“コロナの女王”岡田晴恵が繰り返す警鐘 薄れゆく世間の関心に「絶対に忘れてはいけない」

白鴎大教授で感染症専門家の岡田晴恵氏の新刊小説『コロナの夜明け』が出版以来好評を博している。2019年末の新型コロナウイルス発生以来、多くの報道番組やワイドショー等で解説をする日々の裏で、“コロナの女王”とも呼ばれた岡田氏。約1年前にはコロナ禍の“秘められた闘い”を記した告白手記も出版したが、なぜ今回、あらためて小説という形式での出版に踏み切ったのか。同書に込めた思いを聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

小説『コロナの夜明け』を出版した岡田晴恵氏が胸中を告白
小説『コロナの夜明け』を出版した岡田晴恵氏が胸中を告白

約1年前にはコロナ禍の“秘められた闘い”を記した告白手記も出版

 白鴎大教授で感染症専門家の岡田晴恵氏の新刊小説『コロナの夜明け』が出版以来好評を博している。2019年末の新型コロナウイルス発生以来、多くの報道番組やワイドショー等で解説をする日々の裏で、“コロナの女王”とも呼ばれた岡田氏。約1年前にはコロナ禍の“秘められた闘い”を記した告白手記も出版したが、なぜ今回、あらためて小説という形式での出版に踏み切ったのか。同書に込めた思いを聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

ドラマ、アニメ、アイドル、K-POP、スポーツ…大人気番組が目白押しのお得キャンペーンを実施中(Leminoサイトへ)

――新刊が出版された現在の心境は。

「新型コロナウイルスは発生から約3年がたち、国内では7万人以上の方が亡くなりました。そのうち約5万人がオミクロン株が流行した昨年以降の死者数で、今年1月だけでもすでに1万人が亡くなっている。パンデミック対策をしてきた20年間のキャリアの中で、こんな災害とも言える状況を、ノンフィクションと小説という2つの形で記録に残せたことにホッとしている思いです。

 新たに『コロナ2019』の新名称に替わることや、マスクを取るか取らないかの議論も盛んですが、コロナはもう終わったことのような雰囲気になっている。感染して大変だったとか、身近な人を亡くした方や今も後遺症に悩まされている方以外は、みんなあの大変だった7波、8波の惨状を忘れ始めている。嫌な記憶を忘れることはメンタルヘルスとしてはいいかもしれませんが、社会や生活を守る方法に関しては絶対に忘れてはいけない。今回のコロナの記憶を後世に託すことがこの本の役目だと思います」

――今回、フィクションであり、複数の登場人物が現れる群像小説という形式を取った理由は。

「政治家や感染症の専門家だけじゃない、現場のコロナを診る医師や保健所、高齢者施設の職員たち、制約ばかりの学生生活に悩む大学生や全寮制の野球部員、入院できないままに亡くなった家族を待つ人など、さまざまな形で当事者であった普通の人々の経験を記録したいと思ったからです。一般の人である以上、名前を出すわけにはいかない。だから実録的に、取材した内容を限りなく正確に残す記録小説という形を取りました。今作では10人ぐらいの主人公が交互に登場しますが、全員にモデルとなった人物がいる当事者たちの群像劇でもあります。読者の方も、きっと共鳴できる誰かがいると思います。

 そして、これは記者さんならよくお分かりでしょうけど、フィクションの方が本当のことを描けるんですよ。ノンフィクションだと、書きたくても書けないことが出てくる。真実を教えてくれた人を追い詰めることになってしまうかもしれない。または、武士の情けと抑えた書き方をしないといけないこともある。でも、小説は創作だからこそ、実名ではとうてい書けないほどに踏み込んだ本音と真実が書けるんです。

 流行当時の記憶と取材をもとに書きましたが、正確さを規すために、当事者一人ひとりにゲラを送ったんです。リップサービスや忖度(そんたく)ではなく、あくまで正誤確認、事実確認という意味で。普通、ゲラの修正って削られることがほとんどですよね。それが、この本に関しては、関係者みなさんが当時の詳細な状況について赤裸々な言葉を書き足してくれた。それぞれの当事者がそれぞれの熱量で書き足したことで、ある意味、文学的な完成度としては下がったかもしれない。それでも詳細な記録小説としては大きな意味を持ったと思います」

校了後には自身も新型コロナに感染し39度の高熱に

――昨年末(12月28日)の出版から2か月あまり、このタイミングでの出版については。

「正月明けに第8波がありましたが、年明けに大流行するのはこの3年間の流行動態の傾向で分かっていたこと。本来の感染症対策は波の来る前、凪のときに行わないと間に合わない。何が何でも年内、年始からの流行前に出したいとあらかじめ出版の期日を決めて厳命していました。出版社の方も苦労したと思いますが、対策のために無理を言って年内に出しました。校了日は12月5日で、年明けからの第8波やインフルエンザとコロナの同時流行、プレハブ病床で地獄のような流行に直面する記述はすべて予測で書きました。しかし、結局すべてその通りになってしまい、私自身コロナで39度の熱が出て、体力的にも精神的にもつらかったです」

――コロナに対する世間の関心は徐々に薄れてきている。マスク自由化、5類移行など、現状について思うところは。

「まるで感染者数と反比例するように、報道量も減っていますよね。経済を動かすことも大事ですが、それと抱き合わせで必要な人が適切な医療にかかれる体制を整えることが必須です。2類、5類と言われていますが、2類は結核と同じで排菌している間は全員入院、5類はインフルエンザと同じで病院で検査し治療薬を処方する感染症です。コロナは今や医療機関での検査もままならず、自分で検査キットを買って検査し、陽性でも自宅療養が中心。とうの昔から2類相当の対応なんかできていません。コロナに限らずインフルエンザでも風邪でも、まずは誰もが具合が悪かったら病院にかかれて、薬がもらえる体制を整えること。国民皆保険制度は日本が誇れる、誰もが等しく医療にアクセスできる制度でした。これをずっと守り続けることが大事です。

 マスクに関しては、大学教員として、つけずに卒業写真を全員で撮りたい、晴れ着にマスクなしで卒業式に出してあげたいという思いはあります。今年の卒業生は入学からろくに同級生の顔を見られていませんから。ただ、3年間マスク生活が続き、いろいろな飛沫(ひまつ)感染の感染症にかからず過ごして来たわけで、さまざまな感染症に対する免疫も低下している。もちろんコロナウイルスもまだ感染者はいるわけで、マスクを外すことでいろんな感染症のリスクが一気に戻ってくることも……。もちろん、いつかはマスク生活から抜け出さなければなりませんが、外せるシーン、着けておくべきシーンを分けて着脱する。まずは、そもそも流行時に普通に医療を受けられる体制を整えることが基本ではないでしょうか」

――今後の活動、啓発については。

「告白手記(ノンフィクション)の形式を取った前作はどうしても読める人が限られますが、コロナは国民全体の問題。本作はうちの大学の学生から中学生まで、誰でも気負わずに読めるということを目指しました。ただ、今の若い人は動画なんですね。学生もみんな暇があればYouTubeを見ているという時代で、本書の中でもその問題については触れています。そういう意味では、より国民、若者の理解を得るためには映像化が必要なんだろうな、という思いはある。ただ、ここから先はもう私の手に負えることではないですから。本作がコロナ対策に対する私のラストカードだと思っています」

■岡田晴恵(おかだ・はるえ) 白鴎大学教育学部教授。共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士号を取得。国立感染症研究所、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員としてドイツ・マールブルク大学医学部ウイルス学研究所に留学、経団連21世紀政策研究所シニア・アソシエイトなどを経て、現職。専門は感染免疫学、公衆衛生学。テレビやラジオへの出演、専門書から児童書まで幅広い執筆、講演活動などを通して、新型コロナウイルスを始めとする感染症対策に関する情報を発信している。著書に「秘闘 私の『コロナ戦争』全記録」(新潮社)、「コロナの夜明け」(角川書店)など。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください