「死ぬほどつらい」花粉症、死んだ人はいる? 食べるとアナフィラキシーの可能性も
「10年に1度レベル」の飛散量とも言われる今年のスギ花粉。飛散量がピークを迎え、SNS上では花粉症に悩まされる人から「死ぬほどつらい」との声が相次いでいる。食物アレルギーでは時に死に至るほどの重篤な症状を起こすアナフィラキシーショックも存在するが、実際に花粉症が原因で亡くなった人はいるのだろうか。一般社団法人日本アレルギー学会常務理事で日本医科大学耳鼻咽喉科の後藤穣医師に、知られざる花粉症研究の今を聞いた。
年々患者数が増加し、今や国民の4割近くが症状を抱える国民病に
「10年に1度レベル」の飛散量とも言われる今年のスギ花粉。飛散量がピークを迎え、SNS上では花粉症に悩まされる人から「死ぬほどつらい」との声が相次いでいる。食物アレルギーでは時に死に至るほどの重篤な症状を起こすアナフィラキシーショックも存在するが、実際に花粉症が原因で亡くなった人はいるのだろうか。一般社団法人日本アレルギー学会常務理事で日本医科大学耳鼻咽喉科の後藤穣医師に、知られざる花粉症研究の今を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
1998年に29.8%だった日本のアレルギー性鼻炎患者の割合は、2019年には49.2%に増加。スギ花粉症に限っても98年の16.2%から19年には38.8%まで倍増しており、今や国民の4割近くが症状を抱える国民病となっている。なぜ年々患者数が増加しているのだろうか。
「飛散する花粉の量が増え続けているからだと考えられます。国内のスギは戦後に建築資材として植林されたものがかなりの割合を占めますが、スギが成長していく過程で花粉の飛散量も増えていく。さまざまな予測がありますが、この先も数十年は飛散量が減少に傾くことはないようです。一部では花粉の飛散量が少ないスギに植え替える動きもありますが、近年では中国や韓国で日本の建築用木材の需要が高く、建築用木材として実績のある従来のスギの新たな植林も進んでいるようです」
季節的な症状ということもあり、花粉症は多くの人が自己診断のみに留まっているのが現状だが、後藤医師は診療所(またはクリニック)や病院での適切な検査の必要性を口にする。
「花粉症といえども病気のため、思い込みで済ますのはあまりおすすめできません。花粉症だろうと思って放置していたら、副鼻腔炎(蓄膿症)や鼻腔内の腫瘍、中には鼻腔がんだったという例もないわけではない。シーズンが過ぎても長引く場合は注意が必要です」
「死ぬほどつらい」との声が上がる今年の花粉症だが、実際に花粉症で死に至るようなケースはあるのだろうか。また、ネット上では「スギ花粉を食べてみた」などの記事も存在するが、花粉の摂取によるアナフィラキシーショックの可能性はないのだろうか。
「花粉症単体で死ぬことはまず考えられませんが、同じ気道系の病気であるぜんそくと合併している人も多い。医学の進歩でかなり減ってはいますが、ぜんそくは時に死に至ることもある病気。花粉症で鼻が詰まり、口呼吸となることでぜんそくが悪化することはあり得ます。また、花粉症になると注意力が散漫になり、計算能力や労働生産性は大きく落ちる。花粉症薬の中には眠くなりやすい成分が含まれているものもあり、自動車の運転などには注意が必要です。
花粉の経口摂取については、2007年に和歌山でスギ花粉を含む飴を食べたあとに運動をしてアナフィラキシーになった事例があります。最近では、家庭の小麦粉にダニが繁殖し、ダニアレルギーの人が気づかないまま料理に使用しアナフィラキシーになったというケースがかなり多く報告されています。安易にアレルギーを起こす物質を食べたり、体内に取り入れるのは危険。絶対に慎むべきです」
完治させることはできる? 医師が提唱する4つの治療法
毎年訪れるだけに厄介な花粉症だが、完治させることはできないのだろうか。
「治療法としては、主に抗ヒスタミン剤、外科手術、抗IgE抗体療法、舌下免疫療法(アレルゲン免疫療法)などがあります。抗ヒスタミン剤はいわゆる市販薬などに含まれる成分で、一時的に症状を抑える薬です。外科手術ではレーザーで鼻の粘膜の表面を焼いたり、粘膜を切除したりするもの。レーザーは外来診療で15分ほど、1万円程度の費用でできますが、焼いた直後はやけど状態となってしまうので、花粉症シーズン到来前の12月頃までに受けるのが一般的です。
2020年から治療が開始された抗IgE抗体療法は花粉と反応する抗体の方をブロックする注射を投与する治療で、世界でも保険適用となるのは日本だけ。一般的な飲み薬やステロイド性の点鼻薬を使っても収まらず、1日に11回以上のくしゃみ、11回以上鼻をかむなど重度の症状がある方のみ受けることができます。
医師として一番のおすすめするのは舌下免疫療法で、他の治療法が対症療法なのに対し、これは体質を改善し根治を目指す治療法。1錠あたりの価格は一般の飲み薬と大差ありませんが、3~5年間もの間、365日飲み続けなければならず、面倒くさがる人が多いためかそこまで広くは浸透していないのが現状です」
東京都の小池百合子知事は、かねてから「花粉症ゼロ」を公約として掲げているが、実現に向けた政策は一向に進んでいない。花粉症の話題でまことしやかにささやかれているのが「製薬会社の利権のために国が対処を怠っているのでは」という都市伝説だが、本当にそんなことがあるのだろうか。
「アレルギーについてはまだメカニズムが分かっていない点も多く、短期間で花粉症を完璧に治療できる技術はありません。中には儲かっている会社もあるかもしれませんが、多くはそこまでの余裕はないというのが実情ではないでしょうか。また、物理的にスギの木をすべて伐採してしまえば花粉症はなくなるでしょうが、国内の森林面積の約18%にも当たる448万ヘクタールものスギの木をすべて伐採するのは現実的には不可能なのではないでしょうか」
全体で見ればごく一部とはいえ、ぜんそくとの合併症や注意力低下による事故などで死者も出ており、何よりも国民の生産性を著しく落としている花粉症。公約として掲げる以上は、何らかのアクションを起こしてほしいところだ。