「命の価値を安価に…」 保護犬と暮らす女性、ペット購入“消費者目線”の違和感

行き場を失った犬や猫を保健所から預かり、里親を探す「一時預かりボランティア」に個人として取り組み、SNSで情報発信している女性がいる。tamtam(タムタム)さんだ。SNS投稿をきっかけに、保護犬との暮らしを描き、保護活動とペット業界の基礎知識や課題を取り上げたコミックエッセー『たまさんちのホゴイヌ』(世界文化社刊)を上梓し、大きな反響を呼んでいる。空前のペットブーム、少子高齢化、こうした社会の状況からも影響を受けるという保護・支援活動。当事者として伝えたいメッセージとは。

犬や猫の保護活動に取り組み、『たまさんちのホゴイヌ』が話題の著者tamtamさん【写真:(C)世界文化社】
犬や猫の保護活動に取り組み、『たまさんちのホゴイヌ』が話題の著者tamtamさん【写真:(C)世界文化社】

行き場のない犬や猫の保護活動に従事 生体販売は「ペットの劣悪な環境という犠牲の上に成り立っているのでやめるべき」

 行き場を失った犬や猫を保健所から預かり、里親を探す「一時預かりボランティア」に個人として取り組み、SNSで情報発信している女性がいる。tamtam(タムタム)さんだ。SNS投稿をきっかけに、保護犬との暮らしを描き、保護活動とペット業界の基礎知識や課題を取り上げたコミックエッセー『たまさんちのホゴイヌ』(世界文化社刊)を上梓し、大きな反響を呼んでいる。空前のペットブーム、少子高齢化、こうした社会の状況からも影響を受けるという保護・支援活動。当事者として伝えたいメッセージとは。(取材・文=吉原知也)

「この本では、保護活動に携わる人たちが10年以上ずっと言い続けてきたことを、入門編として書いています。これまで、なかなか世の中に届いていませんでした。どうしたら伝わるのかを考え、誰でも見れて入りやすいSNSの漫画投稿を始めて、今回の出版につながりました。言ってみれば、8割はきれい事で、残り2割は事実関係とメッセージです。でも、例えば(子犬を産むために飼育されている)繁殖犬について知ってほしいとなった時に、まずは興味関心を持ってもらいたい。この本がそのきっかけになったら、と思っています」

 tamtamさんは出版に込めた真摯(しんし)な思いをこう語る。

 飼い主にやがて訪れるペットの看取り、「行き場を失ったペットの元飼い主の約7割が高齢者」という高齢化社会と直結する問題、「怖い場所ではなく、家族を待つ場所」であるための保健所の活動、ペットショップ業界が抱える課題…。多岐にわたるテーマに加え、過去に引き取った保護犬や繁殖引退犬、野犬とのエピソードについて、tamtamさんの実体験に基づき、かわいらしい漫画とともに、分かりやすく伝えている。

 tamtamさんはこれまで、ペットに関わる多くの職種に就いて見識を広めてきた。約10年前に公益財団法人の動物保護団体で勤務、その後ブリーダー犬舎で働いた。6年ほど前から個人のボランティア活動を継続している。

 犬の譲渡について、今でもそれが正解だったのかと自問自答する過去のケースがある。ブリーダーから繁殖引退犬を引き取り、希望者に引き渡すという内容だ。「ブリーダー側からすれば、産めない子がいなくなって産める子がケージに入るので、すごく喜ばしいことです。でも、それは正しかったのか。その子たちの未来を変えてしまったのではないか。今でも振り返ることがあります。私自身、日々学びながら活動しています」。犬たちにとって、社会にとって、よりよい譲渡の実現を目指す――。ボランティア活動の原点とも言える。

 個人活動では、自宅で犬猫を預かっている。人に慣れさせたり、病気のケアをしたり、丁寧に世話をしながら、譲渡先の希望者との相性を見極めて、適切なマッチングを心がけている。「一緒に暮らす」ことで、その犬のクセや解決策が実例として把握できることに大きな利点があるという。「例えば、ぬいぐるみを飲み込んじゃう子がいます。施設ではぬいぐるみを与えることはほとんどないので見えてきません。『こんな時はこうしたらいいですよ』という実践的なアドバイスを、譲渡前も譲渡後のアフターケアでもお伝えすることができます。量より質を高める、このことを意識しています」。きめ細やかなサービスを通して、これまで50匹を超える譲渡を実現してきた。

 SNSに寄せられる共感の声。その分かりやすさ、伝わりやすさの理由は、tamtamさんの母としての側面が大きい。「当時年長さん、今は小学生のうちの子どもに見せて感想を聞きながら漫画を作っていったんです。私の画力なんて本当に趣味程度なのですが、『これはどうかな?』と聞きながら描いていきました」。登場する犬が突き放された時や、悲しさに直面した時の表情は本当に寂しげで、胸が締め付けられる。

犬の保護活動やペット業界の課題を取り上げたコミックエッセー『たまさんちのホゴイヌ』【写真:(C)世界文化社】
犬の保護活動やペット業界の課題を取り上げたコミックエッセー『たまさんちのホゴイヌ』【写真:(C)世界文化社】

「飼う側も1人1人が学びながら、よくよく考えることが大事」

 飼い主として、保護者として、保健所やブリーダー・ペット業界の立場からも、ペット飼育に関するさまざまな実情や問題を目の当たりにしてきた。

「この本に関しては、“誰も傷つけないこと”を心がけています。『押し付ける』表現は避けています。ブリーダーや保護活動、ペットショップ、消費者、どの立場についても否定するつもりはありません。そうしてしまうと、壁を作ってしまい、解決に向かわないからです」

 ただ、新型コロナウイルス禍でペットブームに沸く中で、現状について思うことはたくさんある。ペットショップでの生体販売は「ペットの劣悪な環境という犠牲の上に成り立っているのでやめるべきだと思います」と強調する。それに、「1匹のわんちゃんを迎え入れる時に、同じ月齢の子で、母親と離れさせられているペットショップの子と、職員が優しく面倒を見ている保健所の子を比べると、よっぽど保護犬の方が…という話になるのではないでしょうか。もちろん、犬を飼う人が増えるのはいいことですし、ペットショップを通して知識を得ることができます」。ペットショップのあり方について、こう投げかける。

 最も伝えたいことの1つが、ペットを飼うことについての命に対する責任だ。同書でも、「飼いやすい子なんて存在しないのです。だって、生きているんですから」と訴えている。

 改めてtamtamさんに聞いた。

「飼い主が責任を持って飼育する、ここが大切なポイントだと思っています。消費者目線で、命の価値を安価に捉えてはいないでしょうか」。

 さらに、tamtamさんは心理面の「覚悟」だけでなく、費用面や飼い主側の対応力について、現実的にしっかり考えて準備することの重要性を指摘する。

「飼った後のことを想定することです。愛犬が何かのアレルギーになってしまうと、薬の費用は高額になります。それに、日本では小型犬が人気ですが、小型犬は心臓や内臓も小さい分、医療費がかかると言われています。『月7万円かかります』と言われたら、『えっ、飼えないよ』となってしまうでしょう。私がよく例えるのはマラソンです。マラソンでこの人についていくぞ、という『覚悟』はできていても、途中で追いつけなくなったり、転んだりした場合の対応は考えていますか? ということです。そのために日々トレーニングを重ねて、事前に必要なものを準備しますよね。保険をどうするのか、費用をどれぐらい用意しておくのか。それに、高齢者の場合は、自分の年齢で飼い始めることができるのか、もしもの場合に誰かに引き継ぐことができるのか。本来は簡単にペットを売れないはずですし、飼う側も1人1人が学びながら、よくよく考えることが大事です」と力を込めた。

○tamtam(タムタム) 犬や猫の里親を探す「一時預かりボランティア」に取り組んでいる。2018年から自身の経験を通した漫画をインスタグラムに投稿し、話題に。初の著書『たまさんちのホゴイヌ』を2022年10月に出版。「買うだけで支援につながる。支援活動自体を知るきっかけになれば」との思いから、著者印税にあたる全額を、保護犬の支援活動などを行う団体に寄付する。同書の売上の一部についても、保護犬の支援団体に寄付される。

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