格闘技界の“賢者”志朗が語るジャッジ論 「3人から5人に増やすのもあり」と提言する理由

今月26日、東京・有明アリーナで行われる「Cygames presents RISE ELDORADO 2023」(ABEMAで完全無料生中継)。「RISE世界バンタム級(55キロ)王座決定戦」で“孤高の賢者”志朗(BeWELL キックボクシングジム)がディーゼルレック・ウォーワンチャイ(タイ)と戦う。初の世界タイトル戦へ向けての心境や、試合の“見栄え”を考えるきっかけにもなった判定について話を聞いた。

試合直前、リラックスした様子の志朗
試合直前、リラックスした様子の志朗

世界タイトル戦へ「日本人が獲らないといけない」

 今月26日、東京・有明アリーナで行われる「Cygames presents RISE ELDORADO 2023」(ABEMAで完全無料生中継)。「RISE世界バンタム級(55キロ)王座決定戦」で“孤高の賢者”志朗(BeWELL キックボクシングジム)がディーゼルレック・ウォーワンチャイ(タイ)と戦う。初の世界タイトル戦へ向けての心境や、試合の“見栄え”を考えるきっかけにもなった判定について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

 今年で30歳。若い選手を見て「年取ったな」と笑う。それでも「年齢は数字に過ぎない」と自身のスタイルを追求する、志朗の強さはそこにあった。

 昨年12月の試合では鈴木真彦(山口道場)と対戦。軽量級の頂上決戦となったこの試合は2対0で志朗が判定勝ち。だが、試合後には「このままだと勝てない。3月に世界タイトル獲れない」と勝利の余韻に浸るどころか危機感を感じていた。

 あれから約3か月、志朗は緊張していた。「いつもの試合と違って、世界タイトルっていうベルトがかかるので、いつもと違った緊張感があります。追い込みもいつもより激しめなんじゃないかなと思いますね」と語る。

 緊張については「勝ったらベルトを獲れるという部分ですね。天心以来獲れていない世界のベルトなので、日本人が獲らないといけないなっていうプレッシャーです」とスラスラと口にした。

 試合は3分5R無制限延長Rで行われる。5Rというラウンド数は2019年のタイでのムエタイマッチ以来だ。長いラウンドを戦う体を作ってきている。

「沖縄合宿に行ったりしました。いつも3Rの試合ですが、久しぶりの5R。今回はラウンド数を多くして練習していますね。普段行かないようなボクシングジムでの練習も取り入れています」

 今回の相手であるディーゼルレックは87戦59勝21敗7分(13KO)の実績を持つ25歳。21年にはTrue4Uスーパーバンタム級王座を獲得している強豪だ。どんな選手なのか。

「オールラウンダーで首相撲でも強い選手ですね。試合をしたら盛り上がる相手だと映像をみて思いました。盛り上げたいけど、理想はKOで終わらせたいですね。5Rなので、狙っていくところは狙っていきたいです」

 こうしながらも「ムエタイ選手で5Rに慣れているので、そこが不安要素になる」と冷静に分析していた。

寺山遼冴と公開練習をする志朗(右)
寺山遼冴と公開練習をする志朗(右)

見栄えを意識した理由とは

「見栄えを意識しています」。昨年12月の試合後会見で語ったテーマだ。観客、レフェリーを巻き込むためにハイキックなどの派手な技を意識していたという。そのきっかけについて振り返る。

「キックボクシングは短いラウンドでやるので、どうしても技術とかヒット数よりも前に行く場面とか強気な姿勢をジャッジが取る傾向になってきたと自分で感じていた部分があったからです」

「そこを言い訳にしてはいけない。判定でレフリーに委ねている時点で自分に責任がある」とした上で、「強気な姿勢」を見せるための見栄えだ。

「最近は練習のなかで技術プラスアルファで、違う方向に考えなきゃダメだと話し合って決めていました。技術だけでなく、攻めているイメージを出さないといけないなと思って見栄えを意識しはじめましたね」とうなずく。具体的には対人練習で自身が1Rは負けている想定で戦うことだと説明した。

 そもそもなぜ、そのような練習が必要なのか。日本格闘技界からすれば、うれしい悲鳴とも言える理由だった。

「技術がみんな上がっていて、KOが少なくなっていますよね。ダウンは多くなりましたけど、KO数は少ない。その中でラウンド数も9分しかないので、そういう意味も含めて技術と“作戦”も重要になってきています。結構大変だと思います」

 現役選手から見てもジャッジ泣かせな試合が増えたというわけだ。分かりやすいのは、ダウンやKOをすることだが、そううまく試合は運ばない。そのためにも、見栄え練習が必要不可欠になってきている。

「人間がさばいているものなので、ミスや好きな戦い方、嫌いな戦い方もあります。その上で、ジャッジの方がどこでポイントを取ったのかなというのを考えて、今後のポイントの取り方を考えなきゃいけない。それを練習に取り入れていかないとですよね。自分の武器は残しつつ、何か新たに足さないといけないと思ったりもします」

 競技は違うが、サッカーでは人間の目だけでなく機械が判断を手助けするケースもある。昨年盛り上がりを見せたサッカー・カタールワールドカップの日本対スペイン戦で「三笘の1ミリ」と呼ばれたシーンでは、日本は機械に救われた。キックボクシングではどうなのか。志朗が見解を明かす。

「難しいですね。4人人間でひとりAIとかだったら面白いかもしれない。でも、難しい問題ですよね。世界ではボクシングの判定基準がそれぞれ違ったり、ポイント見解も違うこともあるので、何とも言えないです。でも、ジャッジを3人から5人に増やすのはありかなと思います」

“世紀の一戦”天心―武尊は5人のジャッジによる5ジャッジ制で行われた。志朗はとある理由から増やすこともありだと語る。

「最近は3人で2-1とか多いなと思っているので、天心―武尊みたいなスタイルが1試合くらいあってもいい。そうすればレフェリーもそんなにたたかれないんじゃないかなって(笑)」

 冗談も交えながらにこやかな表情で話すが、自身も判定に悩んだことはある。時に戦績は、選手人生を左右することもある重要な要素だ。

「戦績というのは一生残るわけですからすごい大事です。蹴りが好きな人もいるし、パンチが好きな人もいる。キックボクシングって両方あるわけで、そうなったときに難しいですよね。だから全部強ければいいとも思ってしまいます。自分の場合は、試合のときに『0.5ポイントぐらい負けているイメージで』と伝えてあるんですよ」と明かした。

 そう考えることが終盤のスタミナ切れを防ぐという。予期しなかった延長Rは体に効いてしまう。終わりの見えない“昭和”のような練習方法で鍛えているのが志朗だった。

「自分の場合は、トレーナーさんが『あと、何セット』とか言わない人なんですよ。その分、最初から全力でやらないといけない。そういうメンタル強化も必要ですよね」

 孤高の賢者と呼ばれる志朗だが、2010年のプロデビューから10年以上たった今もファイトスタイルは研究中だ。

「新しい形を探していて、やっと武器とか強さを分かりつつあってスタイルを確立できそう」と手応えを感じている。世界タイトル戦で見られる史上最強の志朗に期待したい。

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