障がい者の“負い目”なくすファッションを 福祉業界のオシャレ番長が気づいた内面の障害

ときに義手や日本刀を片手に、ときに車いすに腰かけながら、スタイリッシュなスカートをまといポーズを取る男性の姿がネット上で話題を呼んでいる。障がいがある人もない人も、誰もがオシャレに着こなせるファッションを提案するのは、一般社団法人日本障がい者ファッション協会理事の平林景さんだ。昨秋、ファッションの聖地・パリで車いすでのファッションショーも実現した“福祉業界のオシャレ番長”平林さんに、「障がい者×ファッション」の可能性を聞いた。

義手を取り入れたファッションを披露する日本障がい者ファッション協会の平林景さん
義手を取り入れたファッションを披露する日本障がい者ファッション協会の平林景さん

持病が悪化し美容師の道を断念、身近な人の存在がきっかけで福祉の道へ

 ときに義手や日本刀を片手に、ときに車いすに腰かけながら、スタイリッシュなスカートをまといポーズを取る男性の姿がネット上で話題を呼んでいる。障がいがある人もない人も、誰もがオシャレに着こなせるファッションを提案するのは、一般社団法人日本障がい者ファッション協会理事の平林景さんだ。昨秋、ファッションの聖地・パリで車いすでのファッションショーも実現した“福祉業界のオシャレ番長”平林さんに、「障がい者×ファッション」の可能性を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 自身もADHD(注意欠如・多動性障がい)の診断を受けている平林さん。学生時代からファッションが好きで、20代前半までは美容師をしていたが、25歳のとき持病のアトピーが全身に悪化。手が動かないくらい腫れてしまい、ハサミを握れなくなって美容師の道を断念した。その後は美容学校の教員を務めていたが、身近な人が発達障がいと診断されたことがきっかけで一念発起。勤め先の学校法人が大学で障がい者療育を始めるにあたり、福祉の道に踏み出した。

「自分もADHDの当事者なんですが、学生時代に『天然パーマの髪の毛を何とかかっこよくセットしよう』といじっているうちにヘアカットに興味を持ち、好きこそ物の上手なれで美容師になりました。一方で、日本の障がい児童療育は短所を平均まで引き上げよう、日常生活で困らないよう凸凹の凹を埋めましょうというもので、違和感を感じていた。発達障がいの子が苦手なものを補ってもそれを職業にはできませんが、例えば昆虫博士とか、鉄道マニアとか、好きを伸ばした先で仕事につながる例はたくさんある。彼らの好きを伸ばすための場所を作ろうと、大学ではダンス、アート、音楽、ITなど、いろんな分野のコースを設けました」

 その後、自身でも障がい児童を預かる放課後等デイサービスの会社を起業。どうしても暗くなりがちな障がい者福祉の世界において、何か明るく華やかなことができないかと模索していたとき、知人からファッションショーの頂点パリ・コレで、車いすでのランウェイが一度も実施されていないという事実を耳にする。

「このダイバーシティー(多様性)の時代にまさかと思ってその場で調べましたが、確かに自分が検索した限りでは出てこなかった。社会が目指す理想と現実の乖離(かいり)に衝撃を受けました。それならばパリで車いすでのファッションショーを実現しよう、それもただランウェイするのでなく、座ることで完成する、車いすだからこそカッコいいファッションを追求しようと、翌日から協会立ち上げに向け動き出したんです」

「介助されて着替えてもファッションを楽しめない…」内面の問題も

 車いす生活の当事者に話を聞く中で見えてきたのは、試着室に入れないといったハード面での問題の他、他人に介助されて着替えても心からファッションを楽しめないという内面の問題だった。

「オシャレは生きるうえで必要不可欠なものではなく、自分の個人的な欲求のために誰かの手を煩わせるのはいたたまれないというものでした。自分も一時期ぎっくり腰で車いす生活だったことがあるのですが、日本の公共交通機関の対応は素晴らしく、電車の乗り降りのときなど大変ありがたかった一方で、非常に難しい問題ですが、毎回お世話になることに変な負い目を感じたのも事実です。介助を前提とした制度設計では、車いすや障がい者の方が一生申し訳なさを感じながら生きていかなければならず、それは社会の側が彼らの人生の障害となっていると考えることもできる。それならば、介助を必要とせず、誰でも自分で着替えられるファッションを作ってみようと」

 目指したのはユニバーサルデザインにオシャレで心躍るような付加価値、エンジョイビリティをプラスした「NextUD(ネクストユニバーサルデザイン)」。車いすの人でも簡単に脱ぎ履きできる巻きスカート「bottom’all(ボトモール)」を皮切りに、誰もがオシャレに着こなせることをコンセプトとしたファッションを提案、昨秋には念願だったパリでの車いすファッションショーも実現した。

「昔は変わった人という扱いだったところに、発達障がいやADHDといった診断名が付き、救われた人がいる一方で、障がいがあるからかわいそうという偏見が進むのは好ましいことではありません。ファッションの面白いところは、見た瞬間『カッコいい』『かわいい』と、一瞬で価値感や固定概念をひっくり返せるところ。義手や義足の技術やデザインも進歩していますが、ファッションの力で障がい者が『かわいそう』というイメージを『カッコいい』『憧れる』というところまでひっくり返したい。世界中のブランドが注目する舞台で、ネクスト・ユニバーサルデザイン・コレクションを開催するのが目標です」

 目指すのは“障がい者のためのファッション”ではなく、障がいがある人もない人も、“誰もが憧れ着てみたくなるファッション”。当面は2025年の大阪・関西万博のひのき舞台を目標に、平林さんの挑戦は続く。

次のページへ (2/2) 【写真】フランス・パリで行われた車いすファッションショーの様子
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