「これSNSの闇だよ」 17歳少女の整形手術断った美容外科医、投稿の真意明かす

「美容整形は最初の選択でなく最後の手段にして欲しい」――。17歳の女性が過剰とも言える整形手術の相談をしに来たことに対する、ある美容外科医の問題提起のツイッターが大きな反響を呼んでいる。警鐘を鳴らす投稿を行ったのは、美容外科医(形成専門医)の前田拓摩医師(44)だ。10代の女性が「CGの世界でしか実現不可能」な内容を要求する整形事情、SNS社会が引き起こしたルッキズム(外見至上主義)の闇、そして美容整形業界の実情……。赤裸々な思いについて語った。

美容外科医がツイートした整形手術に関する問題提起が議論を呼び起こしている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
美容外科医がツイートした整形手術に関する問題提起が議論を呼び起こしている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

日本の業界は「売り上げ至上主義」 スマホで簡単にできる写真加工も原因を助長…前田拓摩医師に聞いた

「美容整形は最初の選択でなく最後の手段にして欲しい」――。17歳の女性が過剰とも言える整形手術の相談をしに来たことに対する、ある美容外科医の問題提起のツイッターが大きな反響を呼んでいる。警鐘を鳴らす投稿を行ったのは、美容外科医(形成専門医)の前田拓摩医師(44)だ。10代の女性が「CGの世界でしか実現不可能」な内容を要求する整形事情、SNS社会が引き起こしたルッキズム(外見至上主義)の闇、そして美容整形業界の実情……。赤裸々な思いについて語った。(取材・文=吉原知也)

「17歳の子が人中短縮と鼻フルを希望、顔の脂肪吸引もしてバッカルファットも取りたいと。挙げ句ほうれい線も気になるからハイフと糸リフトもしていきたい。横には渋々連れてこられた親。なんでそんなに?と聞くと『インフルエンサーとか綺麗な人はみんなやってるから。』と。これSNSの闇だよ」

 人中短縮は鼻と唇の間を短くすること、鼻フルは鼻を鼻筋から鼻先まで全部を高くすること、バッカルファット除去は頬の奥にある脂肪を口の中から除去して痩せて見えるようにすること、ハイフ(HIFU)は超音波などを用いて顔を引き上げること……。17歳の顔にあえて手を加える施術内容とはとても思えない。今月2日の前田医師のツイートは、6800件のリツイート、5.3万件以上のいいねを集め、議論を呼び起こしている。

 前田医師は札幌市内で美容整形外科クリニックの院長を務めている。「美容手術の失敗で本当に困っている人のために修正手術をするのが医師としてのやりがい」とし、「不幸な患者さんを出さないように」と自己研さんだけでなく、後進のドクター育成にも余念がない。

 今回の件は手術を断った前田医師は「医師の倫理観」を理由に挙げる。「10代でまだ心も成熟してない、顔の形成も成長しきっていない。そんな状態で手術をしてしまうと、数年で予想しない変化をしたり、自分の顔のかたちの変化を受け入れられない可能性もあるのです。それに美容整形の手術をするとどこかに必ず傷が残ります。それを隠すためのコンプレックスが生まれます」。判断力を伴わないうちに、一時期の欲求だけで、後々の人生に関わることを決めてしまうのは危険だと訴える。

 前田医師は続ける。「例えば、傷を隠すコンプレックスが一番顕著に出る豊胸手術の希望者には、『パートナーに話せないような、手術を隠すようなことを考えているんだったら、それはやらない方がいいよ』と伝えています。見えないように、バレないように隠す。それを続けるのは大変なことです」。

 若い世代が気軽に求めがちな「二重まぶた」。医師側の視点だと、そんなに簡単に“憧れの人”のようにできるものではないという。「二重の幅を広げたいという要望をよくいただくのですが、ただ広げるだけでは、眠そうな目になってしまうんです。患者さんには分からない部分なのですが、目の形や皮膚の厚み、筋肉量、脂肪の量は人によって違います。この人はこれがこのぐらいだからこうすると、総合的に判断して手術をします。無理して手術をすると、残念ながらとんでもない顔になってしまうリスクがあります。患者さん側もきれいに変化させられる限界についてはしっかり把握して理解してほしいポイントです」と強調する。

 医師になって17年目、美容外科の世界に入って15年。「もちろん5年、10年とその時その時で自信を持って手術を行い、ずっと研鑽してきましたが、例えば二重まぶたの切開手術で、自分でしっかりコントロールできるようになったと思えるようになったのはごく最近のことです。この世界は、技術・知識を常に追求し多くの経験を積まないと、うまくならないんです」と語る。

 二重まぶたを巡る印象的なエピソードがあるという。過去に、14歳で手術の相談に来た少女。訴えたのは「二重まぶたじゃないと、学校に行かない。二重まぶたじゃない顔は誰にも見せたくない」ということ。しかし、のりを使って皮膚を伸ばすいわゆる「二重のり」を使い過ぎているため、皮膚がかぶれ、まつ毛からまぶたにかけてかさぶたができていた。少女の親は困り果てていた。

 前田医師は、糸を使ってまぶたを引っ張って止める埋没手術の方法を選択。皮膚の荒れは解消し、かさぶたはきれいになくなった。「彼女にとって、二重まぶたになることがすべて。ここで自分が断ったら、あの子の家庭は崩壊していたかもしれません。美容手術の中には10代の未来ある子を救える手術もある。そう実感したんです」。

美容外科医(形成専門医)の前田拓摩医師。修正手術にも力を注いでいる【写真:本人提供】
美容外科医(形成専門医)の前田拓摩医師。修正手術にも力を注いでいる【写真:本人提供】

自分磨きの提言「外見以外の自信は、外見へのこだわりを捨ててくれる可能性を持っている」

 ネット社会がルッキズムを助長してしまう現状。前田医師は「今の時代はSNSや動画をすぐに見られることから、強い刺激をたくさん受けられる状況にあります。例えばインスタグラムの写真では『キラキラした陽キャの人生』が数多く映し出されます。そうすると、他者との比較がダイレクトに伝わってしまいます。同世代で同じような生活環境の子がキラキラしているように見えると、『誰々はこうで、みんなこんなことをしているのに、私だけ違う』と思い込んでしまう。それがコンプレックスを増幅させる1つのツールになっている部分があるのではないでしょうか」との見解を示す。

 スマホで簡単にできる写真加工も要因の1つに挙げる。「おじさんの顔を美少女に変換する加工アプリがあると思うのですが、まさにそこなんです。現実離れしたCGの世界。でも、そのCGみたいな顔に整形したいという相談がたくさん来ます。考えてみてください。おじさんが美少女の顔になるのは不可能です。皮膚の張力や骨の量といった現実的なところを無視して、ここを高くして、伸ばして、目を大きくして、と。CGでコントロールされている顔を欲しがってしまう。そこを僕はSNSの闇と呼んでいます」と語気を強める。

 前田医師は、日本の美容整形業界にも切り込む。「日本で美容外科医は、医師免許を取得して研修医を終えた後に自分が名乗ればそうなれちゃうんです。スキルが伴ってない美容整形手術が世の中に氾濫している状況があります。それに自費診療なので、業界側からすれば、ビジネスマインドで捉えられがちです。医療に全然関係ないオーナーや投資家がクリニックを経営している。売り上げ至上主義と言いますか、倫理観に反していたとしても、手術をしちゃえばお金になるからやっちゃおう。そんなことが起こってしまうんです」。

 一方で、若い世代で研さんを積む医師たちを見ると、勉強熱心な姿に感心するという。「今の30代は手術がうまいドクターがたくさんいます。ネットで学会の最新論文を読むことができますし、お金を払えば海外のトップドクターの手術動画を見ることができます。情報を日々アップデートして、技術を高めているんですよ」とのことだ。

 前田医師が繰り返す「美容整形は最後の手段」というメッセージ。その真意とは。そこには、ぽっちゃり体型に悲観し、30代後半から筋トレを始めて体作りを実現した自身の“美容整形に頼らない”成功体験があるという。

「美容整形はしなくていい、と本当に思っています。もちろん、医師として依頼されたことに応えるために、日々技術を磨いています。なぜそう思うのかと言うと、バーベルもダンベルも持ったことのない僕が30代後半から、トレーナーを付けて筋トレを始めて、結果が出ることで大きな自信を手に入れることができたからです。自分の努力で手に入れたものは、年老いてもずっと残っていくと思うんです。それに、自分磨きは、筋肉でなくても、スポーツでも趣味でも、自分の好きなことでいい。外見以外の自信は、外見へのこだわりを捨ててくれる可能性を持っていると考えています。

 自分を磨いてそれで自信を持てれば、整形はしなくていいです。ただ、どうしても残ってしまうコンプレックスがあり、それを改善することで解決につながるのであれば、整形手術が選択肢になると思っています。姿勢や言葉遣い、表情、立ち振る舞いなど内面性にも関係する部分を磨くことで、本当の美しさが手に入ると思っています」。熱い思いを聞かせてくれた。

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