1億円を超える被害も…国際ロマンス投資詐欺の深刻さ 弁護士に聞く詐欺と見破る方法

人の心に付け込み、大金を巻き上げる。最近、国際投資詐欺、国際ロマンス詐欺などの被害が深刻になっている。オンライン上で、魅力的な異性として近づき、恋愛や相続を絡めて金銭をだまし取ったり、実態のない投資に誘導したりする。被害は多額にのぼり、ほとんどが回収不能だという。問題に詳しい樋口国際法律事務所の樋口一磨弁護士に犯罪の実態を聞いた。

実際の恋愛のようにはいかない(写真はイメージ)【写真:写真AC】
実際の恋愛のようにはいかない(写真はイメージ)【写真:写真AC】

国際詐欺のパターン ロマンス型や相続型

 人の心に付け込み、大金を巻き上げる。最近、国際投資詐欺、国際ロマンス詐欺などの被害が深刻になっている。オンライン上で、魅力的な異性として近づき、恋愛や相続を絡めて金銭をだまし取ったり、実態のない投資に誘導したりする。被害は多額にのぼり、ほとんどが回収不能だという。問題に詳しい樋口国際法律事務所の樋口一磨弁護士に犯罪の実態を聞いた。

 たしかに、振り込め詐欺防止の啓蒙活動はよく目にするが、オンライン系の国際詐欺についての注意喚起はあまり目にしない。しかし、樋口弁護士によれば、「多い日は1日に3~4件の相談を受けることもあり、被害額は数百万円ならばマシな方で、数千万円、ひどい例では1億円を超えるものもあります。コロナ禍でさらに増加した印象」と明かす。

 きっかけはほとんどがSNSやマッチングアプリとのこと。「自分は大丈夫……」と思っていても、いつのまにかプロの手口にはまってしまうというから要注意だ。

 国際詐欺にはロマンス型と相続型があるという。

 ロマンス型は異性としてSNS等で近づく。実際には会ったことがなくても、パスポートなどを見せられて信頼するようになり、メッセージを交わすうちに「特別な関係」になっていく。そこで「人には教えてないけど、すごくもうかるFXの仕組みがある」などと投資を持ちかけられ、海外風の偽サイトに誘導される。最近のサイトは一見すると実際のチャートにも連動しているように見えて巧妙とのこと。指定されたとおり送金を行うと残高が増え、一見もうかっているように見える。「次のステージへ昇格できる」と言われ追加投資をする。しかし金を引き出そうとすると、デポジットや手数料が必要と言われ、さらに送金する。そして連絡が取れなくなり、詐欺と気づく。

 相続型は、「自分は裁判所から、とある人物の莫大な遺産の管理を任されている。しかし相続人が不在で処理に困っている」と来る。そして「あなたはとても素晴らしい人だから、できたらこの遺産を引き受けてくれないか」と。最初は疑いつつも、損することはないだろうと協力を申し出ると、送金や「小包」が税関や金融システムで引っ掛かり、それをクリアするためにさまざまな手数料を求められる。支払う度に問題が解決したというそれらしい証書が「弁護士」などから送られてくる。しかし似たようなことが繰り返され、詐欺と気付く。

 いずれも日本国内の話であれば、怪しいというアンテナも働きやすく、すぐに真偽を確認することもできる。しかし、海外での出来事となると、そういうこともあるのかとつい信用してしまうのだという。

国際投資詐欺に詳しい樋口一磨弁護士【写真:ENCOUNT編集部】
国際投資詐欺に詳しい樋口一磨弁護士【写真:ENCOUNT編集部】

詐欺と見破る方法は? 送金方法やドメイン

 詐欺と見破る方法はあるのだろうか。樋口弁護士によると、詐欺にはいくつかの共通点があるという。

 まず、会いたいと希望してもさまざまな理由をつけて会ってくれないのは国際詐欺の典型。また、相手から提示されるパスポートなどの書類も、本物とよく見比べると、固有名詞部分がくっきり上書きされているなど偽装が分かることも。そして、最も気づきやすいポイントが送金手段とのこと。外国人なのに日本の銀行口座を振り込み先に指定してくる、弁護士なのに暗号資産での支払いを求めてくる、というのは確実におかしいとのこと。背後に日本の裏組織の影も見え隠れする。

 やり取りで使うメールアドレスのドメインもチェックしてほしいという。「弁護士や金融機関、役所の人間などが登場します。硬い仕事をしている人たちなのにフリーメールを使っているのは明らかに不自然。巧妙なのは、実在する組織を名乗り、公式サイトのURLを貼っているが、メールアドレスのドメインを見ると本物と微妙に違うパターン。でもよく見ればすぐに分かります」

「被害者はITやSNSのリテラシーがそこそこある中高年の方が多いですね。資産家の方もいれば、全然ない方も払うんですよ。老後の虎の子を取られちゃった方や、借り入れされた方も。金融機関から多額に借り入れてしまうと破産しかなくなります」と末路は悲惨。

「一度、大金を出してしまうと、それがウソだとは信じたくないのです。疑っても、もし本当だったら、本当であってほしい、という気持ちが勝ってしまう。人に言えずに何とか挽回しようと送金を重ねる。怪しいと思っても、早く払わないとすべてが無駄になると言われてプレッシャーに負けてしまう。詐欺師はこうした精神状態をとことん利用して搾り取れるだけ取る。こちらが本格的に疑うと掌を返していなくなっておしまい」

 樋口弁護士によれば、こうした事案では「すべてが偽物」のため加害者を特定できず、回復は困難とのこと。「被害者は泣き寝入りするしかない」と警鐘を鳴らしている。

□樋口一磨(ひぐち・かずま)1976年千葉県柏市生まれ。慶大法学部卒業。一橋大学大学院修了。米国ミシガン大学ロースクール卒業。日本と米ニューヨーク州の弁護士資格を持つ。2011年6月、東京・千代田区に樋口国際法律事務所を設立。国内業務はもちろん、海外法務など国際案件にも幅広く対応している。メディアへの出演・コメント多数。なお、同氏は、相手方を特定できない詐欺事案は基本的に対応困難としている。

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