育児中のリスキリング、騒動過熱に当事者困惑「悪いことしてるのかな…」 岸田首相に感謝も

育休中は本当にリスキリング(学び直し)ができないのか。岸田首相の発言から育休中の時間の使い方について、さまざまな議論を呼んでいる。リスキリングを全面的に否定する意見が大半の中、育児の合間を縫って努力し、スキルアップに励んでいる親は今回の騒動をどう感じたのか。2児を育てながらウェブデザインの勉強をしている島根県在住の母親Aさんに聞いた。

育児中のリスキリングは是か非か(写真はイメージ)【写真:写真AC】
育児中のリスキリングは是か非か(写真はイメージ)【写真:写真AC】

未就学児2人を育てながらウェブデザインの勉強をしている母親を取材

 育休中は本当にリスキリング(学び直し)ができないのか。岸田首相の発言から育休中の時間の使い方について、さまざまな議論を呼んでいる。リスキリングを全面的に否定する意見が大半の中、育児の合間を縫って努力し、スキルアップに励んでいる親は今回の騒動をどう感じたのか。2児を育てながらウェブデザインの勉強をしている島根県在住の母親Aさんに聞いた。

「育休中は暇だろうと私も産むまでは思ってました。命を預かり育てることをなめてました。そういう生活実感なしに子育てを語ってしまう人たちが少子化政策をやれるのか。岸田さんもぜひ、新生児~乳児育児を半年みっちり体験してください。あなたこそリスキリングが必要です!!と画面に話しかけたわ…」

 1月30日、強烈な文面で岸田首相にあきれたのは、元TBSアナウンサーでエッセイストの小島慶子さんだった。2児の子どもを育てた実体験をもとにしたツイッターの投稿には、子を持つ親から多くの共感の声が寄せられた。

 一方で、多忙な合間を縫って、コツコツと勉学に励む母親もいる。30代のAさんは未就学児2人を育てながら、リスキリングにも力を入れている。専門はウェブデザインで、「育休中にウェブ系のスキルを身につけている方をよくSNSで見かけるようになり、自分にもできると思ったため」と、他の“先輩”たちに影響を受けたことがきっかけだった。

 自身の親との同居はなく、日中はワンオペ状態。にもかかわらず、勉強時間は平日2~3時間を確保している。また、家族で過ごせる土日祝日は全くしないなど、メリハリをつけている。

「確かに育児は大変だし、睡眠を削らないと勉強の時間を確保できません。ただ、できるわけがないとは思いませんし、決めつけるのも違う気がします。実際、育休を使って勉強をしている人はたくさんいます」と主張する。

 育児で最も大変な時期と言われるのは、出産後、新生児からの数か月だ。「魔の3週目」などの言葉があるように、授乳とおむつ替え、ギャン泣きなどの対応で親は睡眠時間を削られ、極限状態に追い込まれる。もちろん、この時期にリスキリングを進めるのは至難の業と言える。

 ただ、その後は子どもの成長具合にもよるものの、次第に寝てくれる時間が増える。“ネントレ”(寝かしつけのトレーニング)に成功すれば、さらにまとまった時間を寝てくれる。親の肉体的、精神的な負担は軽減され、時間の使い方に余裕が生まれてくる。Aさんは「3時間ごとの授乳も、最初の3か月程度です」と主張する。夫も育休を取るなど、周囲の理解もあれば、自身が体を休め、リフレッシュする時間にあてることもできる。

「勉強はやれる人はやれるし、できなくても怠けているわけではないし、時間が取れるかどうかは、そもそも子どもの性格にもよります。だからこそ、『子育てしたことがない人が言っている』という批判コメントも私はあまりしっくりはきていません。確かに、この政策の方向はトンチンカンな気もしますが、頑張る人を後押しするというのはありがたいと思っています」と岸田首相の発言を前向きに受け止めた。

騒動の過熱で“両立”する親が肩身の狭い思いを… 「悪いことしてるのかな」

 アクシス株式会社が運営する転職・キャリアノウハウメディア「すべらない転職」が1月30日に、日本国内で働く20代から50代300人を対象に行った「リスキリング」に関するインターネット調査では、「産休・育休中のリスキリングは可能だと思いますか?」との問いに対し、「はい」が126人(42%)、「いいえ」が174人(58%)と、意外に肯定派も多かった。

 幼い子は寝静まる時間も早い。深夜や早朝の時間、子どもが昼寝をしている間などの時間をどのように使うかは自由だ。騒動が過熱した結果、「育休中にリスキリングなんて…」との世論が独り歩きし、実際に学び直しを行っている人が偏見の目で見られてはいけない。

「スキルアップのために育休中に頑張っている人たちが批判コメントによって『自分の育児は手を抜いているのかな…』とか『周りに助けてもらいながら勉強するのはいけないのかな』など、悩んでしまうんじゃないかと。私自身も、育児も勉強も頑張ってるのに、なぜか悪いことしてるのかな…と思ってしまいました」とAさんは訴えた。

 ネット上には休日のどちらかを父親がワンオペで育児し、自身は予備校に通って資格の取得を目指している育休中の母親もいた。法改正により、男性育休の取得が進むと期待されるこれからの時代。育休中にリスキリングができるかどうかは、“育児の協働”もカギとなるだけに、広い視野を持っての対応が望まれる。

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