「家系ラーメン」生みの親が見据える業界の今後 “生きる伝説”は今も「魂が揺さぶられる」味を追求
日本が世界に誇る食文化である「ラーメン」の中でも、大きな人気を集めるのが、「家系ラーメン」だ。とんこつと鶏ガラをベースにした濃厚な特製しょうゆだれ、ガツンとくる太麺。国内外のラーメンファンを魅了している。その家系ラーメンの“源流”が、「家系総本山 ラーメン吉村家」(横浜市)だ。同店の創始者で、家系ラーメンの生みの親である吉村実会長(75)に単独インタビュー。今も理想の味を追求し続ける自身の人生観と、ラーメン界の“今と今後”について直撃した。
いわゆる「家系ラーメン」は全国に2200軒あるという 吉村家・吉村実会長「ラーメン屋は職人であることはいいんだけど、実業家にならないと」
日本が世界に誇る食文化である「ラーメン」の中でも、大きな人気を集めるのが、「家系ラーメン」だ。とんこつと鶏ガラをベースにした濃厚な特製しょうゆだれ、ガツンとくる太麺。国内外のラーメンファンを魅了している。その家系ラーメンの“源流”が、「家系総本山 ラーメン吉村家」(横浜市)だ。同店の創始者で、家系ラーメンの生みの親である吉村実会長(75)に単独インタビュー。今も理想の味を追求し続ける自身の人生観と、ラーメン界の“今と今後”について直撃した。(取材・文=吉原知也)
1974年、横浜にオープンした小さなラーメン店が伝説の始まりだ。地元の名店から全国の有名店へ。開店と同時にできる行列、1日平均1500人が訪れる。誰もが知る家系ラーメンのジャンルを築き上げた。直弟子・孫弟子は全国に300人超。文字通りのパイオニアだ。
「弟子が300人いるって? まあみんな盗みにくるからな」
年齢を全く感じさせない、大きく力強い声。豪快に笑った。そして、はっきり言ってのけた。「値段を抑えて提供する中で、味や行列の人数、いろいろな要素を考えると、実質的に俺が日本で一番だよ。それはもう自負しているな」。
もともとはトラック運転手だった吉村会長。50年前に中華そばの代名詞的存在である「荻窪中華そば 春木屋」(東京)で食べたラーメンが原点だという。今も店に立つ吉村会長がこだわるのは、コク深い味のスープと相性抜群のライスだ。ラーメン「750円」にライス「120円」を頼んでも、合計870円。庶民に優しい値段設定を貫く。
「俺はほら労働者だから。やっぱりライスがなきゃダメだよ。ラーメンにライスを頼まないと、お腹が空いちゃうんだよ。ふぐ鍋を食べに行って、一番楽しみなのは締めでしょう。ご飯を入れて雑炊にして。それが一番なんだ。ラーメンも同じだよ。それに、自分の目が届くのは1軒が限度。だから店を増やすつもりはないんだ」
今回、有名ラーメン店店主790人の投票によって選出されるラーメン店の表彰「JAPAN BEST RAMEN AWARDS 2022」で3位に輝いた。同じラーメン業界の店主たちからも熱い支持を集めている証左だ。昨年12月13日に都内で行われた授賞式に出席した。それは、今“生きのいい”若手に実際に会って話をしたかったからだという。
「こうやって、雑誌でしか見ていない店主に会うことはいいもんだね。会って話してみないと分からないことはいっぱいある。それは俺の好奇心なんだな、やっぱり。
それにね、ラーメン屋は職人であることはいいんだけど、実業家にならないと。例えば俺はビルを13個持っていて、倉庫業をやっているんだ。十分な収入を得ることも大事。俺は絶対に名刺を持ち歩いている。こうして取材の時もしっかり名刺交換をする。ラーメン業界はどうも『顔が名刺』みたいな雰囲気があるんだけど、店を一歩離れれば、誰だか分からないよ。みんなが実業家を目指すような業界になってほしいね」
「俺も75になったらちょっと味覚が狂ってきたな」 尽きない向上心
90年代中盤から2000年以降に加速した家系ラーメンブーム。現在は、屋号に「家」が付く家系ラーメン店が全国に乱立している。膨れ上がった分、玉石混交の側面があるとも言えるだろう。
「全国にいわゆる『家系ラーメン』の店は2200軒あると聞いているよ。まあどこもその店の味があって、お客さんが来てくれるのならば、それはそれでいいんじゃないかな。でも、絶対に淘汰(とうた)されていくと思うよ。10年、20年と時間はかかると思うけどね。まあ、ウチみたいにいつも3、4位の店が一番いいんだよ。全国でも神奈川でもランキングで大体、3、4位なんだ。じゃあ1位とか2位に入る店はと言うと、最初はすごいんだけど、10年ぐらいたつとなくなっちゃう。そんなもんなんだ。だから、実質的にウチが一番ってことだ」
現役で第一線を走り続けるパワーの秘訣(ひけつ)。それは、意外なことだった。
「70ぐらいで引退とか言うのは生意気だよ。あっ、そんなことを言ったらいけないな。仕事が終わったら、酒を飲む。それかな。仕事終わりの楽しみがある、それはすごくいいことだと思うよ。楽しみっていうのは人それぞれ違うじゃん。だからそれぞれに楽しみがあれば、それでいいんだ」。満面の笑みを浮かべた。
「俺も75になったらちょっと味覚が狂ってきたな」。そんなことを言いながらも、日々勉強の姿勢を貫いている。最後に、“理想のラーメン”について聞いた。
「何て言うのか、世間で人気の上品なラーメンは、それはそれでいいんだけど、おいしいのその先にあるような、魂が揺さぶられる、そういうラーメンを目指してるんだ。一度食べたら失神してひっくり返っちゃうような。どんなにおいしいものでも3日も食べれば飽きちゃう。年取ったせいか、何かそういうラーメンができねえかなって、今ちょっと思ってるんだ」
向上心の尽きない吉村家の“進化”は、今後のラーメン界を、より力強く引っ張っていくだろう。