「本物がほしい!」 横須賀生まれのスカジャン、企画展で“ドブ板通り”も活性化

横須賀美術館(神奈川県横須賀市)でスカジャンの歴史などを紹介する企画展「PRIDE OF YOKOSUKA スカジャン展」が開かれている。約140点のビンテージ・スカジャンが並ぶ会場では、1946年に制作された「YOKOSUKA Dragon」を初公開。龍の角やひげ、うろこなどを立体的に表現するため、何重にも刺しゅうを重ねた一着は「アートとしても見ごたえがある」と訪れた人を楽しませている。

展示の様子。会場にはスカジャンを着て訪れる人も多い【写真:ENCOUNT編集部】
展示の様子。会場にはスカジャンを着て訪れる人も多い【写真:ENCOUNT編集部】

米兵相手の土産物店が並んだ いまもスカジャンを扱う「ドブ板通り」も再注目

 横須賀美術館(神奈川県横須賀市)でスカジャンの歴史などを紹介する企画展「PRIDE OF YOKOSUKA スカジャン展」が開かれている。約140点のビンテージ・スカジャンが並ぶ会場では、1946年に制作された「YOKOSUKA Dragon」を初公開。龍の角やひげ、うろこなどを立体的に表現するため、何重にも刺しゅうを重ねた一着は「アートとしても見ごたえがある」と訪れた人を楽しませている。

 戦後間もない1940年代。米兵たちの日本滞在の土産物として、鷲や虎、龍など和装の刺しゅうを施したジャケットが誕生。日本国内の米軍基地内や、その周辺で「スーベニアジャケット」として販売された。その後、日本人のアメリカンカジュアルへの憧れやビンテージブームにより、数多くが日本に里帰り。70年以上経過した現在も愛されている。

 米海軍横須賀基地近くにある繁華街「ドブ板通り」の歴史を紹介するコーナーには、帰還兵や舞妓などを刺しゅうしたハンカチなど初期の販売品などもずらり。活気がある通りの様子が分かる写真を興味深く見つめる人の姿も多く見られた。

 スカジャン専門ブランド「テーラー東洋」(東洋エンタープライズ)などが保管してきた約140点が並ぶ展示室は圧巻。群馬県桐生地域で和装刺しゅうを施すために生まれた日本独自の「横振り刺しゅう」技術が注がれた作品は「角度によって、描かれているものの表情が変わって見える。絵画のよう」と来場者を驚かせていた。

 鷲、虎、龍のデザインは権力の象徴として愛され、日本地図、舞妓、富士山、仏塔や城などへ広がった。日本での人気を受け、世界各国に点在する米軍基地では、その土地の地図やシンボルをモチーフにしたスカジャンを、日本に発注するようになった。ハワイでは龍と共にフラガールやヤシの木などをあしらった一着が人気を集めたという。

 アーティストのジャスティン・ビーバー、俳優の木村拓哉など著名人の愛好家も多く、近年ではフランスの高級ブランド、クリスチャン・ディオールや、アメリカのシルバーアクセサリーブランド、クロムハーツもその意匠を取り込んだ作品をコレクションで発表。展示では、一流ブランドの逸品と共に、1994年に「現代の名工」に選ばれた大澤紀代美の作品も並べられている。

 会場には自慢の一着を羽織り、来場する人の姿も。都内のデザイン学校で学ぶ20代の女性は「凝った刺しゅうが多く、アートとしても見ごたえがあった」と満足そう。福岡県から来た40代の男性は「スカジャンが好きで、2日続けて来ました。いま着ているのは、昨日ドブ板通りで買ったもの。見ているとまた欲しくなります」とすっかり魅了されていた。

 会期は12月25日まで(12月5日休館)開催。午前10時~午後6時。入場料は一般1300円、高・大、65歳以上は1100円。中学生以下は無料。スカジャン着用の来館者は、観覧料を2割引する。

ドブ板通りにもにぎわい

 米海軍横須賀基地近くには、繁華街「ドブ板通り」が現存する。商工名鑑名簿(1954年)によると、500メートルほどの通り一帯と国道16号線沿いには、85軒の「スーベニヤ」が軒を連ねていたが、現在は関連ショップは12店舗ほど。お気に入りを探そうと、10代から70代くらいまで幅広い層が訪れるという。

 ドブ板通り商店街振興組合は2018年2月に、「スカジャン発祥の地」を宣言。同地で生まれた「スカジャン」を世界に発信したいと尽力してきた。2020年東京オリンピック・パラリンピック大会の公式ライセンス商品として販売したスカジャンは、競泳で難民選手代表のユスラ・マルディニ選手がインスタで紹介したことでも話題に。20年には、赤いチャンチャンコの代わりに、赤いスカジャンで還暦を祝おうと専門店が「還ジャン」を発売し注目された。

 スカジャン展を見た人が「本物がほしい!」とドブ板通りにやって来るケースも増えた。専門店の店主は「展示を見た足で来てくれる方が増えました。『ほしくなった』と言われると、『そうでしょう』とうれしくなります。70年前から変わらずにあるもの。はやりも関係ないので、自分だけの着こなしを楽しんでもらえたら」と語っていた。

 横須賀で生まれ育った30代の男性は、「好きなアーティストがスカジャンを着ている影響で、自分も好んで着るようになりました。別珍やキルティングなど、素材によって印象が変わるので5着ほど持っています。いま着ているリバーシブルのスカジャンは、父から譲ってもらったビンテージのもの。息子と親子3世代で楽しんでいます」と魅力を語ってくれた。

次のページへ (2/2) 【写真】「PRIDE OF YOKOSUKA スカジャン展」の様子
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