日本発のダンスのプロリーグ・第一生命 D.LEAGUE 22-23。全12チームが凌ぎを削る今シーズンのなかでも優勝候補として呼び声高いクランプアーティスト集団FULLCAST RAISERZ。そのチームを引っ張るディレクターのTWIGGZ “JUN”は日本にクランプダンスを持ち込み、日本のクランプシーンの礎を築いたレジェンド的存在。鍛え抜いた筋肉を武器にエナジー溢れるダンスで観る者の心を揺さぶり、多くのトップアーティストを育成・輩出してきた。相手を威嚇するような激しいダンスで、観る者の感情を揺さぶるクランプダンス。流行のK-POP系ダンスとは「あえて逆を行きたい」と信念を崩さないJUN氏にその訳を聞いた。（取材・文＝近藤加奈子）

　JUN氏は単身LAに渡り、当時まだ日本になかったクランプを広めた同ジャンルの先駆者。当時はダンス一本で生活するのが難しかったこともあり、苦労も多かったと思いきや、これまでのダンサー人生を楽しそうに振り返る。

「クランプというジャンルにすごくしがみついているなと思いながらも、こだわりを捨てずにここまでやってきたこの数十年の経験が今の環境を築いていると考えると、意外とそういう人生って悪くないもんだなと思います。ただ、職業・ダンサーで食べていくって当時はすごく大変なことでしたけどね」

　現在はD.LEAGUEが誕生したことによって日本におけるダンサーを取り巻く環境や社会的地位も大きく改善されたという。

「今はDリーガーという肩書を手に入れたことでお給料も支払われている。昔だったらダンサーで食っていくってそんな簡単にできることじゃありませんでした。レッスンを何十本とやってやっと社会人としてお給料と呼べるくらいの収入でしたから。でも、今はD.LEAGUEのおかげでこれまで好きでやってきたことが企業から評価されてそれで食べていけるようになったので、ダンサーを取り巻く環境も変わってきているなと思います。もちろんダンスをやりながらアルバイトをしていくスタイルが基本だと思うんですけど、ダンサーとしてD.LEAGUEに出るだけで社会的に認めてもらえるところはあるので、あとは自分の年棒をどれだけ上げられるのか。それはこれからの自分たちの影響力にかかっていると思います」

　岩田剛典（EXILE／三代目 J SOUL BROTHERS）など、名だたるアーティストたちをクランプを通して育ててきたJUN氏。ダンスだけにとらわれずに国内外で活躍する弟子たちをどんな思いで見守っているのか。

「誇らしいですよ。うらやましいなと思います。たった1回の人生の中でこんなに人に喜んでもらいながら色んなことも経験できるなんて。単純に彼らってダンス以外の選択肢が多いじゃないですか。普通の人はやりたくてもなかなかできない経験だし、すげえなって思います。けど、俺にも分からないくらいみんなも抱えているものは一緒なんですよね。誰でも抱えている問題、ぶつかる壁は一緒。ただそういうなかで世間に影響力を持っているのはすごい。ただただ尊敬するしかないし、自慢ですよ」

「連絡は今でも取っていますよ」と長きにわたり途切れない交流を明かすJUN氏。弟子たちが華やかな世界で活躍しても、マインドと関係性は出会った時と何一つ変わらない。

「彼らにはすごい数のファンもついていて芸能人という立場ですが、俺も同じランクだと思っています。だからこそ活動を通して影響力を与え続けていきたい。そういう考えだと年も取らないと勝手に思っています（笑）。もし明日、僕の体が壊れてダンサー人生が終わったとしても『お前らが食べさせてくれるでしょ？』ってくらいの信頼感はあります。非常に図々しい話ですが（笑）、でもそのくらい腹をくくってクランプ一筋でやってきたし、周りを見渡すと自分と似た感情先行型タイプの人間が集まっているのかなと思います」

　取材中は終始、歯切れ良く自身の思いを語り、ダンスへの揺るぎない情熱がひしひしと感じられる。理想とするダンスチームの形を聞くとFULLCAST RAISERZの一貫した個性、絶対に譲れぬこだわりも見えてきた。

「ダンスチームが東京ドームを埋められたらすごいですけど、現実的ではないので毎回2000～3000人くらいのキャパシティの箱を埋められるくらいの実力をつけて、それで全国ツアーができるアーティスト集団になるのが理想です。FULLCAST RAISERZって筋肉が売りなのでその汗が見えるくらいの熱量が感じられる箱が良いんですよね。場所はクラブでも全然良いんですけど、おじいちゃんとかおばあちゃんとかあの独特の匂いが苦手な人もいると思うので、ちゃんとショーケースができる場所で（笑）。僕らの筋肉を使ったパフォーマンスを観て年齢問わず多くの人に高揚してもらいたいです」

　クランプは鍛え上げた肉体を武器に全身を大きく使って、表情をゆがませたり、相手を威嚇する激しいパフォーマンスを繰り出す。これは今流行のダンススタイルとは真逆だが、JUN氏は己の信念を崩さない。

「今はK-POPの影響もあって細身でシュッとしている男性が流行っているじゃないですか？　だから僕らはあえて逆をいきたいんです。時代はループするし、絶対またマッチョな男がもてはやされる時代が来るはずだから、その時に筋肉自慢のアーティストとしてFULLCAST RAISERZも入り込めたら、めっちゃ良いなって」

□TWIGGZ “JUN”（ツイッグス ジュン）1977年8月11日、北海道生まれ。LA発祥のクランプダンスを日本に持ち込み、日本のクランプシーンの礎を築く。世界のクランプメンバーの中心として活躍。日本のクランプ界を代表するRAG POUNDやTwiggz Famを牽引しながら、名だたるトップアーティストらと共演、振り付けなども担当している。