山での救助費用、全額自己負担にすべき? 現役救助隊員の本音「そのために保険がある」
長野県小谷村の白馬乗鞍岳で29日、バックカントリースキーをしていた外国人5人のグループが雪崩に巻き込まれ、2人の死亡が確認された。登山やバックカントリースキーでの事故や遭難の際、必ずと言っていいほど議論の的となるが、捜索や救助にかかる費用の問題だ。日本では自治体による救助の場合は原則公費、民間の場合は自費となっているが、実態はどのようなものなのか。日本山岳ガイド協会や日本バックカントリースキーガイド協会、日本雪崩ネットワークに所属し、新潟・湯沢町山岳遭難救助隊として救助活動も行う山岳ガイドの長井淳氏に、バックカントリーのリスクと救助活動に対する本音を聞いた。
自治体による救助の場合は原則公費、民間の場合は自費となっている救助費用
長野県小谷村の白馬乗鞍岳で29日、バックカントリースキーをしていた外国人5人のグループが雪崩に巻き込まれ、2人の死亡が確認された。登山やバックカントリースキーでの事故や遭難の際、必ずと言っていいほど議論の的となるが、捜索や救助にかかる費用の問題だ。日本では自治体による救助の場合は原則公費、民間の場合は自費となっているが、実態はどのようなものなのか。日本山岳ガイド協会や日本バックカントリースキーガイド協会、日本雪崩ネットワークに所属し、新潟・湯沢町山岳遭難救助隊として救助活動も行う山岳ガイドの長井淳氏に、バックカントリーのリスクと救助活動に対する本音を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
報道によると、29日に白馬乗鞍岳で発生した雪崩では、外国人5人のスキーグループが雪崩に巻き込まれ2人が死亡。うち1人はアメリカの元フリースタイルスキー世界チャンピオン、カイル・スメインさんだったことが分かった。
スキー場のゲレンデのように管理されていない、大自然の中を滑るバックカントリースキーは、絶景の中を滑る爽快感やその自由度の高さが魅力。日本の山は雪質もよく、海外からのスキーヤーやスノーボーダーにも人気となっている。日本の山はそのほとんどが国有林だが、バックカントリーにルールや禁止エリアはないのだろうか。
「日本のスキーの歴史は110年ほどで、最初は自然の山を自力で登って降りてくるスポーツでした。その後、スキー人気の高まりとともに初心者でも気軽に練習できる場所として、山を登らなくても上まで運んでくれるリフトがついたスキー場がビジネスとして整備されました。スキー場でリフトを使う以上は、コース外を滑ってはいけないなど、スキー場の定めたルールに従わなければなりません。一方、バックカントリーの場合は、国有林であれば特に規制はされていません。一部の自治体では安全のためのルールを設けているところもありますが、基本的には自己責任で自由に滑ってよいことになっています」
登山やバックカントリーなどによる山岳事故の際、必ず議論となるのが救助費用の問題。自治体による救助の場合は原則公費、民間の場合は自費となってされているが、実際のところどのくらいの費用がかかるのだろうか。
「民間救助の割合は自治体や事例によっても異なります。民間と言っても救助会社のようなものがあるわけではなく、旅館やスキー場の経営者、山岳ガイド、猟師などの本業がある人たちが、救助の指揮を執る警察・消防からの協力要請を受け、救助活動を手伝う形。本業を休む以上、休業補償分の自費負担が発生します。民間の救助費用はさまざまですが、だいたい救助者1人あたり日当4~5万円ほど。多ければ自治体側と合わせて10人ほどが救助活動に当たるので、1日30~40万円ほどになります。ヘリコプターの救助費用は詳しくは分かりませんが、1分1万円とも言われるので、かなり高額になると思います。また、自治体による救助の場合でも、埼玉や岐阜など、一部の自治体では遭難者や家族から救助費用の徴収を行っているところもあります」
レジャーによる山岳事故をめぐっては、税金から救助費用の一部が出ることや救助者の二次被害のリスクから「自己責任だから助けなくていい」「費用は全額自己負担とすべき」といった声も根強い。実際に救助活動にあたる救助隊のモチベーションはどのようなものなのか。
「自治体も民間も、救助隊は救助のために日々トレーニングを積んでいます。二次被害が起こらないよう、最大限の努力をしていますし、積極的に助けたいというマインドセットは持っている。救助を嫌がるなんてことはないです。また、登山者は温泉や旅館などを利用しますし、地域にとっては経済効果をもたらしてくれる面もある。レジャーの事故であっても、登山やバックカントリーなどの行為を否定することはありません。一方で、救助費用については私は全額自己負担でもいいと思います。他人にけがをさせてしまったときの損害賠償保険も含め、そのための山岳保険が各保険会社から多数出ている。保険は登山装備や登山届の提出と同じ登山者の義務。登山に限らず海でも川でも、レジャーを楽しむ人全員が加入すべきだと思います」
一定の危険を伴う一方、日常生活では決して味わうことのできない魅力を秘めている大自然。いざというときの備えを大切に楽しみたいところだ。