「非常にショックでした」自動車盗難、非情な現実 警察の第一声「もう出てこない」「諦めて」
車両盗難の厳罰化を求める要望書が19日、6省庁に対して提出された。各省庁では実際に盗難被害に遭った当事者から悲痛な声が次々と上がった。警察庁との面会では、3人の被害者がそれぞれ自身の経験を伝え、警察の対応に苦言や改善を訴えた。浮き彫りになった捜査の問題点とは――。
呼んだのに…動いてくれない警察 「時間との闘い」に焦燥感
車両盗難の厳罰化を求める要望書が19日、6省庁に対して提出された。各省庁では実際に盗難被害に遭った当事者から悲痛な声が次々と上がった。警察庁との面会では、3人の被害者がそれぞれ自身の経験を伝え、警察の対応に苦言や改善を訴えた。浮き彫りになった捜査の問題点とは――。
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FD3S型マツダRX-7を盗難された男性は警察庁の担当者が居並ぶ前で、盗まれた当時の警察とのやり取りを詳細に明かした。
「私は5月に自分の車を盗難されました。初めてのことだし、自分にとってはかけがえのない大きな財産で、頼れるのは警察の方しかいなくて、夜中に110番して警察の方に来ていただきました」
駆けつけた警察の対応は、予想を大きく裏切られるものだった。
「被害者の私としては“すぐに少しでも探してくれるんだ”という期待を持つものなんですけれども、その場で言われたのは『もう基本的に出てこないと思うので諦めてください』。それが最初にかけてくださった言葉でした。非常にショックでした」
男性はGPSをつけていたため、記録が残っていた。
「『ここまで動いているんです。ありますよ。追っかけられますよ』と言ったら、『じゃあそれをください』ということだったので、全部履歴をスクリーンショットに撮って、盗難されてから4時間後ぐらいに管轄の警察署の方に渡しに行きました。これでやっと、じゃあここからやってくれるんだって思ったら、『そういうもんじゃない。手続きはいろいろあるからすぐに動けるものではない』と。もう時間との闘いですので、1日2日たったら解体されて売られているかもしれない。時間的猶予のない状況なんですけれども、そういった対応だった。どうしようもないので、私は『もう自己責任で行きますよ。自分で探します』と言って、自分の妻の車に乗って、そのまま盗まれた埼玉から茨城に移動して朝一から聞き込み、捜索、自分でやりました」
警察の初動はあまりに遅く、頼ることもできなかった。男性は仲間に協力してもらい、盗まれた愛車を懸命に追いかけた。
「午前中、警察の方から電話があって『今から行きます』と。やっと動いてくれるんだと思って、その方がいらしたら、目的は調書のときに書き間違えた訂正の母印が欲しかった。せっかく来たんだから、何か少しはしてくれると期待してたんですけども、防犯カメラを見ただけで『もうきっとここにはないです。この先、行ってしまいますね。車もここにはないでしょうね』と言って帰られました」
車を奪われ、動揺、動転しているところに、傷口をえぐるように突き刺さった心ない言葉。まるで他人事だ。それでも男性は諦めなかった。そして、自力で愛車を発見する。
「私は何百キロもかけて探しました。たまたまその日の夕方にGPSがもう1回作動したので、運よく自分の車がまだ動いて“そこにある“というのが分かりました。探してくださっている皆さんと共に、この場所が怪しいというところを自分たちのチームで特定して、やっとそこに警察の方が来てくださった」
場所はヤードだった。「発見したのは23時くらい。ヤードの前でバリケードのようにして我々の車と警察の車で張っていたんですよね」。だが、ここでも障害が……。
「そこからが問題です。その中に明らかに私の車が入っているだろう、トラックがありました。でも警察の方は踏み込めない。ルールはルールだから、いくら怪しくても入れないと。結局、私たちは朝までそこの関係者が来るまでずっと張り込むしかありませんでした」
最後は地主と称する人が来て、警察と中に入った。トラックを開けようとしないヤード側と、2時間近くスッタモンダの末に車を取り戻した。
「外国人の男性がトラックの運転席を開けて、エンジンかけて、荷台を下げたら私の車が出てきました」
男性に残ったのは、警察への不信感、失望だった。
「警察の方って『あ、盗難とか命がかかっていないことのプライオリティーって、こんなもんなのか』と思いました。現場の方の空気感も、警察の方にとってはこれが日常なのかもしれない。でも、個人にとってはすごく大きな財産。何百万もしますから。それがそういう感じの扱いなんだなというのは本当驚きました。全く自分の想像と違っていました」
法のルールに従って行動するということには理解を示しつつも、「もっと捜査をしやすくするようにルールを変えたりとか、警察の方が動けるように縛りをなくしたりとかそういうことが組織の中でも何かできることはないのかなと感じました」と訴えた。
犯人が県をまたいで移動するワケ 警察の“縦割り”を利用か
一方で、バイクを含めて過去5台を盗まれたという茨城の男性は、「自分の車がまず盗まれました。一番最初にやることと言えば、当然自分の管轄の警察署に被害届を出す。ここで終わっちゃうんですよ、現状では。よっぽどのことがない限り、それ以上の捜査は基本的にしていない。他で何かがあったときにおまけで犯人が捕まるということはあるんですけど、たぶんいろんな意味で捜査ができないんだと思うんです。現場の刑事さんの話だと、やっぱり何やるにも上の指示がないとできない。それをやる必要性をちゃんと訴えないといけない。確固たる証拠を出さないきゃいけない。それがすごい縦割りなんですよね」と問題点を指摘した。
自動車盗難はスピードとの勝負だ。それゆえに、捜査の遅さが命取りだと説いた。
「例えば(盗難車が)埼玉から県をまたいだ移動になっちゃうと、また県警の許可が必要。全てが後手後手に回る。それを犯人がもう見越してて、車が茨城県で盗まれたとすると、見つかるのは茨城じゃないんですよ。必ず何県かまたぐ。要はその足取りをわざと残す。捜査が進むのが遅いのを利用されちゃってる状況になっているんですね」と主張した。
男性は2年半ほど前、愛車のホンダシビック(EK9)を盗難された。懸命に追跡した結果、車は分解され、エンジンが米国の販売店で売りに出されていた。米国側に訴えると、現地の警察は店まで行ってくれた。しかし、日本ではエンジン番号の一致などの証拠を示しても警察の腰は重く、なしのつぶてだった。
「車は盗まれた次の日にはもうバラバラ。それを船に積まられちゃったらもうどうにもならない。今だとSNSでいろんなその情報が入るので、車の情報を追いかけられる。その状況で、警察の方も含めて連携して探してもらえるシステムがないと、犯人はやりたい放題です」と切実な思いをぶつけた。
「所轄によって差が…」 当事者の訴えに警察庁側がコメント
また神奈川県の男性は、愛車のトヨタチェイサー(JZX100)を点検中に盗まれた。犯行時間は夜間でわずか10分だった。しかし、複数のGPSがついていたため、位置を把握できたという。「警察の方にお願いして、午前中のうちに車を押さえていただきました。たぶん所轄によってその動きがだいぶ差があるのかなと思います」と警察の対応に感謝した。
強調したのは、車にはオーナーのたくさんの思いが詰まっているということ。
「警察の方たちが今のいろんな制約の中で動くというのは難しいところもある。それは重々承知です。ただ、やっぱり平然と盗まれて、泣き寝入りして何もできない人がいる。本当に盗まれてバラバラになって売られていく。そういった人たちの悲しい声というのは、人の命を引き合いに出しちゃいけないですけれども、それぐらいの思いがあるということをお伝えしたいなと思います。お金だけじゃない、その人の思いも乗っているということもやはり知っていただきたいなということなんです」
3人の当事者の声に、警察庁側は「車は大変な財産。盗まれることに対する苦しみ、私どもの捜査に対する思い、そのことを受け止めていきたいと思っております。どうしても人的被害を優先しがちな中で、非常に考えるところがございました。これまで自動車対策については官民プロジェクトを中心に進めてまいりましたが、何をしなければいけないか、改めてしっかり考えてまいります」と応じた。
要望書は、「車両盗難厳罰化推進の会」がまとめ、国民民主党の玉木雄一郎代表と元トヨタ自動車社員の浜口誠参議院議員が協力。インターネット上で集まった署名1万6693筆とともに各省庁に手渡された。窃盗罪(刑法235条)の刑罰を、現行の「10年以下の懲役又は50万以下の罰金」から、「15年以下の懲役又は100万以下の罰金」に引き上げるほか、捜査人員の拡充や不定期な立ち入り検査の即時受け入れ等を規定する「ヤード法」の創設、窃盗に関与した再犯外国人の再入国の禁止など9つを要望している。