難病と闘う女装家が乗り越えた誹謗中傷 きっかけは現実逃避も「人生を2倍楽しめる」
雪白ほのかさんは、関東近郊の旧車イベントなどで有名な存在だ。露出の多いミニスカート姿で注目を集めるが、実はれっきとした男性。10年ほど前から趣味で始めた女装を楽しんでいる。初期のころは恥ずかしさのあまり人前に出られなかった。6年前からは難病も患うが、今では女装が人生の活力にもなっている。誹謗中傷を受けることも多いというほのかさんに、女装家としての生き方を聞いた。
週末だけ女装「とにかく人生を2倍、楽しめる」
雪白ほのかさんは、関東近郊の旧車イベントなどで有名な存在だ。露出の多いミニスカート姿で注目を集めるが、実はれっきとした男性。10年ほど前から趣味で始めた女装を楽しんでいる。初期のころは恥ずかしさのあまり人前に出られなかった。6年前からは難病も患うが、今では女装が人生の活力にもなっている。誹謗中傷を受けることも多いというほのかさんに、女装家としての生き方を聞いた。(取材・文=水沼一夫)
10月下旬、埼玉県内の旧車イベントに、ほのかさんの姿があった。巻き髪のロングヘアに、黒のミニスカ姿はギャラリーの中でひときわ目立つ。車のオーナーに知り合いは多く、あちこちから声がかかり、引っ張りだこだ。
「車のイベントは6年ぐらい前からずっと来ていますね。面白いんですよね」とほほ笑んだ。
ほのかさんは2つの顔を持っている。平日は男性として作業服姿で宅配業務をこなし、週末になると、化粧をしてきらびやかな女性に変身する。「一応、何でもします。ゴスロリから例えば中学生の格好とかもするし、幼稚園の格好もするし、キャバ嬢の格好もする。ちょっとロックっぽい格好もするし、あとは(ビキニで)海なんかも行く。ちょっと子どもっぽい格好も、お姉さんぽい格好も、ワイルドな格好もします。プラモデルを作る感じじゃないんですけど、いろんな服を着て、自分を仕上げるのが好きですね」
周囲からはいつしか「女装家」と呼ばれるようになった。
「とにかく人生を2倍、楽しめるんですよ。例えばメンズでこういうところに来ていても誰にも声かけてもらえないし、普通のおじさんじゃないですか。だけど、こういう格好をしていると、今もそうなんですけど、いろんな人が声をかけてくれて、お友達がいっぱい増えますよね。それと、不思議なんですけど、見る景色が変わるんですよ。例えばコスモスの花の祭りをやっているじゃないですか。例えば普通に男でいると、まず行かないですよね。でもこの格好をすると、気持ちが乙女になるので行くんですよ。花がすごくきれいで、写真を撮ったり、別人になっちゃう。そういう楽しみはありますね」
日常生活では体型維持やボディーケアも欠かさない。
「おしゃれって書いて我慢って読むんですよね。例えばこういう服が買いたいけど高かったら普段の生活を節約して買う。ウイッグなんかもただ買うんじゃなくて自分に合わせて全部オーダーで作って、しかも1個だけだとすぐくしゃくしゃになったりするので、同じのを8個作ってあるんですよ。それを1、2回使ったら全部シャンプー、リンス、アイロンでストレートにしてリセットかけた後に自分でまた巻き直して手入れして」
女性と同じように美を追求。気持ちも若々しくなり、実年齢との違いを感じることも多いという。努力は全く苦にならない。
「男性が趣味をとことんやるのと同じような感覚でやっている感じですかね。食べ物も我慢して、いろんなところを手入れして自分を磨くみたいな、そういうのが面白いですよね」と続けた。
心ない誹謗中傷「最初はかなり落ち込んでいました」
「好きなのは男性なんですよ」と公言する。LGBTQ(性的少数者)の当事者かどうかは分からないが、少なくとも恋愛対象は女性ではないという。ただ、あくまでも、スイッチが入るのは女装した後だ。「この格好をすると女性になるんですよ。で、男性が好きになるわけですよ。でも普段は男じゃないですか。そのときは別に男性に興味はないんですよ。女性にもあまりないですよね」
10年前、女装を始めたころ、ほのかさんは絶望の淵にいた。「きっかけは当時、私生活がすごく大変だったんですよ。それで現実逃避。それはかなり大きかったですね。これをしていると現実を忘れられる。これで救われたというのはあります」。精神的に追い込まれ、体にも変調を来たしていた。一筋の光になったのが女装だった。
とはいえ、いざ挑戦してみると、人前に出ることより、羞恥心が勝った。「最初は無理でした。とても恥ずかしくて」。イベント参加などもってのほか。ただただ目立たないように行動した。「1人で赤城山とか、観光しましたよね。そういうところに行って、三脚で自分の写真を撮ったり。それがだんだんいろんな人に声かけられて、だんだん慣れてきたって感じですかね」
性転換の手術などはしていない。「脱毛、サプリ、ホルモンも一切。ただ、足なんか元々毛がないんですよ。だから安上がりです。何もしなくていいじゃないですか(笑い)。ヒゲも濃くないし、体毛もないし、腕なんかも全然毛がないし。どっちかというと、女性ホルモンが多いのかもしれないですよね。こういう格好していると、女性ホルモンが分泌されて胸が出てくるんですよ。本当です。女性みたいに大きくは出ないですよ。ただ男にしちゃ出ているよねというふうに」
今でこそ存在を認知されているが、道のりは険しかった。誹謗中傷を浴びせられ、「最初のうちはかなりもう落ち込んでいました」と、心をえぐられた。
「お祭りで酔っ払った人たちがウロウロ歩いているときに、『おいゲイ、お前気持ち悪いんだよ』と言われて殴られそうになったこともあります」
イベントでは気をつけていることもある。
「ちっちゃい子がいっぱいいるイベントがあるじゃないですか。そうすると、『子どもいるんだからこっち来んなよ』と言われることもあります。向こうから来ればこの人は大丈夫なんだなって思うから接するけど、なるべく自分からは行かないように気を使っています」
難病告白「いつまた女装ができなくなるか分からない」
だんだんと打ち解けていく中で、女装に興味を示す人も増えた。この日は同じく女装をした友人を連れていた。
「やってみたいという人がいると、車の中で化粧してあげて服も貸して女装させているんですよ。彼なんかはそれで徐々にはまっちゃったんですけど、そういう人もいっぱいいます。そうすると、歩き方も変わるんですよね。ガニまたで歩いていたのが、スカートとかはくと、やっぱり閉じるじゃないですか。不思議なことに、気持ちが女性になるんですよね。だからみんな格好で変わると思いますよ。たぶん、記者さんもこの格好をすれば」と自論を展開した。
車だけでなく、戦国時代が好きな“歴女”でもある。さらに、デコトラの世界でも認知されている。
「トラック野郎、一番星号って知っています? 全国哥麿(うたまろ)会の人たちがうんと優しくしてくれて、哥麿会のイベントはたいがい行っているんです」
現実逃避のために始めた趣味によって、人生が大きく変わったほのかさんだが、「実は難病で治療中なんですよ」と打ち明けた。
病名は、落葉状天疱瘡(らくようじょうてんぽうそう)。「皮膚にどんどんどんどん水ぶくれみたいなのができて、かさぶたになって、皮膚が剥がれていっちゃうんですよ。だから、(以前は)とてもこんな状態じゃいられなかったんです。ずっと入院して、やっとここまで回復してきたんですよ」
発症して6年ほどだが、回復傾向にあっても、完治はしていない。「薬の副作用が結構大変で。免疫が、自分で自分の体を攻撃しちゃうんですね。だから免疫を下げる薬を飲んで自分で自分を攻撃しないようにするんだけど、免疫が下がるからいろんな病気が入ってきちゃう」。病院に定期的に通い、投薬のバランスを慎重に測りながら、綱渡りの状態が続いている。
女装は、闘病のつらさを少しでも忘れさせてくれる。「いつまた女装ができなくなるか分からないから、動けるうちは動こうと。今後どこまでいけるか分からないけど、こういうのでストレス発散できるから、また次の1週間、頑張れるんですよね」とほのかさんは前を向いた。