようになる。問題なのは表に出ないもの。精神を病んでしまうとか」

――そうですね。アーティストとしては「老い」をどのように考えていますか。

「デビュー翌年に、『さくら』がヒットしたんです。いきなり大勢の前で歌わなくてはいけない状況になり、『曲を届けなくてはいけない』と思うあまり、力んで歌っていた時期がありましたし、それを肯定できない自分もいました。ただ、表現者としての『老い』は熟成のようなもの。経験を重ねて、どんどん力みが取れて伸びやかになっていっているのであれば表現者として良い状態だと思います」

――表現者として、社会との関係をどのように築いていますか。

「白髪が増えたり、物忘れが激しくなるとショックは受けますが、身体と心の老いは本質的に関わり合ってはいないので、その引っ掛け問題みたいなのにハマらないようにしています。何千人ものお客さんと向き合うステージは、アウトプットの容量が半端ない。舞台の上でジタバタしてもしょうがないので、そこに続く日常をどう過ごすかを大切にするようになりました。日常の中でどうインプットしてるかっていうことが、作品作りや表現につながっていく。精神が老いないように、気になる個展があったら、歯を食いしばって遊びに行く。行くと楽しくなって、そこで会話したこととか、ささいなことが肥やしになる。情報っていろんな形で仕入れられるし、外出しなくてもインターネット上でモノや人とつながることもできるけれど、やっぱりアナログな行為に魂は宿るし、その魂が創作の根源になるから。だから忙しくても、そういう時間を大切にするようにしています」

 静かな山小屋で過ごす日常と、スポットライトを浴びて歌うステージは真逆に見えるが、「何でもない日常にこそ、活動の原点があり、またその営みにこそ、本当の豊かさがある」と語った森山。その鋭い洞察力が生み出していく音楽表現に、今後も注目していきたい。

■森山直太朗(もりやま・なおたろう) 1976年4月23日、東京都生まれ。2001年にインディーズレーベルから直太朗名義でアルバム『直太朗』をリリース。02年10月にミニアルバム『乾いた唄は魚の餌にちょうどいい』でメジャーデビューした。シンガー・ソングライターとしてはもちろん、20年にはNHK連続テレビ小説『エール』に出演するなど、幅広く活躍している。

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