ベビーカーSNS晒しが賛否両論、赤ちゃんの写真公開も…弁護士が警鐘「人生を狂わせる」リスクも
子育て支援や少子化対策に注目が集まる中で、ネット上でたびたび議論になるマナー問題がある。「電車内のベビーカーの取り扱い」だ。SNSでは、混雑時の列車や新幹線の車内で、ベビーカーの折り畳みを求めたり、座席スペースを使い過ぎだと指摘したりするなどの書き込みが散見される。一方で、ベビーカー利用者が写る形で現場の様子を撮影した写真をアップする投稿も。迷惑・不快に感じた思いを訴えること自体が否定されることはないが、いわゆるSNSへの“晒し”は、投稿者が加害者になる可能性もあり、注意が必要だ。法的な問題点や社会的な課題について、民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける「弁護士法人・響」の古藤由佳弁護士に聞いた。
過剰な批判が寄せられる現状…社会の“子育てへの不寛容” 「弁護士法人・響」の古藤由佳弁護士に聞いた
子育て支援や少子化対策に注目が集まる中で、ネット上でたびたび議論になるマナー問題がある。「電車内のベビーカーの取り扱い」だ。SNSでは、混雑時の列車や新幹線の車内で、ベビーカーの折り畳みを求めたり、座席スペースを使い過ぎだと指摘したりするなどの書き込みが散見される。一方で、ベビーカー利用者が写る形で現場の様子を撮影した写真をアップする投稿も。迷惑・不快に感じた思いを訴えること自体が否定されることはないが、いわゆるSNSへの“晒し”は、投稿者が加害者になる可能性もあり、注意が必要だ。法的な問題点や社会的な課題について、民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける「弁護士法人・響」の古藤由佳弁護士に聞いた。
SNSでは、列車内の状況を説明したうえで親たちのベビーカーの扱い方が迷惑行為だとする報告が相次ぐ。“混んでいたらベビーカーを畳むのが常識”“ベビーカーを広げるのは、電車を降りてから”、こういった趣旨の内容だ。ベビーカーそのものや利用者の後ろ姿、赤ちゃんの顔の一部が写った写真のアップが見受けられる。
多数の反響が。「こんな所でベビーカー広げる人がいるのですね」「人の迷惑、自己中、なんだろうなぁ」といった批判に同調する書き込みや、「やってることが事実なら非常識だけど、ネットに晒すのも非常識やで」「晒すのでなく注意しないと」といった冷静な声があり、賛否両論となっている。
相手の写真まで世界中に公開する行為。懸念されるのは、社会問題化している誹謗(ひぼう)中傷だ。古藤弁護士はまず基本的な理解として、「いわゆる誹謗中傷は一般的に、根拠のない事実に基づいて嫌がらせや悪口を書き込む行為だとされています。電車内で目の前で起きたことについて自分の意見・感想を発信する行為に問題はありません。その意見・感想がネガティブな感じ方だっただけで、今回のようなSNS投稿がすぐさま誹謗中傷には当たらないと考えられます」と見解を述べる。
投稿に法的責任が生じるケースは、写真に写る人物が誰であるのかを不特定多数が知り得る状態にする「個人の特定」が大きなポイントの1つになるという。
民事の「プライバシー・肖像権の侵害」で言うと、「被害者個人が特定されて初めて、個人の権利侵害が認められます。ベビーカーに乗っている赤ちゃんの顔の写真を例に挙げると、正面から捉えていたり、拡大すると顔が分かる場合は、個人特定につながって権利侵害が認められるケースが出てきます」。刑事面では「名誉毀損罪は、書き込み内容の真偽を問わず、公然と事実を摘示して、個人の社会的評価をおとしめる行為があって初めて成立します。侮辱罪を含めて、ここでも個人の特定が重視されます」とのことだ。もちろん、相手の個人が特定されないからと言って、攻撃的な書き込みをするのはもっての外だ。
過去に写真の瞳に映り込んだ景色から個人情報特定のケース「むやみに公開することは避けましょう」
「ただし」と古藤弁護士は続ける。「わずかな情報から、個人が特定されてしまうのがネット社会です。過去に、SNSにアップした写真の瞳に映り込んだ景色などから個人情報が特定されたこともあったように、写真には撮影者の想像を超える膨大な情報が含まれています。『これぐらい大丈夫だろう』と、相手の写真をむやみに公開することは避けましょう」と強調する。
それでは、ベビーカーを巡って迷惑を被った際、ネット投稿について自重するべきなのか。古藤弁護士は「個人が自分の意見・感想を述べることは、憲法上の表現の自由として保障されています。事実に基づいて感じたことや考えを述べることを自重する必要はありません。ただ、ネット投稿に関しては、投稿内容によって相手が特定されることで権利侵害が発生し、自分が思いもよらない事態になりかねません。巡りに巡って自分が加害者になるリスクもあるので、その場の感情に任せた安易な投稿、攻撃的な書き込みは慎むべきです。また、投稿内容だけで実際の状況がすべて把握しきれない中で、コメント欄に意見を書く場合も気を付けましょう。もし、ベビーカー利用者との間で何か問題が生じたり、実際に被害を受けたりした場合は、直接、法的手段で損害賠償を求めることが適切でしょう」。報復や逆恨みのような投稿や書き込みは許容されない。一歩立ち止まって、冷静になることが求められる。
ベビーカー利用に過剰な批判が寄せられる現状には、社会の“子育てへの不寛容”が指摘されている。当然、ベビーカー利用者側のマナー違反のケースもあるだろう。鉄道業界では近年、小さい子どもを連れて利用できるスペースの拡充に乗り出している。なお、メーカー側は、安全面への配慮からベビーカーを畳まずに使用することを推奨している。
こうした中で、よりよい社会実現に向けて、古藤弁護士は「ベビーカー利用者はより適切なマナーを意識して、周囲の人たちは広い心で受け入れてあげることも大事だと思います。繰り返しになりますが、1回の晒し投稿で自分の人生を狂わせる可能性があるので、SNSは気を付けて利用してほしいです」とのメッセージを寄せた。