なぜ中高年と若者は分かり合えないのか 「おじさん構文」と「ほかし言葉」から考える理由
いまや人々の生活に欠かせないツールとなっている無料アプリのLINE。会社の仕事でも私生活でも使う機会は多いが、若者とのLINEのやりとりは注意が必要だ。中高年男性から送られてくるLINEについて若者世代は「句読点が多い」「片仮名や絵文字がやたら多い」「長文で面倒くさい」「聞かれていないのに近況報告をする」と敬遠する傾向があるという。身に覚えのある方はけっこう多いのではないだろうか。若者はなぜ中高年男性のLINEを嫌うのか。「若者言葉の研究 SNS時代の言語変化」(九州大学出版会)を発表した宇都宮大学講師(現代日本語学)の堀尾佳以さんは「おじさん構文になっているからです」と指摘する。「おじさん構文」って何?
専門家苦言「若者のぼかし言葉は世界では伝わらない」
いまや人々の生活に欠かせないツールとなっている無料アプリのLINE。会社の仕事でも私生活でも使う機会は多いが、若者とのLINEのやりとりは注意が必要だ。中高年男性から送られてくるLINEについて若者世代は「句読点が多い」「片仮名や絵文字がやたら多い」「長文で面倒くさい」「聞かれていないのに近況報告をする」と敬遠する傾向があるという。身に覚えのある方はけっこう多いのではないだろうか。若者はなぜ中高年男性のLINEを嫌うのか。「若者言葉の研究 SNS時代の言語変化」(九州大学出版会)を発表した宇都宮大学講師(現代日本語学)の堀尾佳以さんは「おじさん構文になっているからです」と指摘する。「おじさん構文」って何?(取材・文=鄭孝俊)
中高年男性、いわゆる“おじさん”のLINEは独特な表現が多いと指摘されている。「チコチャンは、お肌がきれいダネ ホント可愛すぎだよ~ マッタクもウ」。実はこれ、「おじさん文章ジェネレーター」と名付けられたサイトで作成した文章。実際には文字だけではなく多くの絵文字やスタンプが加わっている。
一見、親しみやすく相手に対してフレンドリーな物腰をアピールしているように見えるが、若者にとっては違和感があるのだという。試しに今度は「今日の飲み会、楽しかったです。ありがとうございました」と打ち込んでサイトの「生成」をクリックすると、「今日の飲み会、楽しかったです。ありがとうございましたちゃん、ヤッホー 何してるのかい?今日の飲み会、楽しかったです。ありがとうございました ちゃんと今度イチャイチャしたいなァ 僕は、すごく心配だよ そんなときは、美味しいもの食べて、元気出さなきゃだね」という“構文”が現れた。オンライン上の自動生成のため奇妙な日本語にはなっているが、“おじさん”の雰囲気は十分伝わってくる。若者からすればおじさん構文は笑いの対象でしかない。中には「おじさん文章ジェネレーター」を使ってわざとおじさん構文を作ってウケ狙いで遊んでいる若者もいるほどだ。
90年代から若者言葉の変遷を研究している堀尾さんは「おじさん構文は仲良しグループに突然、転校生が入ってきたような感覚」と話す。「例えば『了解しました』が『りょ』になり最近は『り』とだけ書き込む学生もいます。自分たちの楽しくて面白くてかわいいコミュニケーションとは対照的な表現であるおじさん構文に触れると戸惑ってしまうのでしょう。ただ、決して大人とのコミュニケーションができないわけではありません。上の世代や会社の上司に対してはわりと丁寧な文章を送ります。使い分けが上手ということです」。
そんな若者のLINEについては次のような特徴があるという。「早くつながりたい、という傾向が見受けられます。例えば、『今着いた。これから向かうね』という文章の場合、『いま』『着いた』『これから』『向かうね』というようにバラバラに分解して送信します。これを言語学では『打ち言葉』と呼んでいて、『話し言葉』『書き言葉』と区別して研究されています。句読点が省略されるところが大きな特徴ですね。スマホのキーボードを1回押して句読点を1つ付け足すくらいなら先に送信してしまおう、というスピード重視と経済的な態度が現れています。つまり、句読点が多い、片仮名や絵文字がやたら多い、長文で読むのが面倒くさい、聞かれていないのに近況報告をする、といった特徴があるおじさん構文とはまったく逆の言語世界というわけです」。
一方、中高年世代からすると若者言葉は何とももどかしい。その理由は「ぼかし言葉」だ。堀尾さんによると、「ぼかし言葉」とは「って感じ」「ってゆうか」「みたいな」「とか」といった言葉のことで、1.「付け加えることで表現をぼんやりとしたものにする」、2.「除外しても文の大意は変わらないが、ニュアンスに差がある」、3.「責任の所在がどこにあるのかを、分からなくしてしまう」、以上の3条件を満たすものだという。
堀尾さんは大学生や社会人ら合計20人の会話を録音し、18項目の「ぼかし言葉」を分析した。
「例えば『ってゆうか』は挟むことによってクッションのように会話自体が柔らかい印象になったり、話し手が話題をコントロールできたりする機能がありますが、話し手が十分な情報を持っていない場合や自信がない場合、間違っていた場合に言い切らなかったことで発言に対する責任を負わずに済む、という機能もあります。大学で学生と接しているとストレートな指示にビックリされて『無理です』『キツイです』といった返事が来ることがあります。若者との会話では、関係悪化を避けるためにふんわり柔らかく、かつ指示内容を的確に伝える物言いが大事です」
とはいえ、懸念もある。「他人との関係悪化を避けるため、踏み込んだ議論をしない、あるいはディスカッションでの衝突を避ける傾向の学生が増えている気がします。その際に使われるのがぼかし言葉です。グローバル化が進む社会では、はっきりと自己主張する必要性が出てきますので、日本人が好むぼかし言葉では伝わりません。行間を読むのは日本人の得意なことですが、その手法は海外では汲み取ってもらえないでしょう。今後、ディスカッション重視のグローバル人材をどう育成していくかが大学や企業の課題かもしれません」。
中高年と若者を分断する「おじさん構文」と「ぼかし言葉」。両世代の溝がなかなか埋まらない理由はこのあたりにもありそうだ。
○簡単に「おじさん構文」が作成できる「おじさん文章ジェネレーター」
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