桜庭ななみが震災テーマの映画「有り、触れた、未来」に主演 「傷は癒えてない」
東日本大震災から12年。10年後の宮城県を舞台にした映画『有り、触れた、未来』(3月10日公開、山本透監督)に主演したのが、俳優・桜庭ななみ(30)だ。交通事故でバンドメンバーでもあった恋人をなくした保育士役を演じた。キャリア15年を迎えた桜庭が本作とキャリアを振り返った。
震災から10年後の宮城県舞台にした映画『有り、触れた、未来』で主演
東日本大震災から12年。10年後の宮城県を舞台にした映画『有り、触れた、未来』(3月10日公開、山本透監督)に主演したのが、俳優・桜庭ななみ(30)だ。交通事故でバンドメンバーでもあった恋人をなくした保育士役を演じた。キャリア15年を迎えた桜庭が本作とキャリアを振り返った。(取材・文=平辻哲也)
本作は、「グッモーエビアン!」「九月の恋と出会うまで」の山本透監督が、東日本大震災から10年後の宮城県を舞台に命と向き合う人々の姿を描いた群像劇。桜庭ななみのほか、杉本哲太、手塚理美、北村有起哉、麻生久美子、萩原聖人、原日出子ら実力派が出演している。
桜庭の役は10年前に交通事故で恋人を亡くしたヒロイン・愛実。「周りの人たちもいろんなことを抱えていますが、愛実は10年前の事故から、なんとなく時間が進んでしまっている状態。心の奥底にまだ亡くなった恋人がいる、という状況だったので、普通でいることを意識しました」と話す。
ラストシーンには恋人が残した楽曲を演奏し、歌うクライマックスも用意されている。
「ギターと歌は一から学んで、2か月ぐらい練習しました。練習前は不安だったのですが、監督ご自身が書き上げた歌詞がすてきだったので、自分自身も前向きな気持ちになれましたし、心を込めて歌うことができました」と振り返る。
保育士役も初めてだが、母は現役の保育士だという。
「母は喜んでくれましたが、お芝居をした後に、こんなに大変なことをしているんだと思いました。子どもの目線に合わせて腰を曲げて話をしたり、見えない苦労が多いんだなと感じ、改めて尊敬しました。ゲームをしながら、子どもたちから意見を聞き出すシーンもあったのですが、考えていた答えとまったく違うものが返ってきて、本当に難しかったです」
本作は2011年3月11日の東日本大震災がモチーフのひとつになっているが、「作品を通して、震災への向き合い方は改めて考え直しましたし、10年たっても、傷は癒えてないんだとも感じました。10年は長いようで短いですね」と話す。
劇中での生死を通じて、自身の死生観やエンタメへの考え方も見つめ直したという。
「この映画の中でも、演劇のチームも登場しますが、エンタメの大事さを痛感しました。私自身も、小さい時にドラマに勇気づけられたことを思い返しましたし、地元での支え合いというのもとても大事だと思いました」
14歳の時に地元・鹿児島のゲームセンターで友人とプリクラを撮影していたところ、現在の事務所から声をかけられ、08年に俳優デビュー。09年のアニメ映画「サマーウォーズ」(監督・細田守)では主人公(神木隆之介)が思いを寄せる夏希先輩を演じ、10年には役所広司主演の「最後の忠臣蔵」(監督・杉田成道)では大石内蔵助の隠し子役を演じ、数々の映画賞で新人賞を手にした。
「どちらの作品もたくさんの方に見ていただけましたし、転機になりましたので、現場の雰囲気はいまでもよく覚えています。役所さんが現場で『本当に自分がしゃべるように話すのがいいよ』と優しく言ってくださり、お芝居にも寄り添ってくれました。賞は監督のおかげで受賞できたのだと思っていますので、自信になったというよりも、環境に恵まれたなと思っています」と感謝する。
友人たちが就職活動をしていた20代前半には、焦りと不安もあったが、作品を積み重ねるうちに、自身の道も見えてきたという。この時、大きかったのは、ジョン・ウー監督が日本ロケした「マンハント」(18年)での刑事役での経験だった。
「自分の中で大きな経験になりました。監督に自分の気持ちをぶつけるのは初めてでしたが、いい作品を作ろうとする上で大事なことだと思いましたし、自分もこうやっていきたいと思いました。今後も、今しかできない役を大切にしながら、いただいた役は全力でやりたいと思っています」と決意を見せてくれた。
□桜庭ななみ(さくらば・ななみ)1992年10月17日生まれ。鹿児島県出身。2008年、ドラマ「栞と紙魚子の怪奇事件簿」で女優デビュー。主な映画出演作に「最後の忠臣蔵」(10年)、「ランウェイ☆ビート」(11年)、「天国からのエール」(11年)、「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」(15年)、「マンハント」(18年)などがある。