木村カエラが自然体な“今”を表現した新作「MAGNETIC」 これまでの概念は「全部無視」

歌手の木村カエラが3年5か月ぶり11作目となるオリジナルアルバム「MAGNETIC」を12月14日にリリースする。新型コロナ禍を経て完成した10曲。1枚のアルバムを通して、自然体な“今の木村カエラ”が表現されている。

自然体な“今”を表現したと語る木村カエラ【写真:荒川祐史】
自然体な“今”を表現したと語る木村カエラ【写真:荒川祐史】

コロナ禍を経て完成した1枚への思い

 歌手の木村カエラが3年5か月ぶり11作目となるオリジナルアルバム「MAGNETIC」を12月14日にリリースする。新型コロナ禍を経て完成した10曲。1枚のアルバムを通して、自然体な“今の木村カエラ”が表現されている。(取材・文=中村彰洋)

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――アルバム間では最長となる3年5か月ぶりのリリースとなりました。11作目となるアルバム完成の心境をお聞かせください。

「コロナ禍を経験して期間がより空いたような気がしています。ライブができなくなったり、活動する時間が少なくなる中で、自然と自分をチャージする時間があったんだなと思っています。1年ぐらいかけて作っていったんですけど、楽しみながら作ることを重要視しながら自然に作れた気がしているんです。コンスタントに作品を出していると、自分の経験から歌詞を書いたりするので、インプットとアウトプットが追いつかなくなってくるんです。でも、休む時間があったからこそ、また楽しく音楽に向き合えるきっかけになりました」

――アルバムを作ろうと思い始めたきっかけは何だったのでしょうか。

「1回目の緊急事態宣言の後ぐらいに鼻歌を歌っているときに生まれたのが4曲目の『ノイズキャンセリング』でした。そのときは、コロナのことを知らないから、ニュースを見たり、調べたりする中で、暗いニュースだったり、誹謗中傷の声とか不安になるようなことがたくさん目に入ってきて、自分自身がめちゃくちゃ落ち込んだんです。なかなか気持ちを上げることができない自分らしくない日々が続いてしまったときに作ったんです。『目で見る、耳で聞くってすごく大切なんだな』というのと同時に、『こんなときだからこそ、楽しくて幸せだと思うことを存分にやらないと自分が保てない』と思い、この曲ができました。『このアルバムを聞いていて楽しい!』と思ってもらえるようなものを作ろうと考えました」

――「ノイズキャンセリング」は作詞作曲をカエラさんが手掛けています。珍しくネガティブな歌詞だなと感じたのですが、そういった背景があったんですね。

「私への誹謗中傷とかではなく、世の中のそういう雰囲気が背景にありました。『なぜ言葉で誰かを苦しめるんだろう?』とすごい気になってしまいましたね。すごくそれが悲しくて、そこと向き合ったり、コロナと向き合ったりしていたら、自分も悲しくなってきちゃって……。元々落ち込んだことがあっても意味があるから前を向いて、『今がきっと変わる時期なんだ』といつもなら前向きに考えるんです。だけど、今回は気分が戻ってこなくて、自分を取り戻すのが難しかったんです。私でもそうなるってことは落ち込んでる人はもっと落ち込んでるんだろうなとか、すごく考えましたね」

――自分を取り戻せたきっかけがあったのでしょうか。

「ニュースを見ないようにしたり、自分にとって無駄だと思うことを排除していきました。自分が笑っていられることを選んでいきました。何が起きても、自分にとって1番幸せなものを最後の答えとして持っていれば、人に惑わされることもないし、悩みの中に引っ張り込まれることもないだろうなって」

――アルバムタイトルにもなっている2曲目「MAGNETIC feat.AI」はAIさんとコラボです。どういった経緯で実現したのでしょうか。

「私の中で言いたいことも決まっていて、メロディーも頭の中にありました。それに対して、AIちゃんとやるという明確なビジョンを持ってオファーしました。私もAIちゃんも人の幸せを願って歌を歌っている人。そういう2人が一緒にやったら、ハッピーが増える。それが今、自分が届けたい作品の全てだなと思いました。AIちゃんも快諾してくれて、長いツアー中だったこともあって『おチビ(木村)に任せるよ』って言ってもらえました」

――6曲目「たわいもない」ではiriさんから楽曲提供を受けています。カエラさんとしては珍しい曲調ですね。

「iriちゃんと打ち合わせしたときに『なんだこれっ! て歌をカエラさんには歌ってほしい!』って言われたんですよ(笑)。だから、『全部任せるよ』となりました。でも、元々パンクとかロックとかがすごい好きだから、意外にしっくりときましたね。デビュー当時の曲たちも、ちょっとハードで男っぽい声でたたみかけるようなAメロだったりしたので、そういうのを思い出させてくれるような感覚でした。今回のアルバムは、1stアルバムの歌詞を作っているときと似た楽しさがあったんです。iriちゃんの曲もデビュー当時のことを思い出させてくれるような、私の理想でもある強い女性像が表現できている気がします」

――5曲目「ありえないかも」もカエラさんが作詞作曲をしていますが、「ノイズキャンセリング」とは対照的に家庭の温かさのようなものを感じました。

「何も意識せずに本当に家であったことを曲にしました。洗濯物を干した後、エレクトーンを弾いていました。そしたら、すごい良いコードみたいなのと出会って『あぁ、いいなぁ』と思っていたら、ザーっと雨が降ってきて、洗濯物がびしょびしょに濡れ始めてしまったんですよ。でも、『超めんどくさい。取り込まなくていいや!』って思いながら、そのまま弾き続けてできた曲です(笑)。歌詞そのままって感じです。すごく自然に出てきたんですよね。だから、まさに家の中で作ったって感じでした」

――だから自然体な歌詞なんですね。“意味があるようでないような”という雰囲気を感じました。

「まさにそういう歌を今回は作りたかったんです。人間って言葉にならない思いをいっぱい抱えている。それが良いものだったり、悪いものだったりするけれど、心の中なんていつもそうだと思うんです。私は答えを迫ってしまうクセがあるので、その手前で止めて、自然でいることをすごく意識しました。この曲は『裸でいたい』とか同じ歌詞が繰り返し出てくるんですけど、普段だったら自分的には同じ歌詞なんてありえないんですよ。でもそういうのも全部無視! ありのままの自分をそのまま曲にしています。自分にとっては、それが新しい領域に入ったというか、肩の力が抜けた感じがしていて、そういう曲たちを作れたことがすごくうれしかったです」

――前作「いちご」のコンセプトは、新旧の木村カエラが共存した“スクラップ&ビルド”。今回のコンセプトはありますか。

「もう全然ない! いつもはいろんなことを考えて、答えを求めながら作る作品が多かったんですけど、今回は未完成で完璧を求めない。とにかく楽しんで勢いで作ることがテーマにありました。『大丈夫かな?』とも思いつつ、とにかく目の前にある曲を自分らしく、楽しく、思いのままに表現するように心掛けました。聞き直すと『なんでこんな言葉出てきたんだろう?』って(笑)。もちろん1曲ごとにテーマはありますよ。どんなときも自分を肯定できる強さと、良いときも悪いときも、自分を褒めてあげられるような、そんな自分でいたいって思いながら、ずっと作っていました。コロナ禍で人と離れていたりしたので、“SとNの関係性”みたいなものもすごい意識しましたね」

――でき上がった1枚を見て改めてどのように感じますか。

「自由だなと思います(笑)。でも、すごく好きです。頭で考えてない感じがすごく自然で、意外とようやくここにたどり着いたんだなって感覚です。自然な私が詰まっています」

□木村カエラ 東京生まれ。2004年6月に1stシングル「Level42」でメジャーデビュー。同年12月に1stアルバム「KAELA」を発売。その後10枚のアルバムを経て、22年12月14日に3年5か月ぶりとなる「MAGNETIC」をリリース。

ジャケット、スカート/Vivienne Westwood RED LABEL
シューズ/FABIO RUSCONI

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