見ず知らずの女性を助け男から暴行 視覚に障がい、職場復帰未定でも「後悔はない」
夜道でナンパに遭っていた女性を助けに入り、相手の男2人組から暴行を受け、視覚に障がいを負ってしまった男性がいる。現在は刑事裁判も終了、今も視力は戻らないが「後悔はしていない」と語る男性に、事件の一部始終とその後のてん末を聞いた。
非公式ながら本八幡の周辺情報や魅力発信を続けるアカウントを運営
夜道でナンパに遭っていた女性を助けに入り、相手の男2人組から暴行を受け、視覚に障がいを負ってしまった男性がいる。現在は刑事裁判も終了、今も視力は戻らないが「後悔はしていない」と語る男性に、事件の一部始終とその後のてん末を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
「昨夜しつこくナンパされている女性を助けに入って、男二人組にボコボコにされてしまいました…。両目がほぼ見えておらず、目からの血が止まらず目の骨も折れているので手術になりそうです。熱が38度で嘔吐と悪寒が止まらず、点滴と痛み止めで容態を見ているところです。退院の見込みは不明です」
昨年7月、男性が行った投稿は5000件を超えるリツイート、1万件のいいねを集めた。投稿を行ったのは千葉県市川市・本八幡駅の周辺情報を発信する「本八幡bot」さん。2013年のアカウント開設以来、非公式ながら本八幡の魅力発信を続け、昨年11月には市川市観光協会から特別PR担当に任命された。「インフルエンサーになるつもりはなく、本当に個人的に、住んでいる街の魅力やおすすめのカフェ情報などを発信していただけ」と言いつつも、1.8万人ものフォロワーを抱える。
男性が事件に巻き込まれたのは昨年7月11日。午後8時頃、本八幡駅前で男にしつこくつきまとわれていた女性に声をかけた。
「嫌がっているようだったので、女性の知り合いのふりをして『○○、お待たせ』と話しかけたんです。その隙に女性が逃げて、相手の男から『てめえ何なんだよ!』と殴られました。男にはもう一人仲間がいたようで、2人から路地裏に引きずり込まれて馬乗りで執拗(しつよう)に暴行を受けました」
殴られて投げ飛ばされた際、飲食店のガラス窓に倒れ込んだことで、店の客が警察に通報。パトカーのサイレンが近づくと男2人は逃走、男性は救急車で浦安市の総合病院に運び込まれた。診断は眼窩底(がんかてい)骨折。眼球下部の骨が折れ、眼球が頭蓋骨の中に落ち込んでいる状態で、手術を受け1か月後に退院したが、現在も視力の低下や視界が二重になる複視などの症状に悩まされ、通院を続けている。「視力は今後回復するかもしれないし、しないかもしれない。リハビリ次第と言われています」。本業では都内のIT企業でシステムエンジニアをしていたが、いまだ復帰の見込みは立っていないという。
投稿が拡散、ネット上で男女論の格好のネタに
暴行を行った男2人はその後逮捕。25歳と20歳の埼玉の会社員で、千葉での仕事帰りに酒を飲み、ナンパを行っていたという。主犯の男は裁判では「すいませんでした。反省してます」と謝罪の言葉を口にしつつ、「ちょっと覚えてないっす」といった発言もあった。刑事裁判での求刑は懲役3年、判決は懲役1年10月。民事訴訟はけがによる障がいの等級が決まらないと請求額が確定しないため、今後も時間をかけて争うことになるという。
さらに、関係各所への事務連絡のために行った冒頭の投稿が、ネット上で拡散。男女の対立をあおる格好のネタとしても大きな議論に発展してしまい、あろうことか被害者の男性にも誹謗(ひぼう)中傷が寄せられた。
「温かいコメントや心配の声をたくさんいただいた一方で、ごく一部の過激なフェミニストさんなどが『男は加害性の塊』と沸きあがって、それに対してアンチフェミニストさんなどが『ナンパごときで騒ぎすぎ』『邪魔したやつが悪い』と応戦するような形で、自分を介してツイッター上でケンカを始めてしまったんです。まとめ記事にもなりましたし、ねつ造よばわりされたり、自業自得、ざまあみろといった暴言もあった。まさか自分がたたかれる側になるとは思いませんでした」
結局、助けた女性の行方は分からずじまい。視覚に障がいを負い、職場にも戻れず、ネット上では心ない悪意にもさらされた。それでも勇気ある行動に後悔はしていないという。
「やらなきゃよかったとは一切思っていません。本八幡という自分の暮らす好きな街で、自分の役割を少しは果たせたと思う。後悔はありません」
男性はその後、本八幡の街頭に防犯カメラを設置するためのクラウドファンディングを立ち上げ。ナンパや暴行などの迷惑行為、犯罪行為の再発防止、治安向上のための活動を続けている。