『どうする家康』は大映テレビの再来か? “覚醒”が激似の刑事ドラマ、人格豹変シーンがパターン化

嵐の松本潤が主演を務めるNHK大河ドラマ『どうする家康』(日曜後8時)の第4話が29日に放送された。今川家の人質として生涯を終えると思っていた弱小国・三河の主である家康(松本)が戦国の乱世に飛び込むと、待っていたのは死ぬか生きるかの大ピンチの連続だった――。『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』シリーズなどのヒット作で知られる古沢良太氏によるオリジナル脚本。これまで描かれたことがなかった独特の家康を描いて注目されている。

NHK放送センター【写真:ENCOUNT編集部】
NHK放送センター【写真:ENCOUNT編集部】

〈兎⇒虎〉を繰り返すことで成長を遂げる展開

 嵐の松本潤が主演を務めるNHK大河ドラマ『どうする家康』(日曜後8時)の第4話が29日に放送された。今川家の人質として生涯を終えると思っていた弱小国・三河の主である家康(松本)が戦国の乱世に飛び込むと、待っていたのは死ぬか生きるかの大ピンチの連続だった――。『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』シリーズなどのヒット作で知られる古沢良太氏によるオリジナル脚本。これまで描かれたことがなかった独特の家康を描いて注目されている。

 これまでに放送された第1話から第4話を振り返ってみると、あるパターンが浮かび上がる。第1話のタイトルは「どうする桶狭間」。織田信長(岡田准一)が領地に進軍したため、今川義元(野村萬斎)は元康(※後の家康)に大高城へ兵糧を運び入れる任務を命じる。命からがら兵糧を届けた元康だったが、義元が討ち死にしたという報せを受けて家臣から「どうする?」と迫られ逃げ出してしまう。迫りくる信長を「あれは獣じゃ、飢えた狼じゃ」と恐れる元康は気弱で泣き虫で優柔不断そのもの。しかし、この前のシーンでは心優しい姫・瀬名(有村架純)を嫁にするため義元の嫡男・今川氏真(溝端淳平)と決闘する。最初は弱気だった元康はある瞬間に“覚醒”し、氏真をねじふせる。

 第2話は「兎(うさぎ)と狼(おおかみ)」。大高城に迫る織田軍。交戦か、撤退か、家臣たちの意見は割れ元康も決断できない。しかし、信長はなぜか引き返して行く。妻子が待つ駿府へ向かう元康の前に見知らぬ軍勢が立ちはだかる。三河の松平昌久の軍だった。何とか逃げた元康らは岡崎城の北にある大樹寺に身を寄せる。昌久軍に囲まれた元康は祖父や父の墓前で短刀を抜き「わしは無能な大将じゃ……。多くの兵を殺した。これくらいしかできぬ」と自害しようとするが、「違う! 竹千代は兎ではない! 虎じゃ! 虎なんじゃぞ!」と信長に立ち向かった幼少期を回顧。「そうじゃ、その目じゃ。その目だけは忘れるな」と満足していた信長を思い出すと、突如“覚醒”し目には力強い光が。豹変した元康は門を開き昌久の軍勢を前に「岡崎でわが帰りを待つ1000の兵たちが怒りの業火となって貴殿の所領に攻め入るであろうからしかと覚悟せよ!」と大声で叫ぶと、圧倒された昌久軍は道を開けるしかなかった。

 第3話の「三河平定戦」はどうだったか。故郷の岡崎へ戻った元康は、打倒・信長を決意するが、弱小の松平軍は打つ手なし。一方、今川氏真は援軍をよこさず、本多忠勝(山田裕貴)らは、織田に寝返るべきだと言い始め、駿府に瀬名を残す元康は、今川を裏切れないと悩む。敗北が続く中、伯父の水野信元(寺島進)が岡崎城に16年前に生き別れた元康の母・於大(松嶋菜々子)を連れてくる。於大は「主君たるもの家臣と国のためならば、己の妻や子如き平気で打ち捨てなされ!」と言い放つ。忠臣・酒井忠次(大森南朋)と石川数正(松重豊)も土下座し決死の覚悟で寝返りを進言。元康は「嫌じゃ、わしは駿府に、妻と子のもとに帰るんじゃ!」と泣き叫んだが、結局、吉良攻めを敢行して寝返り。激怒した氏真は元康の妻・瀬名の侍女を次々と処刑するという地獄のシーンで終わった。

 ほっこりムードから激変ストーリーを引き継いだ第4話は「清州でどうする!」。信長が待つ尾張・清須城へ向かった元康。幼少期に織田に捕らえられていた元康は、信長から再会のあいさつ代わりに相撲の相手を命ぜられる。くせ者・木下藤吉郎(ムロツヨシ)や信長の妹・市(北川景子)を紹介される中、信長から盟約を結ぶ代わりにある条件を提示される。一方、駿府に残された妻・瀬名は、今川氏真から元康と離縁して屈辱的な夜伽(よとぎ)役を持ちかけられる。闇落ちした氏真は元康に「今川に戻らなければ関口家は皆殺し」との脅迫文と瀬名の血で「たすけて せな」と書かれた文、壊した兎の木彫りを一緒に届けた。市との結婚を破談にした元康は“血のSOS”を見て“覚醒”。信長が向けた刀を何と素手で握り返し血が滴るのもかまわず、「今川領をことごとく切り取り今川を滅ぼしまする! そしてわが妻と子をこの手で取り返しまする」と豹変するのであった。

 こうして振り返ってみると、軟弱、弱虫、泣き虫の元康が、あることをきっかけに“覚醒”して人格が豹変し、そのことがストーリーを新たに展開させ元康を成長させる原動力になっていることが分かる。まさしく〈兎⇒虎〉というパターンが繰り返される流れになっているのだ。こうした“覚醒”劇を見ると、中高年世代は昔の超人気ドラマシリーズを思い出すのではないか。それは79年から82年まで放送された大映テレビ制作のTBS系『噂の刑事トミーとマツ』だ。警視庁富士見署の岡野富夫(トミー)と松山進(マツ)は何から何まで正反対のコンビだが、時に衝突しながらも協力して事件を解決していく。クライマックスの格闘&銃撃戦シーンで軟弱な態度をとる弱虫のトミーにマツが「お前なんか男じゃない! “おとこおんな”のトミコ!」と怒鳴ると、その言葉にトミーが“覚醒”し、瞬時に犯人をなぎ倒すという信じられないワンパターンが大ウケとなり視聴者をカタルシス(気持ちの浄化)へと誘った。今から見ればジェンダー平等の観点から問題のあるせりふだが、当時はすさまじい人気を博した。

 そもそも『どうする家康』というタイトル自体、優柔不断な家康と、覚醒して果敢な道へ乗り出す家康、その両方の人物像を含意している。第4話までのパターンを見るとかつての大映テレビのような展開が今後も続く可能性が高い。ただ、『噂の刑事』との違いは、トミーとマツが常時バディーであったのに対し、家康(=元康)は今のところ孤独であること。それだけに家康の“覚醒”には今後予想もしない人物が次から次へとからんでくることが予想される。“覚醒”を繰り返して成長する家康が、最後にどのような“覚醒”で天下を取るのか、最終話まで楽しみが続きそうだ。

次のページへ (2/2) 【写真】愛知・東浦町にある徳川家康の生母・於大の方が生まれた水野氏の居城址
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