eスポーツキャスター・友田一貴氏、実況に懸ける熱い思い「大好きなシャドウバースでは負けたくない」

eスポーツが世界的に存在感を増す中で、対戦型オンライントレーディングカードゲーム『Shadowverse』(以下、シャドウバース)のプロツアーを始めとする競技シーンを盛り上げているのが、Cygames専属キャスターの友田一貴氏だ。豊富な知識と視聴者に寄り添った盛り上げ方、そしてゲームへの愛によって公式放送などを支える友田氏に、そのバックグラウンドや実況への思いなどを聞いた。

Cygames専属キャスターの友田一貴氏【写真:ENCOUNT編集部】
Cygames専属キャスターの友田一貴氏【写真:ENCOUNT編集部】

Cygamesとの専属契約の決め手は「シャドウバースの実況で負けたくなかったから」

 eスポーツが世界的に存在感を増す中で、対戦型オンライントレーディングカードゲーム『Shadowverse』(以下、シャドウバース)のプロツアーを始めとする競技シーンを盛り上げているのが、Cygames専属キャスターの友田一貴氏だ。豊富な知識と視聴者に寄り添った盛り上げ方、そしてゲームへの愛によって公式放送などを支える友田氏に、そのバックグラウンドや実況への思いなどを聞いた。(取材・構成=片村光博)

  ◇ ◇ ◇

――今はデジタルカードゲーム(DCG)であるシャドウバース実況の第一人者として活躍する友田さんですが、カードゲームとの出会い、シャドウバースとの出会いを教えてください。

「僕は子どもの頃からずっとカードゲームが好きで、物心ついたときからカードゲームをやっていましたね。友達の間ではやっていましたし、いろいろなカードゲームに手を出しました。地域でのはやりがあって、ずっとカードゲームをやっていた中で、友達の中では敵なし、負け知らずになってしまったんです。『もっと強い相手と対戦しよう』ということで、街のカードショップに行って大人と戦ったり、大阪や東京で開かれていた大きな大会におばあちゃんに連れてってもらったりしていました。そうしたことは小学生のときからずっとやっていましたね」

――カードゲームにずっと触れながら育ったんですね。

「その後はいろいろなゲームにハマりましたが、定期的に(カードゲームの)ブームが来るような感じはありましたね。その中でDCGが出て、カードゲーム好きとして『めちゃくちゃいい』『どこでも対戦できるのはすごい』と思い、シャドウバースを始めました。DCGに触れたのはシャドウバースのリリース(2016年6月)後、すぐですね」

――シャドウバースのリリース時、リアルカードゲームの“プレイしにくさ”を徹底的に排除した作りに衝撃を受けました。

「対戦相手がいつでもいるというのは、すごいことですよね。あとは、『カードゲームはお金がかかるもの』という認識があったんです。新しいカードゲームを始めるときは、デッキ1つそろえるためにお金がかかってしまう。でも、シャドウバースはソーシャルゲームの良い面を取り入れていて、好きなデッキ1つくらいなら無課金でも組めるという、入口の広さも魅力的でしたね」

――そこからシャドウバースに深く関わることになり、2019年にはCygamesと専属契約を締結しています。この決断の経緯についてうかがってもよろしいでしょうか。

「当時はキャスターとして仕事を始めて、シャドウバースをメインにしながら、他のゲームの実況をすることもありました。そんなときにCygamesさん側からシャドウバースにできる限りの力と時間を貸してほしいという話になったんです。シャドウバースは他のゲームに比べて大会の数が多く、プロシーンも始まっていた。当時はDCGブームで、DCG専門のキャスターとしていろいろなカードゲームに触れていくのか、それともシャドウバースに専念するのかという状況になったんです。

 そのときにCygamesさんとお話した結果、スケジュールの確保とパフォーマンスの維持という話があがりました。それなら専属しかないよね、という流れですね。僕としても、シャドウバースに専念する代わりに、シャドウバースとずっと一緒にやっていける形を取りたかったので、Cygamesさんと契約したという形です」

――“専属キャスター”という前例のない挑戦は大きな決断だったと思います。

「これは僕の個人的な話になるのですが、平岩(康佑)さんの存在がやはり大きくて。実況者としてというよりも、シャドウバースの実況者の中では一番になりたいという思いが自分の中では今も昔もすごく強くて、全てのeスポーツキャスターの中で一番ということではなくても、自分が大好きなシャドウバースでは負けたくない。そのために、専属となることで実況のパフォーマンスをさらに上げたいという思いが強かったですね。そこが決め手かなと思います。平岩さんが(eスポーツ界に)入ってきて、すごい技術を見せてもらったり、一緒に仕事したりしていく上で『すごいな』と思う部分がたくさんあって、だからこそシャドウバースに集中できる環境でもっと技術を上げていきたいという思いがありました」

――平岩さんの参入はeスポーツ界全体にとっても大きな衝撃でした。

「いきなり“ガチ”のアナウンサーがドンって入ってきた感じですよね。すぐeスポーツに対応したし、僕にとっても勉強になることがたくさんありました。もちろん、平岩さんのようにいろいろなゲームタイトルを実況していくという方法もありましたが、大好きなシャドウバースのパフォーマンスを上げたくて、その方法を選びました」

ポジティブかつ「嘘はつかない」実況を信条とする【写真:ENCOUNT編集部】ポジティブかつ「嘘はつかない」実況を信条とする【写真:ENCOUNT編集部】
ポジティブかつ「嘘はつかない」実況を信条とする【写真:ENCOUNT編集部】ポジティブかつ「嘘はつかない」実況を信条とする【写真:ENCOUNT編集部】

信条は「実況に嘘はつかない」

――専属キャスターとして意識していること、大事にしていることは何ですか?

「シャドウバースを良く思ってもらえるようにする、広めるための活動もそうですが、シャドウバースをプレイしている人がシャドウバースを嫌いにならないように、みんなが好きになってくれるようにしたいと意識しています。やはり『専属キャスターが』という目で見られますし、SNSも含めて、振る舞い方は常に意識はしていますね」

――プロツアーの実況でも、どんな試合であってもポジティブな姿勢を崩さないことが印象的です。

「当たり前ではありますが、ネガティブな発言はしないようにしています。ただ、『嘘はつかない』ということを信条にしているんです。実況に嘘はつかない。面白くないのに楽しんでいる風にしないように意識しています。そうした嘘は視聴者にはバレてしまいますし、面白くない試合を無理やり盛り上げているようにはしたくない。僕自身が楽しくやる。テンションを無理やり上げることはしません。それはもう絶対ですね。叫びたくないところでは叫ばないし、叫んでほしそうでも、別に叫びたくなかったら叫ばない(笑)。僕は視聴者と同じ目線です。そうでないと、盛り上がりの押し付けになってしまいますからね。それでは面白くないと思うし、『僕が盛り上がっている=視聴者も盛り上がっている』と思って叫んでいます。視聴者を代弁しているだけなんです」

――実況を聞いていても、視聴者と連動している印象は強いです。

「目線は大事にして、合わせているつもりです。無理やり盛り上げている感が出ているときも、もしかしたらあるかもしれないですが、僕自身は本当に楽しんでいます。“リアルな実況”は常に意識しています」

――選手との関わり方などもあり、どんな試合であっても視聴者目線を崩さないのは難しいことでもあると思います。

「絶対に片方の選手が“アウェイ”にならないように、公平な立場で実況しようと意識しています。ただ、FPSゲームの世界大会の実況では、日本応援放送のような形でやっていますし、あれは公平ではないですよね。世界大会でも中立な立場で見ているんですが、片方の選手を応援するような、サッカーワールドカップの本田(圭佑)さんみたいなスタイルは僕にとってやる機会がなくて、やってみたさはあります。今の立場だと、日本代表チームが他国の代表と戦うことになっても、おそらく中立で実況することになりますから、例えば“日本応援実況”と銘打ってやるなら面白いかもしれないですね(笑)」

――プロツアーやRAGEの実況では、視聴者の誰よりも早く、時には選手よりも的確に選択肢を提示することもあります。どのような準備が源泉になっているのでしょうか。

「僕は実況の練習はせず、ゲームの練習をしていくことを徹底しているんです。例えば喋りの練習や台本の練習よりは、できる限りゲームを練習して、ゲームの理解を深めてから実況に臨むということを絶対に徹底しています。RAGEもプロツアーも、自分が選手として出ると思って練習していますね。実況目線だけ勉強して『こことここが分かっていればいいよね』ではなく、僕がいきなり試合の場に立ったとしても戦えるように練習していきます。RAGEでは自分が優勝する構築、自分が優勝する持ち組みを考えて、実際の持ち込みデッキを見て、自分の構築や持ち込みが正解だったか、不正解だったかを見るのはドキドキしています。そして、それが正解だったか、不正解だったか分かるレベルまで達していれば、実況できますよね、というのが僕の信条です。

 練習については、選手よりと言うとちょっと言い過ぎですが、同じくらい、負けないくらいに練習していくことは徹底しています。それはプロツアーでも同じです。デッキ発表されたら勝てるように、キャスター陣みんなであらゆる方面で練習していきます。そうしていけば、実況解説は絶対いいものになるんです。選手の目線が分かるので、『練習でこれ苦しかったよね』という話ができますからね」

――本気で勝つつもりで調整して、試合で出るような場面は一度は検討したことがある状態なんですね。

「そうです。1度は触れて、1度は考えている展開がほとんど。それでも予想外のプレイが出てきたときは、大体の人にとって予想外なんです。僕が驚いても、それが変じゃない状況は作れますよね。『こんな簡単なことで驚いてるの』と思われないように練習していっていますし、そう思われたら終わり。『僕の知らないことはみんなも知らないでしょ』と思えるくらい、練習していくべきだとは思っています」

「シャドウバースに尽くしたい、もっと盛り上げたい」と誓う【写真:ENCOUNT編集部】
「シャドウバースに尽くしたい、もっと盛り上げたい」と誓う【写真:ENCOUNT編集部】

「まだまだ可能性はある」 eスポーツが盛り上がる中でDCGが持つ可能性

――日本のeスポーツシーンは徐々に大きくなってきていますが、キャスター目線ではどのように感じていますか?

「RAGEはすごく盛り上がっているなと思いますし、人が足を運んでくれるようになりましたよね。以前はeスポーツというとオンラインで、それがメリットでもありつつ、デメリットでもありました。足を運ばなくても見ることができて、配信文化が浸透したことで、無料で視聴できるようになった。それはメリットでもありますが、企業的には難しいところですよね。人を集めるのがすごく難しくなってしまっていた。YouTubeで何万人の同時接続が取れるゲームはどんどん出てきていますが、何万人を会場に呼ぶというのは難しい。それはeスポーツ全体で直面している問題だと思うんですが、昨年開催されたオフラインイベントはたくさんの人を集めていました。やはりプロゲーマー文化が少しずつ根付いたおかげかなというのは感じています。

 これはキャスター目線ですが、選手にファンが付きやすくなった。いろいろな企業が参入してくれたおかげで、ゲーム1本で生活していく人、配信1本で生活していく人が、以前よりどんどん増えていって、選手1人1人にファンが付いて……。アイドルではないですが、ゲームのためではなく、その人のために『足を運ぼう』と思う人がどんどん増えてきた。それはシャドウバースがずっと作りたかった文化ですよね。大会にファンを付けることももちろん大事ですが、出場する人にファンを付けるというのはすごく大事だと思います。長年にわたってのいろいろなゲーム好きの人たちの努力の結果ですよね。代表的なところではStylishNoob(現・関優太)さんもそうですが、人を呼べるプロゲーマーが増えてきましたね」

――徐々に有料で人を呼べるコンテンツに育ってきたということですね。

「利益自体を求めるというよりは、そういうシステムを作りたいというところですね。野球やサッカーも同じですが、スタジアムに人を呼ばないと成り立たない。見やすくなったからこそ、足を運びにくくなっているというジレンマはあり、それどう解消するかというと、人に魅力を感じてもらうしかないですよね」

――盛り上がるeスポーツの中で、DCG、そしてシャドウバースの可能性をどのように感じていますか?

「カードゲームはパッと見、格闘ゲームやFPSに比べて分かりにくく、知識がないと理解しにくい面はあります。ただ、DCGは演出やスマホ1個でプレイできるという入口の広さ、がありますから、まだまだ可能性はあると思います。ボイスやアニメーションが付いていて、人にファンを付ける話と同じように、カードのキャラクターにファンが付き始めています。『あのカードが好き』『あのカードが見たい』ということが広まってくれれば、DCGとしての可能性を感じますよね」

――個人としての今後のキャリアの目標は達成したいことはありますか?

「個人的にはシャドウバース、そして専属契約しているCygamesを盛り上げたいですし、そのために尽くそうと思っています。ただ、いろいろなゲームで実況してほしい、このカードゲームで実況してほしい、友田一貴で見たい、という声も直接いただいたり、エゴサーチで目にすることも多くて、うれしいことではあります。僕もゲーム自体すごく好きですし(笑)。ただ、いまはシャドウバースに尽くしたい、もっと盛り上げたいというのが今後の目標です」

□友田一貴(ともだ・かずき)株式会社Cygames専属のゲームキャスター。『Shadowverse』のプロツアーや公式大会『RAGE』の実況を務め、深い知識と情熱で盛り上げる。公式大会『JCG』の優勝経験もあり、プレイヤーとしても高い実力を持つ。

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