クウェートの寮に半年待機 外資系日本人CA、コロナ禍の葛藤「時が止まっていました」
新型コロナウイルスの流行で大きな打撃を受けたのが航空業界だ。中でも国際線の客室乗務員(CA)は、減便の影響で仕事もままならない状況が長く続いた。国内大手では異業種への配置転換も話題になったが、外資系のCAはどのようにコロナ禍を過ごしたのだろうか。元クウェート航空CAの十倉(とくら)ソフィアさんに聞いた。
CA職に就いて1年でコロナ禍に 半年続いた寮の自粛生活
新型コロナウイルスの流行で大きな打撃を受けたのが航空業界だ。中でも国際線の客室乗務員(CA)は、減便の影響で仕事もままならない状況が長く続いた。国内大手では異業種への配置転換も話題になったが、外資系のCAはどのようにコロナ禍を過ごしたのだろうか。元クウェート航空CAの十倉(とくら)ソフィアさんに聞いた。(取材・文=水沼一夫)
入国制限の緩和で、徐々にコロナ前の状況を取り戻しつつある航空業界。しかし、ソフィアさんはCAとしてこれから、というときにコロナの影響を受けた1人だ。
もともとクウェートに留学し、アラビア語を学んでいたソフィアさんは、現地で就職活動の末、2018年にクウェート航空にCAとして採用された。研修を経て、1年ほど働いた後の20年2月、コロナが直撃。「クウェートの寮にいて(フライトに)出れない状態だったので日本に帰ってきました。買い物は行けるけど、外出はできませんでした」と、志半ばで退職した。
日本の大学院に通っており、休学してクウェートで働いていた。休学は3年間が上限で、「2年間フライトをして帰ろう」と考えていたが、結果的に2年を待たずして帰国することになった。コロナでクウェート航空も業績が落ち込み、「人を解雇する時期でもありました」と厳しい状況に置かれていた。
クウェートでの自粛生活は半年間も続いた。「状況がよくなるかなと待っていたんですけど、やっぱりよくならなくて……」
大空を駆け、世界中を飛び回っていたCAの仕事が一転して、地上で長期間の待機に。周りに日本人はいなかった。
どのような生活だったのだろうか。
「楽しんでいましたね。寮には友達やクルーがいました。ヨガのインストラクターがいたので、ヨガをやったり、友達は海外の方になるんですけど、いろんな国の料理をいただきました。ただ、時が止まっていましたね……」
15階建ての4棟のビルが連なり、そのうち1棟に部屋があった。女性のCAはほとんどが住んでいたという。1部屋に2人の相部屋で、キッチンとリビングは共用。トイレとシャワールームは独立した各部屋にあるが、バスタブはない。ソフィアさんはモロッコ出身のCAと同居した。「年上で王族のVIPフライトを担当している方でした。いろいろ学べることがありました」と、貴重な経験になった。
1年という短い期間ながら、CAとしての思い出はたくさんある。
「私はロンドン便が多かったんですね。月に2回はロンドンに行っていて、滞在時間は48時間でした。結構ゆっくりできるんですね。その土地のカフェでゆっくりしたり、イギリスの地方にお出かけしてみたり、すごく濃い時間だったと思います」
クウェートに留まることに後ろ髪をひかれつつも、明けないコロナ禍を憂い、悩んだ末、前に進むことを決心した。
帰国後、結婚……そして新たな挑戦は「客室乗務員をやります」
帰国後、大学院に戻り、現在は結婚して、アートスタジオの事務職で働いている。マイアミで個展を開くなど、世界をまたにかけて活躍する現代美術家・田中拓馬さんのアートスタジオだ。
一方で、「この後、CA職に戻ろうと思っています。東京ベースで客室乗務員をやります」と明かした。7月に外資系航空会社のCA採用があり、受験していた。
なぜ、再びCAに戻るのだろうか。
「やっぱりCAとして働きたかった。1年間があまりにも短かった。もう少しCAとしてキャリアを積みたかった。今年30になるんですけど、年齢的にもこの機会が最後だと思ったので、挑戦することにしました」
クウェート航空とは異なり、今度は日本発着が中心。新たなやりがいも感じている。
「乗られるお客様が日本の方がメイン。また違った世界ですね。お客様が変わるとサービス内容も変わってきます。新しくチャレンジする要素があったのがきっかけですね。また働きたいと思いました」
また一歩、踏み出す勇気。ソフィアさんの止まっていた時計の針が動き出した。