68歳藤波辰爾、生涯現役は可能か 20年担当のパーソナルトレーナーが語る肉体の秘密
炎の飛龍・藤波辰爾(68)がデビュー50周年記念ツアー最終戦(12月1日、東京・国立代々木競技場第二体育館)で棚橋弘至(新日本プロレス)とシングルで対戦する。長年藤波の体調面を支えているのが、トレーナーのなかやま恵之助、さん。2002年からパーソナルトレーナーを務め、20年の付き合いになる。なぜ藤波は68歳にして、最前線で戦えるのか。レジェンドの体を知り尽くすなかやまさんに秘けつを聞いた。
「ちょっと並外れたものが僕はあると思っています」
炎の飛龍・藤波辰爾(68)がデビュー50周年記念ツアー最終戦(12月1日、東京・国立代々木競技場第二体育館)で棚橋弘至(新日本プロレス)とシングルで対戦する。長年藤波の体調面を支えているのが、トレーナーのなかやま恵之助、さん。2002年からパーソナルトレーナーを務め、20年の付き合いになる。なぜ藤波は68歳にして、最前線で戦えるのか。レジェンドの体を知り尽くすなかやまさんに秘けつを聞いた。(取材・文=水沼一夫)
――棚橋戦に向けて藤波さんの調子はいかがでしょうか。
「悪くはないのかなと思いますね。棚橋選手と試合をされるにあたって、例えばお客さんが藤波辰爾を見て肉体の状態、コンディションと動きを見られてどう感じられるかというのがすごく大事だと思いますし、ご本人もそれが一番気にされているし、目標なんですけど、そこに関しては十分に素晴らしいと言っていただけるだけのコンディションには近づきつつあるのかなと思います」
――2015年に脊柱管狭窄症の手術を受け、右足に影響が出ました。
「とにかく片方の足は言うこときかない、踏ん張れないということですよね。そうなってくると結局、体幹もゆがんできちゃうじゃないですか。その辺はご自身が誰よりも分かっていました。トレーニングも、まずはしっかり立てる体に戻しましょうというところから始まっているので、メニューも本当にリハビリの延長ラインぐらいのことしかできなかったです。ストレッチとリハビリの繰り返しで。上半身は普通にやりましたけど、土台となるのは足腰ですから、足と下半身と上半身の筋力差であるとか、機能レベルがバラバラだったものをいかに近づけるかということをテーマにやりましたね」
――手術前と比べて現在の右足の回復具合は。
「よく言って7割。でも本人はたぶん半分以下だと思っていると思いますよ。動けたころの自分を分かっているじゃないですか。全盛期の藤波辰爾という。それに比べられるとちょっと困るけどって言うんですけど(苦笑)。でも今、68歳ですよね。一般の方と比べるのは全くないですけど、同じような格闘技やられている方とかプロレスラーの方でも、同年代の方と比べてどうかといったら、やっぱり藤波辰爾の肉体、動きというのはちょっと並外れたものが僕はあると思っています。今の藤波辰爾、68歳の藤波辰爾というものを考えたときにはもう十二分なパフォーマンスをリングの上では繰り広げていただけるだけのコンディションであるんじゃないかと思っていますね」
――なぜここまで長く戦えるのでしょうか。
「今の若いプロレスラーの方と比べて言うならば、藤波さんは若いころからカール・ゴッチの道場で練習をやられていて、器具を使わないで自分の体の自重だけで鍛えていました。他にはない蓄積があるんですよ。真の体の強さというんですか。だから機械で作った体じゃない。そういったものはすごく感じますよね。あとは普通に現役の陸上選手と比べても引けを取らない足の速さだったりとか、柔軟性であったりとか、筋力はもちろん、機敏な動き、うまさですよね。運動神経はたぶん持って生まれたものもあると思うんですよ。それがあるからこそ、いろんな故障を抱えていても、今ああいうふうにまだ元気でいられるんだと思いますね。そういう意味ではやっぱり類まれなる素質の持ち主ではあるんだろうと思います」
――なかやまさんのトレーニングもハードです。
「今日(取材日は11月22日)も普通の年代の方がやるようなメニューじゃないですよね。プロレスラーだから当然だろうじゃなくて、あの年代であれだけのことを僕も遠慮なくメニューで提供できる。なぜできるかというと、藤波さんの中には普通じゃない、並みじゃないよというのがやっぱりあるので、遠慮なく僕らも藤波さんに追い込んでいけるという安心感があるんですよ。それができるということ、それをやってもらっても大丈夫だって僕らが思えるだけのものすごいものがある。今日は30代ぐらいに向けた内容です。現役ばりばりの人でも楽ではないメニューですよ」
「生涯現役」の現実味 藤波が特別なレスラーのワケ
――ご本人は生涯現役を掲げています。
「本人がいけるというところまではたぶんいけると思いますよ。『70までは絶対にリングに立ちたい』と何年も前からおっしゃっていたので、それに向けて僕らもやっているわけですけど、例えば70なりました、じゃまだいけるかなというときに、藤波さんご自身がそれを判断して、トレーニングも今のような延長でもっと追い詰めるような現役のプロレスラーとして体作りをもしも望まれるなら、いけるでしょというのは僕らは思いますね。絶対余力はまだあります。その圧倒的な体力とか筋力とか、そういうものに関しては全然燃え尽きていない。それがあるから、本人も今まだ現役でというのを強く感じられてお客さんの前に立てるんだろうと思います。
往年の藤波辰爾の動き、同じものはできないかもしれないけれども、68歳の藤波辰爾としての最高のものを出そうという思いは強いわけですよね。ダメな人はダメなんですよ。他のスポーツ選手でも、自分がもう無理だと思ったらもうやらないですよ。だけど、藤波さんの場合はまだまだ、まだまだ、さすがのネバーギブアップですから。彼の中で戦う限りはたぶんこのトレーニングは続いていくんじゃないですか。それがこなせるだけのすごい潜在的な能力はあるわけですよ。僕はそれをずっと感じてこの20年間、見させていただいていますね」
――なかやまさんから見て藤波さんのすごさとは。
「全部です。普段の立ち振る舞いからすべて。厳しいトレーニングをしているんですけど、それをあんまり表に出さない。『俺すげえのやってんだろ』みたいなことはまず言わないでしょ。絶対言わないじゃないですか。努力は影で隠れて1人でやるもんだ云々ってみんな言いますよね。それを体現されている方ですよ。やっぱり自分の勝負どころはリング上だっていうことを思っているんですよ。12月1日の試合でもそうですけど、ガウンを脱いでプロレスラーとしての肉体を披露するときに、たぶん誰も『やっぱり年取ったな……』みたいなことを言える体ではないと僕は思うので。僕らも、『さすがにもう藤波も終わりだな』とか絶対誰にも言わせないような体に作りあげようとしているので、そこに関してはぜひ皆さん見てくださいという思いですね」
――藤波さんの肉体年齢は何歳ぐらいなのでしょうか。
「純粋な筋力だ体力だ精神力だ、メンタルも含めて言うんだったらまだまだ40です。プロレスラーとしての40歳ぐらいは十分やれる。けがでうまく自分なりの納得した表現ができないという歯がゆさがあるだけの話で。それは大変なもんですよ。だから選ばれし人ですよね、と僕は思います。ひいき目じゃなくて、普通にフラットな目で、いろんなスポーツ業界の人もプロレスの人も見させていただいて、やっぱり藤波辰爾という人物は選ばれし人物だなと。だから引退とか本当はしてほしくないと思いますし、リングで倒れるまでしてほしい。本当に動けなくなるまで。それぐらい何ていうかな、特別な存在ですよね。今、長州力さんが引退されて、その下の世代の闘魂三銃士たちも満足な体じゃない。そう考えたときに誰も文句言わないじゃないですか。藤波辰爾だけじゃないすか。そういう意味では唯一無二でしょうね」
□なかやま恵之助、(なかやま・けいのすけ)1959年12月11日、鳥取県生まれ。複数のスポーツクラブ、有名企業のヘッドトレーナー、チーフインストラクターを歴任。2000年、健康請負人「なかやま式トレーニング」主宰。個人トレーナーとして、アメリカンフットボール、テニス、ラグビー、サッカー、柔道、プロレスなどスポーツ選手のほか、芸能界や財界の著名人を多数指導している。女性ファッション誌への出演も多数。JSCA認定トレーニングコーチ、日本痩身協会認定ダイエットセラピスト。剣道五段。