中村ゆり 現場で泣かされた過去を告白 メンタルをやられたという井筒監督の言葉は?
中井貴一と佐々木蔵之介扮(ふん)する古美術商と陶芸家がだまし合いの大騒動を繰り広げるコメディー第3作「嘘八百 なにわ夢の陣」(公開中)でナゾの美女・寧々を演じるのが、女優・中村ゆり。メガホンを取った武正晴監督(55)とは「パッチギ! LOVE&PEACE」(07年、井筒和幸監督)からの仲。厳しかった当時の現場も振り返った。
出世作「パッチギ2」の助監督、武正晴氏とタッグ 「嘘八百」第3弾で謎の美女
中井貴一と佐々木蔵之介扮(ふん)する古美術商と陶芸家がだまし合いの大騒動を繰り広げるコメディー第3作「嘘八百 なにわ夢の陣」(公開中)でナゾの美女・寧々を演じるのが、女優・中村ゆり。メガホンを取った武正晴監督(55)とは「パッチギ! LOVE&PEACE」(07年、井筒和幸監督)からの仲。厳しかった当時の現場も振り返った。(取材・文=平辻哲也)
大ヒット作のキャストを一新して作られた続編「パッチギ! LOVE&PEACE」では、前作の沢尻エリカに代わって、在日コリアンのヒロイン、キョンジャを演じた中村。この映画では2007年度全国映連賞女優賞、第3回おおさかシネマフェスティバル新人賞を受賞し、注目を集めた。この映画で助監督を務めていたのが、「百円の恋」やNetflixオリジナルドラマ「全裸監督」で知られる武監督だった。
「第3作ということで、チームワークができている中に新しく入るので、プレッシャーがありました。ちょっと怖いなと思いながらでしたが、武さんは助監督時代から知っていたので、信頼できたのもすごく大きいですし、中井さんと蔵之介さんという素晴らしい先輩の掛け合いを生で見られたのは勉強になりました」と振り返る。
人気シリーズ第3弾となる本作は、豊臣秀吉の出世を後押ししたと言われる超お宝茶碗「鳳凰」をめぐるだまし合いを描く。中村が演じるのは、波動アーティストTAIKOH(安田章大)をカリスマ的な存在に育てた、やり手社長の山根寧々だ。TAIKOHとのただならぬ関係を見せるが、その正体はいかに?
「本を読んだ段階ではどんな人なのかなかなか理解できず悩みました。でもあそこまで何も後ろ盾がないところから社会的に上り詰めたのには、強くなった理由がないといけないと思いましたし、奇抜なだけの面白いキャラクターにするのは違うなと。そんな中で監督と役についてのバックグラウンドを話し合いながら組み立て、得体の知れないキャラクターが、リアルな人間になっていった気がします」
撮影は自身のホームグラウンド大阪だった。
「宿泊していたエリアはディープすぎる大阪だったんです。長期でいましたから、普通に地元のスーパーや銭湯に行きました。関西のノリ、距離感を久々にめちゃくちゃ感じて、懐かしい気持ちになりました。大阪は許容力がすごくあると思うんです。おっちゃん、おばちゃんも自由。ゆるさと人の距離感の近さは大阪の魅力だなと改めて感じました」
寧々と怪しい関係を見せるTAIKOH役の安田については「関ジャニ∞さんとお仕事した時に一度だけご一緒したことがあります。ホテルまでの道で、ジャニーズJr.時代にレッスン通った話をして、安田さんも私と同じぐらいの年齢から仕事を頑張ってきて、今ここにいらっしゃるんだな、と。自然とリスペクトが生まれましたし、安田さん自身が持ってらっしゃる繊細さ、汚れてない部分がTAIKOHとリンクすると感じました」。
中村は1996年にテレビ東京「ASAYAN」の歌手オーディションに合格。16歳だった98年に友人の伊澤真理とデュオ「YURIMARI」として歌手デビューし、99年の解散後に女優に転身した。
厳しかった井筒監督「当たり前に怒られるんですね」
ターニングポイントになった「パッチギ! LOVE&PEACE」には思い出がいっぱいある。
「たくさんのことを本当に厳しく教えていただけました。当時は厳しさの中にも、愛情があったと思うんです。偏った教えもたくさんありましたが、あの環境で食らいついたから、今の私があるんだと思います。芝居の経験が少なかったから、求められる高い水準をクリアできなくて、『ダメだ』とずっと言われ続けるので、毎朝電車の中で『今日はどうかちゃんとお芝居ができますように』と祈っていました」
特に厳しかったのは井筒監督だった。
「当たり前に怒られるんですね。泣きのシーンでも、泣けなかった時は、(井筒)監督がサーと私のところに来て、『プロだったら泣けよ』って。プレッシャーでメンタルをやられて、余計泣けない(笑)。クランクアップした後も悔しさが残りずっと研究して、少しずつ自分の身になっていった。今は時代が違って厳しい指導って難しいのもあると思いますが、今の私としては、厳しく言っていただいてありがとうございます、と思うことばかりでした」
助監督だった武氏は、隣で叱咤激励してくれる存在だった。
「武さんは帰りの車で、『オレは映画の現場で死ねたらいいんだ』って言ってたんです。それくらい映画を愛している方なんだと印象的でした。そんな武さんは監督としてデビューしてまもない頃(「EDEN」12年)に呼んでくれて、また今回も」と感謝する。
劇中、寧々はTAIKOHを大事にするが、中村自身が大切にしているものは何か。
「家族、事務所の方、友達、自分が大事に思っている人。後はワンちゃん。ペットとして飼うのは一つの人間のエゴかもしれないけど、自分のところに来てくれたワンちゃんはどの犬よりも幸せにしてあげたい。ワンちゃんは純粋無垢な存在で、何の見返りも求めない。私の心の浄化にもなっていますし、癒やされます」。
犬は小1の時からずっと飼い続けている。多い時は3匹いたそうで、今いるのは、7歳のポメラニアン。長期ロケに出かける時は同居している母が面倒を見ている。
「今まで一番手が焼けるんです。活発で生意気で、一番やんちゃ。でも、病院に連れて行くと誰よりも気が弱くて、そんなところが愛しいです」
40代を迎えた今、どんな女優を目指しているのか。
「目標は特に持たないんですが、どんな役を演じても、その人自身が見えるものだと思っています。お芝居をずっと勉強し続けていくのは当たり前ですが、人としての成長がすごく大事だと思います。どんな場面でも奢らず、ちゃんと人間として成長していき、そんな中でまたお仕事したいと思ってくださる方と出会っていけたら」。新人時代からの知り合いの武監督との再会は、初心を思い返す機会にもなったようだ。
□中村ゆり(なかむら・ゆり)大阪府出身。2003年から女優として活動を始め、「パッチギ! LOVE&PEACE」で2007年度全国映連賞女優賞、第3回おおさかシネマフィスティバル新人賞を受賞。主な映画出演作に「そして父になる」(13)、「ディアーディアー」(15)、「海よりもまだ深く」(16)、「破門 ふたりのヤクビョーガミ」(17)、「8年越しの花嫁 奇跡の実話」(17)、「Fukushima50」(20)、「DIVOC-12 海にそらごと」(21)、「愛のまなざしを」(21)、「窓辺にて」(21)、「母性」(21)。待機作に映画「仕掛人・藤枝梅安」(23年2月3日公開)出演舞台に「歌うシャイロック」がある。
スタイリスト:道券芳恵
ヘアメイク:藤田響子