スラムダンク新作、30~40代“往年ファン”感涙の背景 キャラの生き方や名ぜりふは「人生訓」

アニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』が、公開から2か月でなおも大ヒットの快進撃を続けている。全国映画動員ランキング(興行通信社調べ)では、昨年12月3日の公開から8週連続1位を記録し、最新は2位。累計の興行収入成績は94億5400万円(同)を突破しており、大台の100億円が目前だ。原作でバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK(スラムダンク)』が1996年に連載終了してから27年。当時小中学生、そして、湘北高校バスケ部の桜木花道ら主要キャラクターと同じ年代設定の高校生だったファンは、30~40代に成長した。大人になって、家族を持って、今回の新作を見て流した涙。そんな“スラダン世代”の熱い思いに迫った。

『THE FIRST SLAM DUNK』が新旧ファンから高評価を得て大ヒットを記録している(写真はイメージ)【写真:写真AC】
『THE FIRST SLAM DUNK』が新旧ファンから高評価を得て大ヒットを記録している(写真はイメージ)【写真:写真AC】

興収は100億円の大台目前 スラダン世代が大人になって新作を見て流した涙

 アニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』が、公開から2か月でなおも大ヒットの快進撃を続けている。全国映画動員ランキング(興行通信社調べ)では、昨年12月3日の公開から8週連続1位を記録し、最新は2位。累計の興行収入成績は94億5400万円(同)を突破しており、大台の100億円が目前だ。原作でバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK(スラムダンク)』が1996年に連載終了してから27年。当時小中学生、そして、湘北高校バスケ部の桜木花道ら主要キャラクターと同じ年代設定の高校生だったファンは、30~40代に成長した。大人になって、家族を持って、今回の新作を見て流した涙。そんな“スラダン世代”の熱い思いに迫った。(取材・文=吉原知也)

 原作『SLAM DUNK』は、『週刊少年ジャンプ』で90~96年にかけて連載された、高校バスケを題材に選手たちの人間的成長を描いた少年漫画。湘北高バスケ部の桜木をはじめ、流川楓、赤木剛憲、宮城リョータ、三井寿の5人の“主役”だけでなく、対戦相手チームや監督ら登場キャラのストーリーや描写のリアルさ・奥深さが評価されている。

 テレビアニメ版は93年~96年にかけて放送され、『君が好きだと叫びたい』(BAAD)、『世界が終るまでは…』(WANDS)といった主題歌も人気を集めた。

 新作として待望の封切りとなった本作は、原作者の井上雄彦氏が脚本・監督を務めており、往年のファンに加えて新規ファンを取り込んでメガヒットを飛ばしている。

「とにかく面白いの一言。1度目の鑑賞は泣かなかったですが、2度目の鑑賞ではウルッときました」。

 30代の男性会社員は、映画館で感涙したことを明かす。

 小学校高学年で、友人が週刊少年ジャンプで読んでいて面白そうだなと思ったのが、スラダンとの出合い。「母親が元バスケ部というのもあり、単行本1巻を買ってくれて、それで読んだら一気にハマったんです。スポーツだけでなくコメディー、青春、けんかなど、子どもながらにハマる要素満載でした。以降はおこづかいで全巻自分でそろえました」。アニメも毎週欠かさずに見ていた。「友達と語ったり、キーホルダーなどのグッズもたくさん持っていました。社会人になり転勤で何度も引っ越し、そのたびに本や漫画を処分してきたのですが、未だにスラムダンクだけは捨てることができずに持ち続けています。間違いなく自分の中で一番好きな漫画です」。スラダンと共に育ってきた。

 好きなキャラは、湘北キャプテンの赤木。「弱小校にありながら全国制覇を目標に掲げ、周囲にバカにされても自分の信念を曲げずに貫いたところを尊敬しています。最後にかけがえのない仲間を得たことに気付き、試合中にもかかわらず涙する場面は、何度読んでも泣けます。魚住純(陵南)とのライバル関係も、時にぶつかり合い、時に励まし合うなど実にほほえましいです」と情熱を込める。

 そんな根っからのファンは、今回の新作で衝撃を受けた。「原作を知っていても、いや知っているからこその再現度の高さに驚きました。もう何年も原作を読んでいなくても、『次はこのシーン、このセリフが来るかな』と予想しながら見るのが楽しかったです。試合の場面はとにかくスピーディーで迫力があって、音楽も格好よくて、ストーリーもテンポも素晴らしく、終始圧倒されました」。スラダン世代を完全に納得させる出来栄えと言っていいだろう。

「『負けたことが財産になる』。こういったことを学んできました」 久々に会った友と語り合うきっかけにも

 一方で、40代のバスケ経験者の男性会社員は、新作の表現手法に驚嘆した。「驚いたのは、臨場感。実際に試合をしている気がして手に汗握りました。音やシュートの軌道もリアルで作り込みがすごいと思いました。それだけで昔を思い出して泣いたし、ストーリーでも泣けました」。

 小学校低学年のとき、兄の影響でバスケを始めた。間もなく、スラダンの漫画がはやりだした。当時はギャグ要素は好きだったがバスケの現実離れした点がどうしても好きになれず、実はコミックは13巻まででそろえるのをやめてしまった。その後どこかで全巻を読んだが、覚えているシーンは少なかった。それでも、「今回映画を見て感情移入し、ある意味初めてスラダンで泣いた。すぐに新装再編版を大人買いし、今は家族で楽しませてもらっています」。今度は自分の子どもと一緒に、新たな“スラダン生活”に浸っている。

 宮城がお気に入りキャラ。「どんなことがあっても、自分のよさにつなげているところ。バスケのプレースタイルも参考にさせてもらっていました」という。

 名ぜりふの数多いスラムダンク。キャラクターの生き方や姿勢、勝敗だけでなく得たものについて、人生訓と捉え、自分の人生に重ねるファンが多い。

 スラダンを通して学んだこと。40代男性は「流川の陵南戦練習試合『いらねーよ 自分でとる』。仕事やプライベートで何か競争に巻き込まれたとき、いつも思い出して助けられています。あと、宮城の山王工業戦『ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!!』。言葉通りバスケの試合でも役に立ったし、普段の生活でも得意分野を伸ばす気にさせてくれます」と教えてくれた。

 30代の男性は「取り返しの付かないような失敗や挫折をしてしまっても、心を入れ替えて真面目に頑張っていれば、いつか必ずチャンスは巡ってくるということを、三井のエピソードから学びました。自分も過去に周りの人たちに大きな迷惑をかけたことがあるので、恩返しをする意味でも一生懸命仕事などに取り組もうと心がけています。もう1つ。緊迫した場面でも常に自然体でリラックスすることの大事さを仙道彰(陵南)から学びました。それに、漫画・アニメの作品全体を通して、『どんなにつらくても、自分のことを見てくれている人はいる』『一度失敗しても人生はやり直せる』『負けたことが財産になる』。こういったことを学んできました」。まさに人生勉強だ。

 新作映画をこの年になって見て、あらためて感じたこと。2人は人生の新たな活力を見いだしているという。

 2度鑑賞のリピーターになった30代男性は「40歳目前になり、仕事や家庭の両立でなかなか息抜きができない中、久々に元気をもらいました。楽しかった子どもの頃に戻ったような感覚を味わえました。あらためての人生訓も多かったです。コロナ禍で疎遠になっていた友人とも映画を通じて久々に再会し、語り合えるきっかけをくれた。映画館に2度同じ作品を見に行った経験は人生で初めてでした。それぐらい、何度見てもいいと思える映画です」と思いを込めた。

 40代の元“バスケットマン”は「時空を超えて再び漫画を共有できるのは奇跡だと思います。子どもに積極的にバスケをさせるつもりはなかったのですが、漫画を読んで子どもが『バスケがしたい』と言うようになり、驚くと同時に正直にうれしいと思っている自分に気付かされました。スラダンだけに限らないと思いますが、あらためて漫画やアニメの力はすごいなと感じています」と話している。

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