【週末は女子プロレス #86】尾崎魔弓「ババアをなめんなよ!」はすべての人へのメッセージ 反骨精神がキャリアの原動力

プロレスキャリア36年になる尾崎魔弓。身長157センチの小柄な体にも関わらず、ここまで大きなケガもほとんどなく、第一線で、しかもヒールとして闘い続けている。プロレスラーになると決めた高校生時代には女子プロレス団体は全日本女子プロレスひとつしかなく、デビュー以降は対抗戦ブームから冬の時代に至るまでさまざまな状況を体感してきた。そして今年2月12日(日=夜)には、45歳以上のみによるワンデートーナメント『R45~ババアをなめんなよ!~』を新宿FACEで開催する。これはジャガー横田、ダンプ松本をはじめ45歳以上の女子レスラーが18名参戦、「一番強いババア」を一日で決める画期的なイベントだ。現在54歳の尾崎だが、ここまでのキャリアを辿ってみると、彼女の反骨精神がすべての原動力になっていることが分かってくる。

「デビューしたらやめてやるって…」と語る尾崎魔弓【写真:新井宏】
「デビューしたらやめてやるって…」と語る尾崎魔弓【写真:新井宏】

45歳以上のみによるワンデートーナメント『R45~ババアをなめんなよ!~』を開催

 プロレスキャリア36年になる尾崎魔弓。身長157センチの小柄な体にも関わらず、ここまで大きなケガもほとんどなく、第一線で、しかもヒールとして闘い続けている。プロレスラーになると決めた高校生時代には女子プロレス団体は全日本女子プロレスひとつしかなく、デビュー以降は対抗戦ブームから冬の時代に至るまでさまざまな状況を体感してきた。そして今年2月12日(日=夜)には、45歳以上のみによるワンデートーナメント『R45~ババアをなめんなよ!~』を新宿FACEで開催する。これはジャガー横田、ダンプ松本をはじめ45歳以上の女子レスラーが18名参戦、「一番強いババア」を一日で決める画期的なイベントだ。現在54歳の尾崎だが、ここまでのキャリアを辿ってみると、彼女の反骨精神がすべての原動力になっていることが分かってくる。

「父親に連れられて全日本の後楽園とか行ってて、プロレスには興味があったんだよね。ビューティーペアも好きだったし。やりたいと思ったのは、クラッシュ・ギャルズの影響。女の人でもこんなにカッコよく闘うんだと衝撃を受けて、私もやりたいと思ったんだよ。それでオーディションに応募したんだけど、ウソの身長を書いても書類審査さえ通らず(笑)。それからお金を払って道場で練習を始めたんだよね。これに通ってるとオーディションは受けさせてもらえるから、受かる確率が高くなるかもというのを聞いてね。だけど、全然ダメ。すぐ落っこちた(笑)」

 なにがなんでもレスラーになると決めていた彼女は、ジャッキー佐藤の新団体ジャパン女子プロレス旗揚げのニュースを知る。さっそく応募し、見事合格。しかしながら、ジャパン女子はほとんどが新人の団体だ。不安はなかったのだろうか?

「全然なかった。プロレスできるのならどこでもよかったから、逆にうれしくて。なんで私が合格したのか、いまだに分からないんだけどね(笑)」

 おそらくそれは、全女の道場でトレーニングしていたことが有利に働いたのではなかろうか。とにもかくにも、デビューに向けての本格的トレーニングが始まった。ようやく夢のリングに立てる日がやってくる。しかし、実際のトレーニングは想像以上に厳しく、挫折寸前……。

「デビューしたらやめてやるってずっと思って練習してた。だって、ここまで頑張ったんだから、いまやめるのは悔しいじゃん」

 86年8月17日、ジャパン女子は後楽園ホールで華々しく旗揚げ戦を開催した。秋元康をアドバイザー、山本小鉄をコーチに招へい。後楽園にはアントニオ猪木も来場した。この一戦のみでやめるつもりだった尾崎だが、華やかなデビュー戦で考えが一変。プロレスを続ける気持ちに切り替わったのである。

 とはいえ、盛大な旗揚げから一転、第2戦から会場には閑古鳥が鳴く厳しい現実に直面した。「巡業に出たらお客さんが20人くらいのときもあってね、華々しいだけの世界じゃないんだなって。まだ17歳だったし、そういう現実を目の当たりにしても意味が分からなかった。ただ、やると決めた以上やるしかないから、とりあえずは頑張ったよね」。

 その後、尾崎はコーチのグラン浜田から突然ヒール転向を言い渡される。「試合後に呼ばれて明日からヒールになれって。ヒールになるためレスラーになったんじゃない、絶対イヤだって言い返したんだよ。そしたらいますぐ荷物をまとめて帰れと言われてね。私は、絶対に帰らないって逆らった。いま考えると(大先輩のコーチに反抗するなんて)恐ろしいけどね(笑)。そしたら翌日から(ヒールとして)カードに入れられてて、しょうがないからイヤイヤやった」

 ヒールになれと言われても、どうしていいか分からない。「とりあえず噛みつけばいいかと思って噛みついてた」という尾崎。試行錯誤が続く中、エース風間ルミとの抗争が勃発。87年10月4日、風間からジュニア王座を奪取した。

「その頃からヒールがだんだん面白くなってきてね、どうせだったらヒールのイメージを変えてやろうかと思ったんだよね」

 20歳での引退も考えていた尾崎だったが、ヒールスタイルに開眼。しかも凶器一辺倒とは一線を画す、新しいヒール像を模索し始めた。「ヒールと言ったら太っててペイントっていうイメージを変えたい、私はキレイなヒールになりたいと思った。私がイメージを変えてやると思いながら闘ってたよ」。

『R45~ババアをなめんなよ!~』のポスターをアピールする尾崎魔弓【写真:新井宏】
『R45~ババアをなめんなよ!~』のポスターをアピールする尾崎魔弓【写真:新井宏】

「美魔女」のヒール像を確立 全女相手に名勝負を繰り広げる

 尾崎が確立した「美魔女」という新しいヒール像は、現在の女子プロレスにも受け継がれている。とはいえジャパン女子崩壊後、多団体時代へと突入した女子プロ界にあって、小柄な尾崎への偏見はまだ大きかった。全女と他団体が対抗戦を始めようという頃、全女の選手と闘えるのかという声が大きかったのだ。いまで言えば、大炎上の案件だ。

「ファンもマスコミも全女の選手も、私たちを格下に見てたよね。JWPが全女に勝てるわけがないって。それがすごく悔しくて、絶対に見返してやろうと思ってた」

 いざ闘ってみると、尾崎とダイナマイト・関西は全女の豊田真奈美&山田敏代相手に大健闘、全女史上に残る名勝負となった。敗れはしたものの、評価を一変させることに成功したのである。もしもこの試合が失敗に終わっていたら、団体対抗戦の大ブームはやってこなかったかもしれない。

「負けたけど、みんなの見方が変わってザマーミロって思った(笑)。身体が違うとか場数が違うとか言われたけど、私は私で関西とか(元全女の)デビル(雅美)さんとか大きい選手の技を受けてきたから自信があった。小さいってなめてるけど、絶対オマエらには負けないって気持ちがあったんだよ」

 尾崎はその後、主戦場をGAEA JAPANとし、憧れのクラッシュ・ギャルズとも対戦した。が、敵対する立場のため羨望の気持ちはすでになく、ヒールの立場を貫いた。この時代には団体の枠を超えて“ヒール養成学校”をコンセプトとするOZアカデミーを結成。GAEA崩壊後の06年にはユニットから団体化。ヒール軍が正規軍(正危軍と命名)という、世界でも類を見ない異色のプロレス団体として現在も活動中だ。

「GAEAがなくなってメンバーの行く場所がなくなった。だったら自分たちでやるしかないとなって団体にしたんだよね。自分のためじゃなくて、メンバーのために作ったようなものなんだけどさ」

 何人もの卒業生を輩出し、現メンバーは尾崎を筆頭に、桜花由美(現在妊活中)、雪妃魔矢、安納サオリ。尾崎のもとでヒールスタイルを学び飛躍を遂げた選手ばかりである。ユニットのコンセプトを守り続け女子プロ界で異彩を放ち続けるOZアカデミー。団体を牽引する一方で、今年の尾崎は勝負に出る。45歳以上の大ベテランばかりを集めたトーナメント「R45~ババアをなめんなよ!~」を企画、2・12新宿で実現させるのだ。

「若い子の大会ってけっこうあるけど、その逆ってないなって。1、2年前から考えてはいたんだよね。ホントは50歳以上でやりたかったけど、興行にするにはちょっと(人数が)足りないかなって。40歳だとまだちょっと若い感じがあったし。それで45歳以上にしてみたんだ。いずれはやめる人も出てくるかもしれないから、いましかないと思って。そしたらちょうど2月12日の夜が空いてたんだよね(当日昼はOZアカデミーの本興行を開催)。(参戦オファーで)声をかけてみたらジャガーさんとか面白そうじゃんとか言ってくれて。ババア扱いするなって言われるかと思ったら、そういうのはほとんどなかったよ(笑)」

 トーナメントには尾崎を筆頭にダンプ松本(62)、ジャガー横田(61)、堀田祐美子(56)井上京子(53)、ドレイク森松(52)、伊藤薫(51)、遠藤美月(51)、渡辺智子(50)、薮下めぐみ(50)、AKINO(49)、チェリー(48)、倉垣翼(47)、KAZUKI(47)、永島千佳世(47)、山縣優(46)、ミス・モンゴル(46)、バンビ(45)の全18選手が参戦。1回戦からジャガーvsダンプが実現するなど、いままでなかなか見られなかった、しかもここでしか見られないようなカードが次々実現しそうなだけに話題沸騰。増席したにもかかわらず、昨年末でチケットはすでに完売したという。

「6人タッグとかならやった選手が多いけど、シングルとなると闘ったことない選手がけっこういるんだよね。ダンプ、ジャガー、堀田、京子、渡辺とか。薮下、山縣、KAZUKI、チェリー、バンビもないと思う」

 尾崎でさえそうなのだから、当日は初シングルの目白押しとなるかもしれない。キャリアを重ねていながら、どの組み合わせも新鮮そのもの。そしてもちろん、言い出しっぺの責任として尾崎は優勝するつもりでいる。

「言い出しっぺが1回戦でこけたらシャレにならないよね(笑)。なのに、よく考えたら昼間も試合あるの忘れてた(苦笑)。昼間の大会(OZ王者AKINOへの挑戦者を決める若手トーナメントがスタート)とも比べられると思うし、“真のババア”の名を私が取らないと。まあ、ババアをなめんなってことだよ!」

 大会名『ババアをなめんなよ!』は「ふだんから思ってること」と尾崎は言う。「若い子からババアって言われるけど、だったらいまの若い子が私の年齢になってもプロレスできるかな? この気持ちがあるから、いまも元気で頑張っていられる。ババアをなめんなって。これは、すべての人に向けてのメッセージでもあるんだよ!」

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