伝説のバックパッカー・歩りえこが振り返る世界一周の旅と40歳で挑戦したファースト写真集
20代の2年間、たった1人で世界一周をしてしまった伝説のバックパッカー・歩りえこ。その旅先での思いがけない出来事を一冊にまとめた著書『ブラを捨て旅に出よう』(2012年、講談社文庫刊)は重版を重ね、累計約4万2000部というロングヒットを記録中だ。現在は2児の母として、また「旅ドル」としてタレント活動を行っている歩が40歳という節目を迎え、昨年、衝撃的なファースト写真集『スフィア』(講談社文庫刊)を出版した。なぜ今すべてを見せる決断にいたったのか。そこには彼女の人生哲学があった。
出版から10年、ロングセラーを記録する『ブラを捨て旅に出よう』
20代の2年間、たった1人で世界一周をしてしまった伝説のバックパッカー・歩りえこ。その旅先での思いがけない出来事を一冊にまとめた著書『ブラを捨て旅に出よう』(2012年、講談社文庫刊)は重版を重ね、累計約4万2000部というロングヒットを記録中だ。現在は2児の母として、また「旅ドル」としてタレント活動を行っている歩が40歳という節目を迎え、昨年、衝撃的なファースト写真集『スフィア』(講談社文庫刊)を出版した。なぜ今すべてを見せる決断にいたったのか。そこには彼女の人生哲学があった。(取材・文=福嶋剛)
歩りえこの「人生の旅」。そのきっかけは15歳にさかのぼる。心臓に病気が見つかり人生は一度きりと悟った。
「心臓の病気が見つかったときに人生は有限だと気が付いたんです。人生100年時代と言われますが、私はもしかしたら40代とか50代が限界かもしれない。そう思ったらやりたいことは早いうちにやっておきたいと思うようになりました。そうやって自分のリミットを知ることができたことが旅に出る一番のきっかけだったと思います」
その後、短大のチアリーディング部で全国優勝し、アメリカに遠征したとき、海外の女性たちの自由な生き方に接した彼女は、親に内緒で1人旅に出る決意を固める。実は彼女が旅を決めた理由はもう1つあった。
「幼少期からすごく厳しい親の教育を受けてきました。母親から『お前はダメだ! お前はできないやつだ』と言われ続けてきました。でも心の中では『絶対ダメな人間じゃない』と思っていて、いつか母親の言葉を見返したいというエネルギーが爆発したことも旅に出る理由でした。そんな自分探しの世界一周だったと思います」
さらに世界一周にはいま1つ大きなリスクがあった。
「実は当時婚約者がいたんです。もし私がバックパッカーをすると言ったら絶対に行かせてもらえなかったはずです。でも、あの頃の私の気持ちは誰にも止められませんでした。結局、婚約破棄になってしまい申し訳ないことをしてしまったのですが、彼は、今、子どもにも恵まれて幸せに暮らしていると聞きました。むしろ結婚相手が私じゃなくて良かったのかもしれないですね(笑)」
2年かけて五大陸94か国を制覇した旅はハプニング続出の旅でもあった。そんな記録を一冊にまとめたのが『ブラを捨て旅に出よう』だ。
「執筆自体は3か月くらいでしたが、本を出すまでには約3年を費やしました。当時、バックパッカーの女の子ってあまりいなかった時代なので、旅をしそうにない女の子がバックパックを背負って94か国を歩いたということで、いろいろとメディアに取り上げていただいたんですが、今はコロナ禍でなかなか旅に行けない中で、旅の疑似体験みたいな一冊として読んでくださっている読者も多いとお聞きしたので本当にうれしいです」
著書には想像を超えるハプニングや危機を救ってくれた人たちとの触れ合いがつづられている。あらためて旅から得たものとは何だったのか?
「世界中の人たちを見て思ったことは、『ただ生きる』という時間を浪費して生きている人と『生きよう』と意欲的に時間を使う人の、大きく2つのパターンがあるということです。インドに行ったとき、家族のために自分の腕を切り落としてまで生活の足しにする物乞いの人に出会いました。体のつま先から頭の上まで自分のすべてを使って食べさせていこうという極端な例ですが、今まで出会ったことのない究極のハングリー精神を目の当たりにしました。
実は私が旅をしてきたほとんどの国の人たちは、愛する家族を守るため、生きていくために日銭を稼ぐ人たちばかりでした。生きるか死ぬかの究極の選択を迫られた人たちの背負っているもの見たとき、とても今の日本人には立ち打ちできない“すごみ”を感じました。物乞いも立派な仕事の1つだと。それを見て、私の人生観も大きく変わりました」
そしてもう1つ、世界を旅してさまざまな国の女性と出会い、感じたことがあるという。
「どの国の女性も驚くほど強くてたくましい。日本人の中では負けないぞと自信を持っていた私のレベルが1だとしたら、世界の女性はレベル99くらい(笑)。肉体的な差だけじゃなくて1人1人が自立していて、1人だけでも生きていけるという内面的な自信を持っていました。面白かったのはウガンダ(アフリカ)の女性で、100キロくらいの体重がないと男性たちから色気があると認めてもらえないんです。そこで結婚前の女性たちは頑張って太るまでたくさん食べ続けるるらしいんです。日本と真逆の美意識なんですが、美しくなるために努力する姿は万国共通なんです」
嫌なことがあったときにこそ強くなれる
そんな彼女が結婚、出産、離婚を経て、40歳を迎えた今年、衝撃のヘアヌード写真集を出版した。
「きっかけは、昨年亡くなった大好きな祖母です。祖母も世界を旅した人でとても美人でした。コロナ禍で面会できず、亡くなってから対面したんですが、変わり果てた姿を見て、元気なときの記録を残しておく大切さと、命の時間は限られていることをあらためて実感しました。そんなタイミングで写真集の話をいただき、運命を感じて即決しました。自分の人生において、すごく大きな出来事でした」
撮影を通しての変化について聞いた。
「まるで走馬灯のように人生を振り返りながら撮影に臨んだ気がしています。人よりも良く見せようと虚勢を張って生きていた自分が2人の子どもを生んで母となり……カメラの前に立ってみて、今までの自分の欠点や嫌なところも、『そのままでいいんだよ』って弱い自分を許せるようになったと思います。そんな内面的な変化もあって柔らい表情のカットもたくさん撮っていただきました」
今回、2児の母親として挑戦したことについてどう感じているか聞くと次のように答えてくれた。
「『あなたは間違っている』とか『子どもたちのことを考えなさい』といったコメントをたくさんいただきました。私が責任と覚悟を持って選択したことなので後悔はありません。子どもたちにも自信を持って話せますし、これからも私が子どもたちを守っていきます。私にとって『生きる』とは、今この一瞬一瞬に全力を注いで生き絶えるその日までそれを繰り返していくこと。写真集もその1つです」
写真集に挑戦した彼女にはさらに大きな夢がある。
「今度はビデオカメラを持って海外の若者や必死な思いで頑張っている人たちの真の姿を撮影してドキュメンタリー映画を作ってみたいんです。いつか映画祭にも出品したいという大きな目標を持っています」
子どもたちにも早く世界を見せてあげたいという。
「10代のうちに実際の世界を見せてあげて『もっと自由に生きていいんだよ』と2人に伝えたいです。でも1人で行くと言われたら反対します(笑)。実際に世界を見てきたので特に娘には絶対に1人では行かせません。……自分も親になってあらためて両親の思いにふれました。娘が勝手に世界一周して迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちと感謝でいっぱいです」
コロナ禍と子育てでなかなか海外には行けないが、考え方一つで、日常も立派な旅になり得るのだという。
「私は世界一周を通して旅先で遭遇する逃げたくなるような嫌なことや落ち込むような出来事にどう立ち向かうかですべてが変わることを学びました。毎日の生活も同じで、ささいなことでもどう向き合うかで変わってくるんです。私は嫌なことがあったときにこそ強くなれると思っていて、嫌なことが起こると心の中で『ありがとう』って言っています」
□歩りえこ(あゆみ・りえこ)1981年、東京都出身。作家・女優・タレント。清泉女子大文学部卒。5冊の著書があり、これまで旅した国は五大陸94か国。「固定観念を捨ててもっと自由に生きよう」をテーマに執筆、グラビアなど幅広いジャンルで活動中。22年7月、ファースト写真集『スフィア』を発売。
公式HP:http://www.rieko-ayumi.com/
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歩りえこ 1st写真集『スフィア』(講談社刊、撮影:山岸伸)
2022年7月8日発売、定価:3850円(税込)
A4変型判 104ページ ISBN:978-4-06-528423-0