地域猫活動って何? 不妊去勢手術だけではない役割 発案者に聞いた実態と課題

近年、引き取り手のいない犬や猫の駆除や殺処分が取り上げられ、多頭飼育崩壊や動物虐待も問題視されている。昨年5月には群馬県伊勢崎市で「地域猫」を狙ったとされる虐待事件が、また同12月には仙台市青葉区でも地域猫の不審死がニュースになった。今回、標的にされた「地域猫」とは、そもそも何を目的にしてどのような活動を行っているのか。活動内容を広めていく一環として、現在ではACジャパンから世界的キャラクター「ハローキティ」とコラボしたCMも放映されており、関心を集めている地域猫活動。その意義と実態について発案者に話を聞いた。

猫と人の共存を目指す「地域猫」活動に迫る(写真はイメージ)【写真:写真AC】
猫と人の共存を目指す「地域猫」活動に迫る(写真はイメージ)【写真:写真AC】

地域住民全体での行動が不可欠

 近年、引き取り手のいない犬や猫の駆除や殺処分が取り上げられ、多頭飼育崩壊や動物虐待も問題視されている。昨年5月には群馬県伊勢崎市で「地域猫」を狙ったとされる虐待事件が、また同12月には仙台市青葉区でも地域猫の不審死がニュースになった。今回、標的にされた「地域猫」とは、そもそも何を目的にしてどのような活動を行っているのか。活動内容を広めていく一環として、現在ではACジャパンから世界的キャラクター「ハローキティ」とコラボしたCMも放映されており、関心を集めている地域猫活動。その意義と実態について発案者に話を聞いた。(取材・文=関臨)

「野良猫をいなくするのではなく、いてもよいからトラブルをなくそうというのが地域猫の考え方です」――。「地域猫」発案者の黒澤泰さんはこう説明する。

 神奈川県動物愛護協会のホームページによると、「地域猫」とは「飼い主のいない猫のいる地域住民が主体となり、不妊去勢手術や給餌、清掃などにルールを決めて管理しトラブルを減らす活動のこと」と定義されている。よく混同される活動として「TNR活動」がある。こちらは「飼い主のいない猫の繁殖を抑え、自然淘汰で数を減らしていくことを目的に、捕獲し、不妊去勢手術を施して元のテリトリーに戻す活動」(同HPより)である。「地域猫」活動は、「TNR活動」を行った後、猫とうまく共存しながらトラブルをなくしていく取り組みであり、同義ではないのだ。

 黒澤さんによると、1995年前後では猫にまつわる問題は処分が基本だったという。しかし、「それを繰り返しても何の解決にもならない」と考えた黒澤さんは97年に、「地域猫」という言葉を提唱。当時、横浜市の保健所で勤務していた黒澤さんは「猫がいるのはしょうがない。これ以上増えるのを止め、地域におけるトラブルをなくしたいと考えた」そうだ。活動のヒントは「ある団地で『みんなのねこ』という取り組みを行っていると聞いたのが最初です。活動にかかる不妊去勢手術代やエサ代などの費用は、地域のバザー等で得た資金でまかなっていたそうです。他の地域でもこういう形で地域住民みんなが協働してトラブルにならないようにしたら良いのでは、というところがスタート」と明かした。

 活動を始めるも順風満帆にはいかなかった。活動を立ち上げた当初は行政の内部でも、いわゆる野良猫への対応は排除や処分が基本だったため、保健所での理解はなかなか得られなかったという。また事業化するにあたっての名称決めでも問題が。「当初は『ホームレス猫防止対策事業』という名前で始めました。しかし、ホームレスの方々から苦情が入り、名前を変更した、ということがありました」と黒澤さんは困難を振り返った。

地域猫活動は「トラブルがなくなった時点」

 地域猫活動の本質について黒澤さんは「単に猫を保護・駆除する、といった話ではありません。これは猫の問題ではなく、地域の環境問題として考える必要があります。地域のコミュニティーを使って話し合い、時間をかけて合意形成する必要があります」と強調する。「よく猫が好きではない方から『何とかしてほしい』と言われますが、猫は狂犬病予防法で明確な規定がある犬とは違い、根拠となる法律がないため、行政が捕獲・処分することはできません。また、猫を違う場所に移動させることも動物愛護法第44条の観点から犯罪に当たります。ですから、発想を転換して、その地域でうまく管理し、みんなで考えてトラブルをなくすことが必要です」と説明した。

 活動が浸透する中でもまだまだ課題がある。やはり何といっても猫が嫌いな人から活動の理解を得ることだ。「私がよく言うのは一番の協力者は『文句を言わない』ことです。『反対だ!』と声を挙げるのではなく、黙って活動を見守ってほしい。逆に観点を変えて、猫たち、そして活動の監視役になってもらえれば。そうして地域全体で役割を与えていけば、活動を行っていくことにつながっていくと考えています」。

 また、活動が少しずつ広まっていく現在、人それぞれで考え方に齟齬(そご)が生まれてしまっているという。地域猫は、行政が仲介役を務め、経験豊富な動物愛護ボランティアがアドバイスを行いながら、地域住民が実際の世話を行っていく活動だ。さらに地域住民の中でも給餌、掃除などの役割分担を決めるが、次第にボランティア任せになってしまうこともある。「活動の本質が伝わっておらず、ボランティアの方に任せてしまい、地域住民が全く関与していないというケースがあります。ボランティアはあくまでボランティアであり、その地域に長く深く関わることができるわけではありません」。

 また、「逆にボランティアの方が『もう待てない!』となり、不妊去勢手術等、勝手に世話をしてしまう場合もあります。すると住民は何もやらなくなってしまう。これは活動において最悪のケースです。住民が中心になって行わないと何の解決にもなりません。放っておいたら当然数は増える。何もしなかったら当然猫による被害は続く。それでも何もしないのであればその地域の責任であり、しょうがないのでは? という割り切りも必要になってきます」と活動の難しさを語った。

 ちなみに「地域猫」ではオスは右耳、メスは左耳の一部にカットを入れることを推奨しているという。「虐待だ」との声もあるというがその理由は? 「ひと目で不妊去勢手術が済んでいることをわかるようにしています。もちろん施術は不妊去勢手術中、全身麻酔が効いている中で行われていますので問題はありません。一度目印としてピアスをつけたことがあり、その際は周りからも「かわいい」と評判だったのですが猫が気にして取ってしまうため、断念しました。『地域猫』である証というわけではなく、不妊去勢手術が済んでいることを表しています」(黒澤さん)。

「地域猫」が誕生して約30年。「真の地域猫活動としてあまり普及していない」と黒澤さんは嘆く。それでも人と猫が暮らしやすい社会の実現のため、現在までに全国で約350回の講演を行うなど精力的に活動を行っている。「地域猫活動の終着点はその地域におけるトラブルがなくなった時です」。より快適に暮らしていくために、一人一人が「地域猫」への理解を深め、共存できる社会を作っていくことが必要だ。

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関臨

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