【映画とプロレス #11】「ファイティング・ファミリー」が生まれた街、英国ノリッジを探訪
ザックとロイが家族の絆を深めたその丘~「ファイティング・ファミリー」のロケ地を訪ねて
映画にはペイジと兄のザック、さらにはザックと長男ロイが丘の上のベンチで会話を交わすシーンがある。ランニング中に休憩する場所でもあるのだろう。聞くところによると、ここは家族にとってとても大きな意味があるのだという。なにかイヤなことがあったとき、彼らは街が一望できるベンチに座り心を落ち着かせるのだ。1人の場合もあれば、2人のときもある。ペイジとザック、ザックとロイが家族の絆を深めたその丘に、筆者も行ってみた。映画では出てこないが、もちろんリッキー&サラヤにも大切な場所である。
目印は正面の教会と背後にある刑務所の建物だ。父リッキーは過去、暴力事件を起こし刑務所に入っていた。この刑務所ではないものの、意味深な偶然の一致である。正面に広がるノリッジ中心部。教会の尖塔が、撮影での位置関係を確認させてくれる。ところが、実際のベンチは映画とは別の形をしていた。どうやら撮影用に用意し、位置も若干変えたようだ。それでもこの丘で映画は撮影され、家族が何度も訪れているのは事実。映画公開後、ちょっとした観光地になったことには家族一同、若干複雑な思いも。悩んでも気安く行けなくなったというのだから。
ノリッジで撮影されたのは、おもにこの2か所だ。ファミリーの自宅やWAWの道場、自暴自棄に陥ったザックが暴れたパブのシーンなどは、ロンドンで撮影されたという。
「ファイティング・ファミリー」は、ナイト一家の故郷ノリッジでも公開された。プレミア上映もおこなわれ、レッドカーペットの上を実在の家族が歩いた。いまや彼らは街を代表する名士と言っていい存在。ノリッジの知名度が世界的にアップしたのである。
筆者が訪れたとき、映画館では「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語」(19年)が上映されていた(日本3月公開予定も新型コロナウイルスの影響で延期)。末っ子を演じるフローレンス・ピューはこの作品で今年のアカデミー助演女優賞にノミネートされ、日本でも主演ホラー「ミッドサマー」(19年)がヒットしたばかり。「ファイティング・ファミリー」でのペイジ役が出世作となった、いま最高にノッている女優なのだ。
ちなみに、筆者が訪れたときノリッジの映画館で上映されていた作品に、日本でも話題になった「ジョジョ・ラビット」があった。この作品でゲシュタポの大尉を演じていたのが、「ファイティング・ファミリー」のスティーブン・マーチャント“監督”である。「ファイティング・ファミリー」にはザックのフィアンセの父親として出演もしている。このとき上映されていた作品の3本中2本が「ファイティング・ファミリー」つながりとは、これもまた奇跡的偶然。ノリッジとは、“ファイティング・ファミリーの街”だった。