堀ちえみ、舌がんからの歌唱ステージ復活 “努力の人”が切り開いたデビュー40年の物語【記者コラム】

麻倉未稀が歌う『What a Feeling』の胸躍る勇壮なメロディー、そしてお決まりの「やるっきゃない!」の群舞……。1983年からTBS系で放送がスタートした初主演ドラマ『スチュワーデス物語』の爆発的人気を支えた主題歌と名物シーンだ。立派なCAになるために厳しい訓練に耐え続ける主人公・松本千秋のストーリーを当時、学生だった私はテレビの前で応援していた。以来40年。その千秋を演じた歌手の堀ちえみが7児の母となって目の前に座っていた。

堀ちえみ【写真:荒川祐史】
堀ちえみ【写真:荒川祐史】

口腔がん発症率が30年前と比較して4倍以上上昇

 麻倉未稀が歌う『What a Feeling』の胸躍る勇壮なメロディー、そしてお決まりの「やるっきゃない!」の群舞……。1983年からTBS系で放送がスタートした初主演ドラマ『スチュワーデス物語』の爆発的人気を支えた主題歌と名物シーンだ。立派なCAになるために厳しい訓練に耐え続ける主人公・松本千秋のストーリーを当時、学生だった私はテレビの前で応援していた。以来40年。その千秋を演じた歌手の堀ちえみが7児の母となって目の前に座っていた。(文=鄭孝俊)

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 2019年2月に口腔がん(舌がん)、同4月に食道がんの手術を受け懸命にリハビリを続けてきた。舌がんの手術は11時間に及び舌の6割を切除。太ももの組織を移植する再建手術が施された。専門医師によると、舌がん手術後の発話の特徴としては子音ではタ行、ダ行、カ行、ガ行、母音ではイの発音が不明瞭になりやすいという。

 インタビュー冒頭、堀は「聞き取りにくいところがあったら言ってくださいね」と声をかけてくれた。実際の印象としては、手術の影響はゼロとは言えないが、会話に支障はほとんどなく日常生活を過ごすには問題なさそう、ということだ。確かに最初は聞き取りにくいワードがいくつかあった。それが時間の経過とともに次第に発話がどんどん滑らかになり後半は昭和アイドルやドラマの思い出、子どもの教育論などを話題に予想以上に会話が弾んだ。

 特に興味深かったのは「当時は『歌だけのアイドルはダメだ』と言われた」と振り返っていたところ。バラエティーやクイズ番組に出演し、司会やライブ、コント、写真集の撮影、ミュージカルもやって、というように何でもこなさなければいけなかった、という。その理由はこうだ。「1枚のシングル、1枚のアルバムを発売するのに莫大な時間とお金と労力がかかり簡単に作品を出すということができなかったから」。

 レコーディングのコストを捻出するために当時のアイドルはあらゆる仕事をしなければいけなかったのだ。今なら“打ち込み”(パソコンの音楽ソフトに入力して楽曲データを作ること)で済むところを、当時は多くの人手と資材が必要とされた。当時まだ15歳、16歳の少女の両肩には想像を絶する重圧がかかっていたはずだが、堀は全部をしっかり受け止めた。インタビュー中に感じた堀のたくましさは、その頃すでに構築されていたのかもしれない。

 56歳の誕生日を迎える15日にまずは東京でデビュー40周年記念コンサートを開催する。いよいよファン待望の復活ステージが披露されるが、ここに至るまでの4年間の道のりは決して平坦ではなかったことをファンはよく知っている。厳しいリハビリと医療従事者、言語聴覚士、ボイストレーナーらの支え。数多くの人々の応援と協力を背負って、堀はファンが待ち続けた40周年記念コンサートの舞台に立つ。その姿は厳しい訓練に耐え続けたかつてのハマリ役・松本千秋の姿と重なって見える。まさに“努力の人”と呼ぶのがふさわしい。

 ところで、堀が患った病気については気になるデータがある。国立がん研究センターによると、口腔がんの発症率は30年前と比較して4倍以上も上昇しており、これは世界的な現象という。予防策としては喫煙や飲酒量を控えることが挙げられるが、近年の急増ぶりを見るとストレスや生活不摂生など別の要因も関わっている可能性が高いという。口腔がんの発症率が急増しているからこそ堀の復活ステージには大きな意味がある。がんに限らず難病で苦しむ患者、その家族はたくさんいる。大手術と苦しいリハビリの数々を乗り越えてきた堀の力強い“ストーリー”が、希望の光となることを願いたい。

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