「『イヤだ』と口にできる環境を」 話題作手がけた城定秀夫監督が考える映画内の性描写
「そこのみにて光輝く」、「オーバー・フェンス」などで知られる作家・佐藤泰志の同名短編小説を原作にしたラブストーリー「夜、鳥たちが啼く」が、東京・新宿ピカデリーほか全国で上映される。メガホンを取ったのは、「アルプススタンドのはしの方」や「ビリーバーズ」などの話題作を世に輩出してきた城定秀夫(47)。城定監督は「ダメな大人たちの愛おしいと思う部分を物語で見せたかった」と話している。公開は12月9日から。
「生々しいセックスを見せたい」100本以上のピンクを手掛けたこだわり
「そこのみにて光輝く」、「オーバー・フェンス」などで知られる作家・佐藤泰志の同名短編小説を原作にしたラブストーリー「夜、鳥たちが啼く」が、東京・新宿ピカデリーほか全国で上映される。メガホンを取ったのは、「アルプススタンドのはしの方」や「ビリーバーズ」などの話題作を世に輩出してきた城定秀夫(47)。城定監督は「ダメな大人たちの愛おしいと思う部分を物語で見せたかった」と話している。公開は12月9日から。(取材・文:西村綾乃)
物語は売れない小説家・慎一(山田裕貴)と、離婚をきっかけに慎一のもとに身を寄せたシングルマザーの裕子(松本まりか)とその息子(森優理斗)の姿を描いたもの。慎一は恋人と住んでいた家を母子に譲り、自らは敷地内にあるプレハブで暮らすいびつな半同居生活が始まる。
「山田さんとは、撮影の前にキャスティングをしたときに、1度会ってお話をして、するどくシュッとしている山田さんを、どう崩していくのかを考えて行きました。自分自身へのいら立ちなどから、ときどき暴力的になる慎一。生きづらさを抱えている中で、松本さん演じる裕子や、その息子との距離が、少しずつ近づいていく。その姿を見守ってほしいです」
距離を壊さないように。表面的だった生活が、変化して行く。中でも3人がピザ屋で食事を共にするシーンが印象的だ。
「撮影をした全てのシーンが印象に残っていますが、慎一が口にする『このままでいいんじゃない』というセリフが個人的には好きです。それまでそういうことを言う人間ではなかった慎一が、おおらかになった部分。ピザ屋につながる薬局でのエピソードも含めて、3人が家族になっていく場面です」
寂しさを埋め合うように。映画の中には、慎一と裕子が互いを求めあう場面もある。
「キレイな濡れ場ではなく、生々しいセックスを見せたいなと。僕はピンク(映画)をたくさん撮って来ましたから、そこはこだわろうと考えました。愛があるかというと、まだ微妙だけれど。ダメな二人がお互いの傷をなめ合うようなシーンを見せたいと思いました」
山田と松本は今作が5度目の共演。信頼をし合う関係だからこそ、生まれた空気感もあった。
「性描写がある作品を撮影する前には、必ず役者さんと話をします。絶対にやりたくないという人もいますし。同意を得ても、撮影を進めて行く中で、やっぱりイヤと変わる人もいます。それも仕方がないこと。撮影をする際も、こちらがしてほしいと思うことをガチガチに決めず、嫌なことはさせないよう徹底しています。撮影時になって、『どうしても生理的に出来ない』と思われることもありますし。そこは役者の権利として尊重したいですし、『イヤだ』と口にできる環境を守って行きたいです」
エロティシズムのための物語なのか、物語の中にエロティシズムの要素があるのか。100本以上のピンクを手掛けて来たからこそ、譲れないものがあると城定監督は力を込める。
「撮っていてとても楽しかったです。今後は文学作品も撮っていきたいと考えています。暗いものだけではなくて、後味が良く、元気が出るものに目を向けていきたいです」
■城定秀夫(じょうじょう・ひでお) 1975年9月2日、東京都生まれ。武蔵野美術大学在学中から8ミリ映画を制作。同大を卒業後、フリーの助監督として成人映画や、Vシネマなどを中心にキャリアを積んだ。2003年に映画「味見したい人妻たち」で監督デビュー。同作で同年度のピンク大賞・新人監督賞を受賞した。2020年公開の映画「アルプススタンドのはしの方」がミニシアター系では異例の大ヒットに。22年は「愛なのに」「女子高生に殺されたい」「ビリーバーズ」など多くの話題作を手掛けた。23年1月には「恋のいばら」、2月には「銀平町シネマブルース」の公開を控えている。