介護現場のモラル低下がコロナ禍で加速 「虐待は氷山の一角」介護士が明かす壮絶な実態

激務・薄給・人手不足のイメージに加え、ときに施設内での虐待がクローズアップされるなど、ネガティブな印象の尽きない介護福祉業界。業界内からは、経営優先の姿勢から意図的に高齢者の介護度を上げて衰弱した状態で管理したり、死期を早めたりといった残酷な実態を指摘する声も上がっている。いったい、実情はどうなっているのか。介護福祉士歴13年で、現在は介護関連のコンサルタント事業を行う和希(@kazuki201807)さんに、介護の現実と今後を聞いた。

ネガティブな印象の尽きない介護福祉業界(写真はイメージ)【写真:写真AC】
ネガティブな印象の尽きない介護福祉業界(写真はイメージ)【写真:写真AC】

ひどい場合は意図的に寝たきりに…口から栄養を入れ死なないように「管理」

 激務・薄給・人手不足のイメージに加え、ときに施設内での虐待がクローズアップされるなど、ネガティブな印象の尽きない介護福祉業界。業界内からは、経営優先の姿勢から意図的に高齢者の介護度を上げて衰弱した状態で管理したり、死期を早めたりといった残酷な実態を指摘する声も上がっている。いったい、実情はどうなっているのか。介護福祉士歴13年で、現在は介護関連のコンサルタント事業を行う和希(@kazuki201807)さんに、介護の現実と今後を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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 和希さんは短大、専門学校を卒業後、22歳から介護福祉士として現場に立ち、ショートステイなどを中心に介護歴は13年目を迎える。2020年からはSNS上などで介護に関する問題提起を行い、昨年からは現場を離れ介護問題解決のためのコンサル業を行っている。実際に介護職に向けられる世間の目とはどういったものなのか。

「人口あたりの高齢者の割合、高齢化率によって地域差があると感じます。あくまで個人の体感ですが、高齢化率が30%以下の地域ではいまだに『自分の親を他人に預けるなんて』とか『介護職なんて恥ずかしい』といった偏見がある。私が就職した10年ほど前までは、介護職というだけで結婚の障害となったり、ともすれば職業差別の対象でした。皮肉にも高齢化が進んだことで、『率先してやりたくはないけど、世の中のためには必要な仕事だよね』とようやく理解が得られ始めたと感じています」

 ようやく社会に必要性が認められてきた介護職。一方でときに職員による虐待が問題化するなど、まだまだネガティブな印象が拭えないのも事実だ。経営上の都合から、感情面のケアまでを含めた「介護」ではなく、食事のカロリー、入浴頻度、おむつ交換の回数など、すべてをマニュアル化し「管理」することに重点を置く介護施設の現実もあるという。和希さんは「福祉の仕事は、心や生活にゆとりのない人間にはストレスになることがあります。介護の現場はどこも疲弊していて、虐待は氷山の一角です」と実態を語る。

「汚い言い方になりますが、体が元気な状態で歩き回られ転倒リスクのある要介護3の認知症高齢者に付き添いの人的リソースを割かれるより、寝たきりの要介護5の高齢者にご利用いただいた方が収益が上がるのが介護ビジネス。入所系施設はベッドの数で入所定員が決まっているため、売り上げを最大値にしようとするスタイルではおのずと介護度を上げることになります。ひどい場合、意図的に入居者の介護度を上げ寝たきりにして、食事は口から栄養を入れる作業、あとは排せつ静養といった基礎支援だけして、死なないように管理しているだけ……そう職員が感じている場合すらあります。私自身も過去の介護職員時代、リハビリを通した機能回復を会社に提案したことがありましたが、上司に『お前はバカか! 入居者が元気になったら売り上げが下がるだろうが!』と叱られ、却下されました。

 効率化や経費削減のため、食事は一定量、お尻が汚物で汚れていても、今日はお風呂の日じゃないからと清拭のみで洗わない。介護職員がそんな対応に罪悪感を抱いても、会社の方針には逆らえません。その結果、お金のための作業と割り切って心を無にして働く職員も増えているように感じます。むしろそうやって心を殺して働かなければ、自分の心を守れないという現実もある。さらにコロナ禍で面会謝絶が進み、外部との交流の機会がなくなったことで職員が問題意識を持つきっかけすら失われつつある。介護現場のモラル低下、倫理観のマヒはここ数年でより顕著になっていると感じます」

劣悪な待遇面の背景にある“介護保険料の中抜き”の実態

 介護現場を取り巻く壮絶な現実。「心や生活にゆとりのない人間にはストレスになる」とも言われる介護職だが、諸悪の根源である劣悪な待遇面を改善することはできないのだろうか。和希さんは意外にも「普通にやってれば介護は利益率の良いビジネス」と見解を語る。

「自分は30床あるショートステイ施設を管理していましたが、介護保険料を含めご利用者様1床あたり1日1万2千円程度の収入となります。単純計算で毎月1000万円、年間1億円以上の売り上げになる。ショートステイは緊急受け入れ先でもあるので満床にすることはありませんが、人件費を含めた支出を差し引いても利益率は10%前後はありました。ではなぜ業界全体で職員の待遇が上がらないのか。理由はさまざまですが、一つ例を挙げるとすれば人材紹介による採用費の高騰です。人手不足の影響で人材紹介業者に職員を紹介してもらい、紹介料という形で費用が発生する影響が小さくありません。“介護保険料の中抜き”と陰で言われている現象です。

 介護業界は人出が少ないため人材の流動性が激しく、半年周期で職場を転々とする人も多い。年収400万円の職員を1人雇うとなると、約100万円の人材紹介料がかかります。このうちの何割かを、紹介業者が『就職祝い金』として転職者に支給するケースもある。紹介業者は稼働率が上がり、転職者は目先のボーナスが入るという“Win-Win”の関係ですが、介護報酬は上限が決まっているため、就職した会社で職員が貰う後々の収入(賞与等一時金)は目減りしていきます。これではいい人材が育つはずもなく、給料はいつまでたっても上がりません」

 仲介業者による中抜き構造。似たようなことは、実は高齢者の預け先を探す入所紹介でも起こり得るという。

「高齢者は生活環境が変化すれば大なり小なりストレスを感じるもの。入所後のアフターフォローとしてささいな不平不満をヒアリングし、早期退去による違約金が発生する期間(6か月等)を過ぎたら別の施設側とつながり、入所先を転々とさせて紹介料を荒稼ぎするという話も耳にします。純粋にその高齢者自身が良いと思う施設をマッチングしようと施設を探してくれる紹介業者と、単純に自社の利益を上げるために紹介料の高い施設を紹介する紹介業者。同じサービスでも、そのサービスを取り扱う人間によって内容は大きく異なります。

 ご家族の入所先を探したことのある方なら分かると思いますが、乱立した介護施設の中でどの施設を選んだらよいかなど、これまで介護とは縁のない生活をしていた方には分かりません。そういった観点から見れば入居紹介業者というビジネスは有用であり、施設側も紹介してもらえるようサービス向上につながれば、売り手にも買い手にも地域にも良いビジネスなのですが……。結局はその制度を活用する人間次第なんです」

 利益優先の経営者、聞こえの良い言葉で転職を促す人材紹介業者、目先の利益につられ自ら考えようとしない介護職員、十分な社会人教育をしないまま業界に学生を送り込む教育機関……。介護業界に関わるすべての人間に責任があり、まわりまわって自分たちの首を絞める悪循環に陥っていると和希さんは言う。

「介護保険制度って、頭のいい官僚の方たちが考えているだけあって、本来は教科書通りにやっていれば誰でもちゃんと利益が出せる、とてもよくできたシステムなんです。介護福祉士の年収が440万円で、昇進すれば年収500~600万円の職員もいる。介護福祉士同士で結婚しても世帯年収1000万円ならそれなりに暮らしていける、そういう制度になっているんです。それがもうからないということは、どこかで間違った運用をしていたり、誰かがズルしていたり、裏で搾取をしているということ。余計なことをせず公明正大にやっていれば、いずれは待遇もイメージも向上するはずなんですが……」

 年々歩みを進める超高齢化社会。介護業界が負の連鎖を断ち切り、待遇やイメージの改善が実現する日は来るか。

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