ルアーが刺さった野鳥を必死に救助「人間側として謝ることしか…」 発見者の痛切な思い
ルアーが刺さった野生のユリカモメを見かけた時は「どうにか助けることはできないか」の思いだった――。ツイッターのアカウント名・佐藤鴨春(おうしゅん)さんが被害に遭ったユリカモメを発見・救助したことを報告するツイートが話題を集めている。新型コロナウイルス禍で釣りブームと言われる中で、捨てられたり放置された釣り具によって野生動物が傷つけられてしまう被害は深刻さを増している。佐藤さんに当時の状況、被害防止への考えについて聞いた。
隅田川沿いで発見、覚えた違和感 「人間そこまでひどくはないと思いたいです」
ルアーが刺さった野生のユリカモメを見かけた時は「どうにか助けることはできないか」の思いだった――。ツイッターのアカウント名・佐藤鴨春(おうしゅん)さんが被害に遭ったユリカモメを発見・救助したことを報告するツイートが話題を集めている。新型コロナウイルス禍で釣りブームと言われる中で、捨てられたり放置された釣り具によって野生動物が傷つけられてしまう被害は深刻さを増している。佐藤さんに当時の状況、被害防止への考えについて聞いた。
「ユリカモメに大きなルアーが引っ掛かっていました、水掻きに針が刺さり取れなくなっており、ぶら下げたまま飛行していました。
近くに降りてきた時にルアーのラインを掴んで捕獲し、無事に外すことができましたが怪我はすぐには治りません、もうこんな事は起きないで欲しいと願います」
痛々しいユリカモメと白いルアーの現物の写真が添えられた佐藤さんの切実なツイッター投稿。「このままだときっと命落としていたはずです。本当によかった」「早くキズが治るといいですね。それにしても非常識な人間がいて情けないです…」などと、安堵(あんど)のコメントが集まっている。
佐藤さんは、居住している東京・隅田川沿い地域でのバードウオッチングを10年以上日課としており、「主にはカモ類が好きなので、近所では鴨くんと呼ばれております」。今回のユリカモメはその最中に発見したという。
発見・救助当日の詳細を教えてくれた。
隅田川沿いの遊歩道を歩いていると、「ユリカモメが魚をぶら下げて飛んでいるのが見えました。その時は遠目では一見してルアーであると判別できませんでした」。
通常、水かきのあるユリカモメは足で魚をつかまないはずで、違和感を覚えた。気になって様子を見ていたという。
すると、「川沿いの護岸のフェンス付近に降りた時に、カラカラとプラスチックがぶつかるような音が聞こえたため、それが魚ではないことを確信しました」。異常事態に気付いた。
捕獲して外そうと思ったが、フェンスの向こう側(川側)に降りたため、手を伸ばすこともできずに、最初は少し近づいた段階で逃げられてしまった。
佐藤さんは「諦められなかったです」。動かずにしばらく同じ場所で待っていると、また同じようにフェンスの向こう側に降りてきた。よくよく観察すると、ルアーについたラインが長く垂れており、風に乗ってフェンス向こう側から、佐藤さんがいる側に流れてきた。
「それをつかめば捕獲できるのではないかと考え、驚かせないようにゆっくりと這うようにして近づき、ラインをつかむことができました」
ユリカモメは最初は飛んで逃げようとしたが、「こちらが針を外そうとすると、おとなしくしてくれて、そのまま針を外すことができました。外した後は素早く真っ直ぐ飛んで行きました。その時に、管理している地域花壇のバラの手入れのため、厚手の皮手袋を持っていたことも幸運でした。ルアーをつかんだ際に針が皮手袋に刺さっていました」。助けたい一心の救助劇だった。
気になるのが、ユリカモメのけがの具合だ。「針が水かきの薄い部分を貫通しており、その状態で飛行を繰り返したためか、貫通部分の穴が若干大きくなっているように見えました」。一方で、「ルアーを外した後に素早く真っ直ぐ飛んで行ったことなどから、衰弱しきってはいないのかなという印象を受けました」という。
実は、佐藤さんには、野生動物の被害発見で、悔いの残る過去がある。
「以前にコサギのくちばしに輪ゴムがさるぐつわのように絡まってしまっている状況を発見したことがあります。その時は何もできずに悔しい思いをしたので、今回はどうにか助けることはできないかという思いがありました」と明かす。
今回、ユリカモメの救助時は「針を外している間は、言葉は通じてはいないと思いますが、声をかけながら危害を加えた人間側として謝ることしかできませんでした」。そのうえで、「私はいわゆる『都市鳥』や人の近くで共存する鳥が好きなので、人に近いがゆえに起きた出来事にとてもつらい気持ちになりました」。複雑な心境だという。
今回のように、放置されたルアーや釣り針などによる野生動物の被害は後を絶たない。佐藤さんは真摯(しんし)なメッセージを寄せた。
「放置されたルアーや釣り糸、輪ゴムなどを含めたその他のごみは、野生動物にとっては、とても危険な存在であると考えております。可能であれば自然界への流出はゼロにしたいところですが、それは恐らく一気に解決することは不可能です。であれば、その危険性や問題に気が付いた人が小さい行動でも、小さいエリアでも良いので積み重ね、広げていくことが重要なのではないかと感じています」
釣り人に対してはどうか。
「出したごみの持ち帰りなどの最低限のマナーはもちろん、釣っている魚を含め野生動物を尊重する気持ち、自身の行動が及ぼす影響に想像力を持ってほしいです。そこに生活する生き物を想像、尊重できれば、安易にごみを捨てたり、放置したりはできないはずです」。そのうえで、「性善説だとは思いますが、人間そこまでひどくはないと思いたいです」とも添えた。
改めて気付かされたことが多いという。その1つが、コツコツと活動を続ける継続性だ。
「今回、注目していただいた方の中にも釣りをされる方がおりましたが、その方は釣り場のごみを他の人が出した分も持ち帰る活動をされているということでした。私がバードウオッチングをしているエリアでもボランティアで水辺のゴミ拾いをしている方がいます。今回の件でいろいろ考えましたが、大きな問題で一気に解決しないからこそ、小さい活動でもそれをなくさずに続けていくことが重要だと感じました。私も気持ちを改め、今後少しでも良くなる方向に行動していかなくてはと考えております」と、これからを見据えた。
また、今回の一件は自治体である区役所に内容をまとめて報告し、対策をお願いするつもりだという。行政側への要望としては「(釣り糸が切れる)ラインブレイクなどの問題が起きやすい区域は釣り禁止区域にしたり、水中構造物や岩礁などがない比較的安全な区域は推奨区域に設定(その区域は重点的に清掃を行うなど)したり、環境保護、野生動物保護政策にもっと力を入れてほしいです」としている。