河合優実「監督の実体験を役に重ねた」 一発撮りを提案、初主演映画で見せた俳優魂
俳優の河合優実が初主演する映画『少女は卒業しない』が2月23日に公開される。喪失を抱えた高校生・山城まなみには、メガホンを取った中川駿監督が明かしてくれた、ある実体験を重ねたという。「台本の最後のページに、監督からもらった気持ちなどを書き止め、励みにしていた」と撮影を振り返っている。
演じた少女の感情を台本に書き留めた
俳優の河合優実が初主演する映画『少女は卒業しない』が2月23日に公開される。喪失を抱えた高校生・山城まなみには、メガホンを取った中川駿監督が明かしてくれた、ある実体験を重ねたという。「台本の最後のページに、監督からもらった気持ちなどを書き止め、励みにしていた」と撮影を振り返っている。(取材・文=西村綾乃)
映画は『桐島、部活やめるってよ』『何者』で知られる直木賞作家・朝井リョウの同名連作短編小説をもとにしたもの。廃校が決まった高校を舞台に、世界の全てだった場所と決別しようとする4人の少女たちの姿が描かれている。
「中川監督と初めて顔を合わせた日に、監督が経験されたお母さまとのある私的なお話を聞きました。そのときの心情を伺い、『まなみが背負っているものを、こういう風に表現してほしい』と言われて、監督の思いを投影していこうと心に決めました。とてもプライベートなことをシェアしてくださった。その事実だけで信頼できると思いました」
――監督と顔合わせをした際に、体験談と聞いたという河合。どんな言葉が印象的だったのだろうか。
「監督がある経験をされた後に、『時間が止まってしまった』というお話は、大きなヒントになりました。お母さまとの時間はそこで止まってしまったけれど、世界も自分も進み四季も変化して行く。取り残していく罪悪感があった』と仰っていました。このエピソードから、頭に浮かんだことを声に出して、その言葉を耳で聴くことは、その感情を受け入れようとしていることでもあるのかなと想像しました」
――監督の思いを大事にしたいと臨んだ撮影。演じる上で大切にしていたことは、どのようなことだったのだろう。
「経験がなくて想像で足りないところは、監督から聞いた体験をベースにまなみに重ねて行こうと思いました。台本の後ろの方に、メモができるページがあるので、そこにまなみがどういう思いで時間を過ごしたのかなど、思いついたことを書いていきました。まなみは卒業式で『答辞』を読む生徒に選ばれるのですが、本当は前進できる自分ではなくて。でも答辞を読むということは、卒業、つまり前進を受け入れるということ。その戸惑い、抵抗について『声に出して終わらせる』、『ピリオドを打つ』、『別れを宣言する』など。撮影の前にテーマのように浮かんだ言葉を大切にしていました」
――監督の思いを大事にしていた一方で、俳優として「新鮮な感情を捉えてほしい」と、河合自ら一発撮りを提案したという。
「撮影したラストシーンで、彼自身は映らないカットの待ち時間にふと見ると、少し離れた所からこちらに真っすぐ向かいじっと座って(役名の)駿のように見守っていてくれてて、ハッとしました。答辞の部分の一発撮りをお願いしたのは、最初が一番新鮮な感情だと思ったからです。撮影をする前には、監督とどんな風に撮るのか、どこからカメラを向けるのか、まなみの感情はどんな風に動くのかなどを細かく話し合いました。まなみを含め、登場する少女たちの揺れ動く気持ちも感じることができる走馬灯のようなシーンに仕上げて頂いたと思います」
――河合さん自身の卒業式の思い出は?
「高校の卒業式の後にした、お別れ会が思い出に残っています。有志でバンドを組んで出たりしたのですが、私は友だちとペアでダンスを披露することに決めて。背景に何かストーリーを敷くのが面白く、ダンスで世界観を作ることを楽しんでいた3年間でした。その時は、RADWIMPSの曲を組み合わせて5分ぐらいの長さにした音源を作り、死別した恋人同士の幻の再会みたいな設定で、友だちが彼女役。私は彼氏を務めて。終わった後に、クラスメイトだったバスケットボール部の男の子が『オレ、ダンスを観て感動したことなかったけど、きょう初めて感動したよ』って言ってくれて。この言葉がうれしくて。自分が好きなダンスをして喜んでくれる人がいる。そのことがいまの仕事につながっています」
□河合優実(かわい・ゆうみ)2000年12月19日、東京都生まれ。19年に女優としてデビュー。映画『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』での演技が高く評価され、第64回ブルーリボン賞新人賞などを獲得した。3月には映画『ひとりぼっちじゃない』の公開を控えている。