鶴瓶の12番目の弟子・笑福亭鉄瓶の挑戦 自ら取材して実話をノンフィクションで落語化

落語家の笑福亭鉄瓶(しょうふくてい・てっぺい)が、さる11月6日に東京・日比谷コンベンションホールで独演会を行った。奈良県出身の鉄瓶は、タレントで落語家の笑福亭鶴瓶の12番目の弟子だ。“上方落語家のリーダー格”として知られ、関西のテレビ・ラジオ番組でレギュラーを持つなど活躍中だ。

「ノンフィクション落語」を披露した落語家の笑福亭鉄瓶【写真:ENCOUNT編集部】
「ノンフィクション落語」を披露した落語家の笑福亭鉄瓶【写真:ENCOUNT編集部】

きっかけはネット記事「ちゃんと取材して自分のフィルターを通す」

 落語家の笑福亭鉄瓶(しょうふくてい・てっぺい)が、さる11月6日に東京・日比谷コンベンションホールで独演会を行った。奈良県出身の鉄瓶は、タレントで落語家の笑福亭鶴瓶の12番目の弟子だ。“上方落語家のリーダー格”として知られ、関西のテレビ・ラジオ番組でレギュラーを持つなど活躍中だ。(取材・文=コティマム)

誰もがアッと驚く夢のタッグ…キャプテン翼とアノ人気ゲームのコラボが実現

 鉄瓶は、師匠・鶴瓶が自身のリアルな日常をネタにトークを繰り広げる「鶴瓶噺」を敬愛しており、独演会では自身の日常ネタを語るスタンダップトーク「鉄瓶トーク」も行っている。さらに2021年からは、「ノンフィクション落語」という独自の路線を開拓。鉄瓶自ら題材を集めて取材した話を落語にするという試みだ。

 1作目は、小学2年生のときのいじめが原因で不登校になり、義務教育をほとんど受けられなかった70代男性の実話を落語化。読み書きができなかった男性が奈良県の夜間学校に通い、学び直して結婚35年目に妻へラブレターを書いたというニュース記事を読んだ鉄瓶が、男性を自ら取材して「生きた先に」と題した新作落語を創り上げた。

 今回の独演会では、ノンフィクション落語2作目となる「パパ弁~父と娘をつなぐ1095日」を披露。独演会後に、ノンフィクション落語について話を聞いた。

――古典落語だけでなく、ノンフィクション落語を始めたきっかけは?

笑福亭鉄瓶(以下、鉄瓶)「夜中ね、眠れなくてネットサーフィンしてたんです。そしたら、64歳で文字を学び直して70歳で妻に初めてラブレターを書いた西畑保(にしはた・たもつ)さんのニュース記事が目にとまって。これはすごいと。日本の識字率が99%超えの時代に、こんなことが? と」

――記事を見つけたところがスタートなのですね。

鉄瓶「(勉強できるという)当たり前の環境を、当たり前と思い過ぎてるなと。実は、この当たり前(学習環境)が取り上げられたら、なんにもできへんと。字の読み書きで苦労したことあります?高校や大学の勉強で苦労したことはあっても、字の読み書きで苦労したことはない。『当たり前のことを取り上げられたらこうなるんだ』と、それを生き抜いてきはったこの人のことを、なんとか伝えたいと思ったのがスタートです」

――落語という形にしようと思ったのはなぜですか?

鉄瓶「僕の番組やスタンダップトークでこの話をしゃべることは可能だけど、それ『責任ないやん』と。自分で生業してるもの(落語)だったら、自分で責任とれる。あかんかったら『申し訳ございません』と頭を下げられる。だから落語にしようと。人様の人生を語るわけですから、中途半端に『こんな話を見聞きしたんです』でなく、ちゃんと自分で取材してお会いして、自分の中のフィルターを通してきっちりしゃべろうと」

独演会では古典落語も披露した笑福亭鉄瓶【写真:ENCOUNT編集部】
独演会では古典落語も披露した笑福亭鉄瓶【写真:ENCOUNT編集部】

パパと娘のお弁当物語、手ぬぐいをスマホに見立てて「クックパッド」検索も

 独演会で披露した2作目「パパ弁~父と娘をつなぐ1095日」は、神奈川県の大津時一(ときかず)・みどりさん親子の実話だ。シングルファザーで料理未経験の時一さんが、高校生の娘にお弁当を作った3年間を落語化した。みどりさんがSNSに投稿した高校最後のお弁当写真を見たことから、鉄瓶が取材を申し込んだ。

 通常の古典落語と違い、ステージでは背景にスクリーンが。鉄瓶が大津親子を取材する様子が流れた後に落語が始まる。父と娘のお弁当のやり取りの他、みどりさんの昼食時の友達との会話、時一さんがPTAママ友たちからレシピ検索サイト「クックパッド」を教えてもらう様子、ひたすらお弁当作りを練習する姿などがコミカルに演じられる。一転、最終日の親子のやり取りは静かに再現され、会場からはすすり泣く声も。ラストには、実際に時一さんが作ったお弁当写真が映し出される。茶色一辺倒だったお弁当が次第にカラフルになり、卵焼きが上達していく様子も伺えた。

――落語として作品にするために、取材内容を削いでオチを考えるのは大変だったのでは?

鉄瓶「今回ね、オチはすぐ浮かんだんです。『わーっ』と笑って終われるオチがいいなと。
毎日お弁当を作って渡すという、エピソードとしてはそこまで濃くはないけれど、例えば『PTAの人に教えてもらったから、これだけできるようになった』という話から、ママ友と会話してる様子やクックパッドのことはわかりやすく演出しました」

――手ぬぐいを使ってスマートフォンを再現されていましたね。手ぬぐいを画面に見立てて縦にスクロールする様子は斬新でした。

鉄瓶「お父さんがレシピ検索する様子は、(スマホを指で)横に動かすだけじゃお客さんに伝わらんなと。そこで縦の動きも入れようと。それと最初に決めてたのは、できる限り『かわいい話にしよう』ということと、どこか一か所に『料理のシーンをパントマイムで入れよう』ということ。パントマイムがあるから、お父さんが頑張って料理を練習した様子が伝わるかなと」

――1作目も2作目も、西畑さんや大津親子に初披露したときはどのような反応でしたか?

鉄瓶「どちらも、落語を見ること自体が初めてだったので、『初めての落語が自分の話』なんです。こんな人、なかなかいてませんよ? 『落語というシステムがすごい! 見ただけで話が分かる。お料理シーンも(映像として)見える』と言ってもらえました」

――鶴瓶師匠はノンフィクション落語について何とおっしゃっていますか?

鉄瓶「『お前、ええことやってるな。その代わり続けろよ』と。『お前なりの一個の、自分のものっていうのが大事や』と」

――3作目の構想は?

鉄瓶「もちろんやりたい。でも、僕は『やろう』と思ってやってるんじゃなくて、目や耳に飛び込んできて『やりたい』と思ったものをやる。『あの話を落語化して』と言われてやるもんじゃない。僕が『うわっ! これは残したい』『知らない人に伝われ!』と思う話に出会ったら、それがスタートだと思う」

――自分の心に響いたものをやるんですね。

鉄瓶「そこだけは芯を持っておかないと。こういうことをやっているとね、『金儲けしようと思ってやっとんな』と疑う人もいる。それはしゃーない。そう言われる世界やから。だからこそ、芯を持っておかなきゃ。何かの条件と引き換えに『ノンフィクション作って』と言われてもやらない。だから新作は、心に響いた物に出会ったときがタイミング。来年かもしれんし、先になるかもしれない」

 この日会場には、みどりさんの姿も。みどりさんは「初めての落語が自分の話で感動しました。父がお弁当を作っているところは実際に見たことがなかったので、落語を通して父の姿を見ることができました」と喜んでいた。

□笑福亭鉄瓶(本名・天野幸多郎)奈良県出身、1978年8月14日生まれ。2001年に笑福亭鶴瓶に入門。著しい成長株として若手を引っ張る上方落語家のリーダー格。独演会では「古典落語」と身近に起こった日常ネタの「鉄瓶トーク」を披露する独自のスタイルで好評を得ている。21年11月、自身初の試みとなる「ノンフィクション落語」を披露し完売御礼。13年「第50回なにわ芸術祭」新人賞受賞。16年「第71回 文化庁芸術祭」大衆芸能部門新人賞受賞。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください