オズワルドが愛してやまない「T字路s」の魅力に迫る「結婚式の余興でたまたま組んでデビュー」

お笑いコンビ「オズワルド」や女優の池田エライザ、伊藤沙莉などがファンと公言する「T字路s」(ティージロス)。ギター・ヴォーカルの伊東妙子とベースの篠田智仁が奏でる飾り気のないストレートな音楽はどこか懐かしくて人間くさくて一度聴いたらクセになる。そんな愛すべき2人組の魅力に迫った。

「T字路s」篠田智仁(左)、伊東妙子【写真:ENCOUNT編集部】
「T字路s」篠田智仁(左)、伊東妙子【写真:ENCOUNT編集部】

NHK「あさイチ」の歌唱でも話題になった気になる2人組

 お笑いコンビ「オズワルド」や女優の池田エライザ、伊藤沙莉などがファンと公言する「T字路s」(ティージロス)。ギター・ヴォーカルの伊東妙子とベースの篠田智仁が奏でる飾り気のないストレートな音楽はどこか懐かしくて人間くさくて一度聴いたらクセになる。そんな愛すべき2人組の魅力に迫った。(取材・文=福嶋剛)

――今年は結成から12年目を迎え、お二人が大好きな名曲を歌ったカバーアルバム「COVER JUNGLE 1」、「COVER JUNGLE 2」と2作続けてリリースされました。今や多くの音楽ファンに愛される存在となりましたが、今回はそんなT字路sをまだ知らないという方に向けてご紹介したいと思っています。

篠田(智仁)「ありがとうございます。『T字路s』はボーカリスト・伊東妙子の歌が柱で彼女の歌声が日常の暮らしや喜怒哀楽の世界を描いています。日常って毎日少しずつ変化していくものじゃないですか。人も街もそこでの暮らしもそうですし。それはきっと音楽も同じだと思うんです。そういう変化を自然に受け入れながら1日1日の生活、生きている今を大切に歌っていく。それがT字路sのスタイルなのかなって思っています」

――T字路sをお店にたとえると……大衆食堂とかでしょうか。

篠田「いいですね(笑)。大衆酒場なんかも合っているかもしれませんね」

――初めての人でも気軽に入れるお店で流れているBGMは世代によって知らない曲も多いんだけれど、どれもお店の雰囲気にぴったりで。

篠田「そうそう(笑)。実は今回のカバーアルバムって、まさにそんなふうに僕たちの音楽を楽しんでもらいたいと思って作ったんです。『へえ、こんな良い曲があったんだ』とか『いったい誰の歌なの?』って。みんなが知っていると思いがちなんだけど世代によってはそうじゃない。そんな“出会いの入り口”になれたらいいなと思ったんです」

――その中で伊東さんの歌声というのは店内のにぎやかな雰囲気や思わず入ってみたくなる“赤ちょうちん”といった役割でしょうか。

伊東「そう言っていただけるとうれしいです。私は自分を表現する上でもっともふさわしい手段が歌なんです。だから音楽好きだから歌うのではなく、私の生きている証を歌で表現したくて毎日の生活の変化や私自身の成長に合わせて歌の表現も成長していきたいなって思っているんです」

篠田「デビューした頃の彼女は巻き舌でドスの効いた歌い方みたいなところが特徴だったんだけど、もっと力を抜いて歌ったらきっと今までにはない彼女らしい歌が歌えると思っていたんです。それで2017年にリリースしたファーストアルバムあたりから徐々にそういった歌い方に変わってきています」

伊東「やっぱりパワフルな部分ばかりが目立っていたので、どの曲を歌っても全部同じように聴こえてしまうのは嫌だったんです。それからは曲の持つ物語や感情を深めるような歌い方に徐々に挑戦していって、ようやく今回のカバーアルバムでそういった歌が歌えるようになってきました」

篠田「ライブ中に隣で演奏しながら聴いていても、すごく歌が良くなってきて、歌声の持つみずみずしさが増してきているように感じました。それで伊豆のスタジオに彼女の声が一番良く録れるような機材を持ち込んで合宿したんですけれど、もう上機嫌で(笑)」

伊東「上機嫌ってまた(笑)」

――レコーディングはいかがでしたか。

伊東「本当に楽しかったです。今年の前半にレコーディングした『COVER JUNGLE 1』はホーンも入れてにぎやかな曲を集めたんですが、そのあと夏にレコーディングした『COVER JUNGLE 2』は、一転、シンプルにしっとりと歌い上げるような曲を集めて、特徴の違うカバー作品を2つ作りました。たった数か月のレコーディングの違いなんですが歌い手として成長させてもらった部分が大きくて、歌に対する向き合い方や表現の仕方にも多くの発見がありました。私は歌が好きなんだってあらためて実感した瞬間でした」

篠田「ちょっと一皮むけた感じはあります」

――お二人の大好きな甲本ヒロトさんや忌野清志郎さんのカバーをはじめ、水前寺清子さんや和田アキ子さん、さだまさしさん、玉置浩二さんなどジャンルも世代もバラバラなんですが、並べて聴いてもまったく違和感を感じさせないとっても不思議な感覚でした。

篠田「伊東妙子の歌に尽きますね。全部一発録りなんです。『COVER JUNGLE 2』に収録した『かもめはかもめ』は、ミックスの段階で一切何も通さずバランスのみを整えたものですし、僕自身、今回のカバーには今までにない手ごたえを感じています」

伊東は役者にも初挑戦した【写真:ENCOUNT編集部】
伊東は役者にも初挑戦した【写真:ENCOUNT編集部】

オズワルドの2人が楽屋にやってきてT字路sに直談判

――驚いたのは「COVER JUNGLE 2」に収録されている「コンビニエンスマン」という曲です。昭和のフォークやニューミュージックを想像したのですが、お笑いコンビ「オズワルド」の畠中悠さんが作詞作曲を手掛けたそうですね。

伊東「すごくいい曲なんですよ」

――カバーするきっかけは。

篠田「もともと映画音楽を手掛けたことがきっかけで伊藤沙莉ちゃんと面識があって、僕たちのことがお兄さんの俊介さんに伝わったんだと思います。それで7年くらい前に、オズワルドの2人が僕たちのライブを見に来てくれて『これさえあれば』を出囃子(でばやし)に使わせてほしいと楽屋まで訪ねてきてくれたんです。それから今でもずっと使ってくれていて、それがきっかけで彼らのラジオ番組に呼んでもらって付き合いが始まったんです」

伊東「畠中くんは吉田拓郎さんや中島みゆきさんなど昭和のフォークやニューミュージックが大好きで、コロナ禍になって初めてギターを買って作詞作曲をしたそうです。それで初めて作った曲が『コンビニエンスマン』で、聴かせてもらったら畠中くんの音楽愛にあふれたとっても素晴らしい曲だったんですよ」

篠田「それで彼らのラジオ番組にゲストで呼んでいただいたとき、『私たちから曲のプレゼントがあります』と言ってサプライズで演奏させてもらいました。すごくいい曲なので、『これからT字路sでも歌わせてください』と今度はこちらからお願いして(笑)。作品化してしまいました」

伊東「そんなご縁もあって9月に初めてオズワルドと一緒のステージに立って2マンライブをやったんです。お笑いと音楽の融合みたいな初めての試みでどうなるか不安でしたけど、やってみるとお客さんがすごく喜んでくれて、私たちも楽しかったんです」

――少し前の話になりますがNHKの「あさイチ」に出演されたり、池田エライザさんも大ファンだと公言されていて、これまでは熱心な音楽好きから熱い視線が注がれてきましたが、その裾野がどんどんと広がってきていますね。

伊東「うれしいです。最近全国をライブで回っていてもお客さんの層がどんどん広がってきて、若い方からご年配まで来てくださって」

篠田「おじいちゃんの隣にモヒカンのお兄さんがいて、その隣に若いカップルが立っていてみたいな(笑)。なかなかない光景ですよ」

――世代を超えてお互いに知らない曲をT字路sを通して発見するという、まさに「音楽の橋渡し役」ですね。

篠田「そう思っていただけるとうれしいです」

ボーカル伊東は芦田愛菜の母親役でスクリーンデビュー

――伊東さんは今年6月に全国公開された映画「メタモルフォーゼの縁側」で役者デビューも果たしました。

伊東「今まで演じたことなんてまったくなかったので本当にすべてが初めてだったんです。芦田愛菜ちゃんの母親役というちょい役でしたが、私は違和感だけは残さないように必死でした(笑)。でも愛菜ちゃんが本当にすてきな方で、撮影の合間にお話をさせていていただいたんですが、『この演技で合っているのかどうか不安なんです』って話をしたら『私も一緒ですよ』って言われて。彼女の言葉で緊張がほぐれて楽しかったです」

――これからもオファーがあったら。

伊東「オファーをいただけたらぜひまたチャレンジしてみたいです。歌の表現の幅も広がりますし。T字路sを知っていただくきっかけになるといいですね」

――ところでT字路sはお二人の知り合いの結婚式の余興でたまたま結成したユニットが始まりだそうですね?

伊東「もともとほかのバンド同士の仲で、私が1人でやり始めたときに篠田にサポートで入ってもらったこともあったんですが、共通の知人の結婚パーティーで篠田と2人で『愛の讃歌』と『泪橋』とRCサクセションの『宝くじは買わない』の3曲を披露したんです。そしたら見ていた音楽関係者の人たちが『一緒にやりなよ』、『うちがCD作る』とか、あれよあれよと話が進んでいって(笑)」

篠田「ドラムもいないから最初はどうかなと思っていたら、翌年いきなりフジロックに呼んでいただき、ものすごいお客さんが集まってきて、『これはすごいことになったぞ』って。今でも鮮明に覚えています」

――もしあのとき、結婚式の余興がなかったら?。

伊東「結成していなかったでしょうね。めぐり合わせって面白いですね」

□T字路s(ティージロス)伊東妙子(Gt,Vo)、篠田智仁(Ba / COOL WISE MAN)によるギターヴォーカル、ベースのデュオ。2010年5月に結成。17年、 初のオリジナルアルバム「T字路s」リリース。結成10周年を迎えた2020年、3rdアルバム「BRAND NEW CARAVAN」をリリース。22年、カヴァーアルバム「COVER JUNGLE 1」をリリース。セルフカヴァー「これさえあれば」はT字路sが劇伴を手掛けた映画「メタモルフォーゼの縁側」で主演の芦田愛菜と宮本信子が主題歌として歌唱し話題に。全国ツアーはソールドアウトが続出、同年開催されたフジロックフェスティバル等数々のイベントにも出演し各地で好評を得る。同11月、「COVER JUNGLE 2」をリリース。

T字路s公式HP:http://tjiros.net/

「COVER JUNGLE 2」収録曲
01. あの鐘を鳴らすのはあなた(和田アキ子)
02. 生活の柄(高田渡)
03. その日暮らし(T字路s)
04. まほろば(さだまさし)
05. かもめはかもめ(研ナオコ)
06. 帰れない二人(井上陽水)
07. 空に星が綺麗(斉藤和義)
08. 荒川土手(THE真心ブラザーズ)
09. コンビニエンスマン(オズワルド)
10. メロディー(玉置浩二)

「COVER JUNGLE 2」ダイジェストムービー
https://youtu.be/wXSd6DzUYTw

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