猫を振り回して「虐待」と炎上→獣医師「猫は嫌がっていない」 気をつけたい見分け方

今月1日、埼玉・戸田市の中学校に刃物を持った男子高校生が侵入し、男性教員が切りつけられた事件。逮捕された高校生はさいたま市内で切断された猫の死骸が相次いで見つかった事件についても犯行をほのめかす供述をしており、あらためて動物虐待と人への危害の関連性がクローズアップされている。ネット上には残酷な動物虐待の動画が多数出回っているが、もし虐待を疑われる動画を発見した場合にはどのような行動を取ればいいのか。また、しつけと虐待の境界、適切なしつけとはどのようなものなのか。実際に警察から依頼を受け虐待動画の鑑定も行っている、公益社団法人日本獣医師会の佐伯潤動物福祉・愛護職域担当理事に話を聞いた。

しつけと虐待の線引きは…(写真はイメージ)【写真:写真AC】
しつけと虐待の線引きは…(写真はイメージ)【写真:写真AC】

埼玉で切断された猫の死骸が発見、その後中学校での切りつけ事件に発展

 今月1日、埼玉・戸田市の中学校に刃物を持った男子高校生が侵入し、男性教員が切りつけられた事件。逮捕された高校生はさいたま市内で切断された猫の死骸が相次いで見つかった事件についても犯行をほのめかす供述をしており、あらためて動物虐待と人への危害の関連性がクローズアップされている。ネット上には残酷な動物虐待の動画が多数出回っているが、もし虐待を疑われる動画を発見した場合にはどのような行動を取ればいいのか。また、しつけと虐待の境界、適切なしつけとはどのようなものなのか。実際に警察から依頼を受け虐待動画の鑑定も行っている、公益社団法人日本獣医師会の佐伯潤動物福祉・愛護職域担当理事に話を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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 事件は今月1日、埼玉・戸田市の市立美笹中学校で発生。刃物を持った男子高校生が校内に侵入し、止めに入った男性教員を切りつけた。高校生はその場で別の教員らに取り押さえられ、110番通報で駆けつけた警察官によって殺人未遂容疑で現行犯逮捕。先月中旬にさいたま市内で切断された猫の死骸が相次いで見つかった事件についても「自分がやった」などと話しており、埼玉県警が関連を調べている。

 ネット上では犬や猫を痛めつけたり、しつけと称して棒でぶったり、小動物を生きたまま捕食動物に与えるなど、動物虐待とも取れる内容の動画が多数出回っている。もし虐待を疑われる動画を発見した場合にはどこに通報すればいいのだろうか。

「まずは警察、他には各都道府県の動物愛護管理センターなどに相談窓口があります。いつどこで、誰が撮ったものか分からないという場合は、動画の存在を伝えるだけでもいい。動物虐待というとなかなか警察が動いてくれないようなイメージがあるかもしれませんが、一昨年の法改正で厳しい罰則が盛り込まれたこともあり、今はネット上の虐待動画にも神経をとがらせるなど、警察もかなり熱心に取り組んでいる。埼玉の例のようにエスカレートして人に危害が及ぶ可能性も高く、殺害までいくとまず間違いなく動いてくれます」

 一方で気をつけたいのは、それが本当に虐待とまで言える行為かどうかだ。先月中旬、飼い主と見られる女性が子猫の脇を持って強く振り回したり、背中を故意に丸めて折り曲げたりする内容の動画が拡散。「虐待」として批判の声が上がっていたが、佐伯理事はこの動画について「猫は嫌がっておらず、虐待とは言えない」との見解を語る。

「見たところ生後4か月から半年くらいの子猫で、人間でいうと小学校高学年から中学生くらい。このくらいの月齢になると、生まれたての頃と違って骨や関節もしっかりしていて、多少乱暴に扱ってもけがをすることはありません。また、嫌がったり、痛かったりしていれば、逃げたり泣いたりするもの。確かにかなり乱暴な動画で、見た人は不快だったかもしれないが、猫にとっては信頼関係のある相手への態度と言えます。虐待が疑われるか否かは一般にその動物が嫌がっていたり、苦痛を感じたりしているかが判断材料となりますが、傍から見てかわいそうなことをしているイコール虐待、というわけでもありません」

昭和の時代は犬を棒で打つ光景も…現代の適切なしつけとは

 動物のしつけの仕方は年々進歩しており、ひと昔前までは常識とされていたことが現在では虐待扱いされるケースもある。線引きが難しいのがいわゆるしつけの問題。昭和の時代は言うことを聞かない犬を棒で打つという光景も珍しいものではなかったが、現代の適切なしつけとはどのようなものなのだろうか。

「犬は群れを作る動物なので、ひと昔前は犬より強い立場になれば言うことを聞くというのが定説でしたが、それは恐怖で支配しているだけに過ぎず、今は間違った考え方とされています。犬をしつけるコツはとにかく褒めること。犬は飼い主に構ってもらえるのが一番うれしいので、トイレを間違えたときに叱るのではなく、ちゃんとできたときに褒めちぎってあげて、犬にとってどちらが得かを判断させるのが効果的です。

 一方、猫の場合は褒めるのが難しい場合が多いです。猫に効果的なのは、まずはいたずらしにくい環境を作っておくことです。その他には、いたずらをした時に音で驚かすことなどがあります。大事なことは、自分が起こした行動の結果として嫌なことや驚くことがあったと理解させることです。事後に叱るようなことをしても理解できませんし、飼い主さんが大きな声を出したり脅かすようなこと、体罰を加えるなどをすると、飼い主さんから攻撃されたと認識してしまう場合もあるので、注意が必要です」

 いずれの場合も、叱るのは適切でないとされるペットのしつけ。一方で、他人に危害を加えた場合など、時には叱りつけたくなる場面もあるだろう。本当にやってはいけないことは、どのように教えれていけばいいのか。

「結論からいうと、子犬の段階から教える必要があり、1歳以上の大人の犬が言うことを聞かないときにはもう手遅れで、専門家が入ってトレーニングをしないと解決しません。改正動物愛護管理法では、生後56日齢以下の子犬は販売が禁止されており、子犬を家に迎える生後3~6か月くらいまでが、人間でいう小学生から高校生くらいの歳になります。この時期が犬の性格を決定づける上で大切な学習期間になりますが、多くの飼い主さんは子犬がかわいくてつい赤ちゃん扱いをしてしまい、体が大きくなってから手をつけられなくなってしまう。大人になってから考えが変わらないのは人間も同じ。生後半年までの間に、いいことをしたら積極的にほめてあげるというのが大事です。

 本来は欧米のようにある程度の週齢までブリーダーが育ててから販売するのが望ましいですが、日本ではパピーミル(子犬工場)といって繁殖業者や販売制度全体の問題もある。子犬を飼うのなら、家に迎え入れた直後から飼い主が責任を持って、心の部分も育てていかないといけません」

 一方的な虐待はもってのほかだが、物言えない動物なだけに、たとえしつけであっても乱暴な扱いには気をつけたいところだ。

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