「AV出演女性は全員被害者」は誤った認識 立ち上がった女優たち「親からも理解」「働き方のひとつ」
当事者へのヒアリングが行われないまま昨年6月に公布・施行されたAV(アダルトビデオ)出演被害防止・救済法、通称「AV新法」をめぐり、「実態に即していない」「不当に仕事の機会を奪われている」として業界団体を中心に改正を求める活動が行われている。そんななか、AV業界の実態を広く知ってもらい、職業差別撤廃を目指す団体、一般社団法人「siente(シエンテ)」が昨年11月に発足。セックスワーカーを始めとする性業界事業者への差別と偏見をなくすための発信を行っている。代表理事の中山美里さん、プロジェクトリーダーを務める現役セクシー女優の月島さくらさん、稲森美優さんに、新法施行後の業界の現状を聞いた。
適正AVの解説やセックスワーカーの確定申告事情など、業界内の情報を積極的に発信
当事者へのヒアリングが行われないまま昨年6月に公布・施行されたAV(アダルトビデオ)出演被害防止・救済法、通称「AV新法」をめぐり、「実態に即していない」「不当に仕事の機会を奪われている」として業界団体を中心に改正を求める活動が行われている。そんななか、AV業界の実態を広く知ってもらい、職業差別撤廃を目指す団体、一般社団法人「siente(シエンテ)」が昨年11月に発足。セックスワーカーを始めとする性業界事業者への差別と偏見をなくすための発信を行っている。代表理事の中山美里さん、プロジェクトリーダーを務める現役セクシー女優の月島さくらさん、稲森美優さんに、新法施行後の業界の現状を聞いた。
AV新法は、すべてのアダルトビデオの撮影に際し、契約書や内容説明の義務化、契約から1か月間の撮影禁止、撮影後4か月間の公表禁止、公表から1年間の契約解除や販売・配信の停止を可能とすることなどを盛り込んだもの。成立に際し当事者である業界団体へのヒアリングが行われず、現場では施行直後から撮影スケジュールがストップするなど大混乱となっている。業界では新法成立以前から、撮影内容の説明や性病検査の実施といった審査を通ったものだけを「適正AV」として販売しているが、新法により仕事がなくなった女性が審査を受けていない違法AVや、愛好家による個人撮影、パパ活や風俗などに流れる影響も危惧されている。
そんな新法で追い詰められたAV出演者や制作者、プロダクション関係者などを支援すべく、昨年11月に新たに発足したのがsienteだ。代表の中山さんは元日本プロダクション協会所属も、8月限りで事務局を退任。新法で困窮した人を中心に、AV出演者だけでなく、プロダクションやメーカー、その他の職業差別を受ける風俗産業従事者など、垣根を越えた性業界事業者支援の活動を行っている。
広報活動では月島さんや稲森さんら現役女優が出演し、適正AVの解説やセックスワーカーの確定申告事情など、当事者の役に立つ情報をYouTubeで発信。12月には子ども支援を行う認定NPO法人「CPAO(しーぱお)」と協力し、新宿歌舞伎町の東宝ビル周辺、通称「トー横」で炊き出しを行うなど、活動の幅は多岐にわたる。また、昨年11月29日に行われた「Colaboとその代表仁藤夢乃に対する深刻な妨害に関する提訴記者会見」の中で、弁護団の角田由紀子氏が「アダルトビデオは女性を性的に虐待して娯楽にしている」という内容の発言をしたことにも、業界を代表して抗議するなど、性業界への差別と偏見をなくすための発信も積極的に行っている。
「性業界事業者は周囲の理解が得られず、孤独になりやすい面もあります。仕事そのもののつらさというより、仕事上の愚痴を言える相手がいないために病んでしまうことも多い。そういった当事者同士の交流を図るネットワークの場を提供できたら」と中山さんは話す。
「AV出演自体が性被害」といった誤った認識が出演女性への差別と偏見を助長
さらに深刻なのが、新法で「AV出演自体が性被害」「出演女性は全員被害者」といった誤ったメッセージが発信されることによる、出演女性への差別と偏見の助長だ。月島さんはセクシー女優になった経緯を交えつつ、こう訴える。
「私はもともと及川奈央さんのファンで、アイドルグループの恵比寿マスカッツを見てセクシー女優に憧れを持ちました。始めるときは親にも相談して、『もう大人なんだから、自分の判断でやりなさい。困ったことがあったら遠慮なく言いなさい』と理解を得られた。法に触れることもなく、自ら望んで納得してやっている仕事なのに、新法をめぐる議論の中では、絶対に後悔するとか、洗脳されている、売女、反社の手先とまで言われている。そういった考えが、さらにセックスワーカーへの差別や偏見を強めることにつながるのではないでしょうか」
一方、グラビアアイドル出身の稲森さんは以前は「絶対にAVには行きたくない」と考えていたが、その後業界に入り、自らの考えを改めた1人だ。
「グラビア時代はファンから『早くAV行きなよ』とめちゃめちゃ言われていて、絶対に行きたくない! と思ってました。やっぱり暗い、怖いイメージはありましたね。ギリギリまでアイドルでいたいと思ってやってきましたが、グラビアを始めて10年以上がたって、もうそろそろ何か新しいことをしなきゃというときに、一度自分をさらけ出してみようと思って飛び込んだのがAVだった。実際に始めてみたら、すごく楽しくて周りも優しくて、もっと早く来ればよかったと思っています」
新法施行から半年余り、業界では信頼や実績に乏しい新人が入ってきづらい状況が続いている。「新人女優は3割減、新人男優はゼロという状況で、中堅やベテランでも仕事がなく引退したり、違法AVへ流れた方も多くいますが、実数は把握できていません」と中山さん。仕事が減った分の補助は一銭もなく、月島さんは新法施行による仕事の減少で9月に契約していたアパートを解約、現在は実家に身を寄せている。稲森さんも家賃と光熱費、愛犬のエサ代の捻出で精一杯という状況だ。AV業界関係者は相場より家賃が高い物件でないと契約してもらえないというのも、知られざる実態だという。月島さんが訴えるのは、AV業界へのより深い理解だ。
「人は知らないものを恐れたり、嫌ったりする。sienteの活動を通じてAV業界がもっとオープンになれば、誤解も解いていけると思う。女優は若いときしか働けないイメージを持たれているけど、結婚している人もお子さんがいる人も、50代60代の中年女性も、おばあちゃんもいる。仕事をする理由も人それぞれで、女性として輝きたい人、有名になりたい人やきれいな姿を残しておきたい人、とにかくいっぱい稼ぎたい人もいれば育児の合間のパート感覚という人もいる。普通の女性の、働き方の選択肢のひとつだと知ってもらえたら」
中山さんも性的コンテンツが一緒くたにやり玉に挙げられている現状を嘆きつつ、こう語る。
「他人に迷惑をかけない範囲であれば、性欲や性癖は悪いものでも否定されるべきものでもありません。愛するパートナーとはノーマルな行為しかしていなくても、特殊な性癖を隠し生きづらさを抱えている人は大勢いる。その欲求を一切発散させず、ずっと抑え続けるのは果たして健全と言えるでしょうか。もちろん犯罪行為は批判されるべきですが、多様性の時代だからこそ、性の多様性も認められるべきではないでしょうか」
いまだ根強いAV業界への差別と偏見。性的マイノリティーへの多様性が叫ばれる時代、性業界への理解も深まるだろうか。