異例の出世に「私ですか?」 入社10年で執行役員に 34歳女性リーダーが語る“オンとオフ”
新卒10年で執行役員に抜てきされ、対人関係の強さを生かして営業部門を牽引(けんいん)する女性がいる。データベース・マーケティング支援を手掛ける「ユーソナー株式会社」の営業本部企画グループ執行役員・鈴木彩乃さん(34)だ。若きリーダーの哲学、スキルアップに余念のない企業人としての横顔に迫った。
社長は「とにかく面倒見がよい」と太鼓判 「ユーソナー株式会社」鈴木彩乃さん
新卒10年で執行役員に抜てきされ、対人関係の強さを生かして営業部門を牽引(けんいん)する女性がいる。データベース・マーケティング支援を手掛ける「ユーソナー株式会社」の営業本部企画グループ執行役員・鈴木彩乃さん(34)だ。若きリーダーの哲学、スキルアップに余念のない企業人としての横顔に迫った。(取材・文=吉原知也)
「出てきた言葉は、『私ですか?』でした。今でも、どうしてなのか分からないんです(笑)」。2020年6月に大出世を遂げた鈴木さん。同社の福富七海会長から辞令を受けた時は、まさに“寝耳に水”だったという。社内のうわさを耳にすることはなく、そもそも「上に上がろうと思ったこともない」。頭が完全にフリーズしたというが、「翌月から頑張るしかない」。当時32歳。業界全体を見ても女性の役員は少なく、若さにおいても異例の出世だった。
同社の主力商品である、顧客データを活用するクラウドツールは、取引先のニーズ・用途に見合うよう、ヒアリングを重ねて提案し、受注。オーダーメードで仕上げていくのが「勝負」になる。ここで求められるのが、取引先と同社をつなぐ営業の力だ。鈴木さんが重視するのは「対話」。人と人の関係値を築くために、商談回数は通常の営業パーソンより多く、商談以外の時間に電話をかけることもしばしば。雑談から取引先の担当者の人間性や素性を把握するのだという。「例えば、取引先の方から何の気なしに『娘が大学受験する』といった話題が出たとすれば、次の商談の時に『どうでしたか?』とお聞きしてそこから話を展開させることもあります。相手にかわいがってもらえる。それを重視していますし、私自身のモチベーションにもなっています。もちろんデータもしっかり活用しますよ」。
人に好かれて相手に食い込み、しっかり結果を出す。そんな鈴木流の営業手腕に、同社の長竹克仁・代表取締役共同社長は「当社は、実力重視で、年代に関係なく役員に登用していく主義です。鈴木は、入社当時からとにかく勉強熱心で得意先の信頼も厚く、抜きんでた実績を残していたということはもちろんですが、とにかく面倒見がよい。若手がよく伸びるんです。若手のロールモデルになっていけると判断しての抜てきでした」と太鼓判を押す。
そんな鈴木さんを形作ったのは、幼少期の経験が大きいという。親が転勤族で東日本を中心に小学校で4回転校し、高校も1回編入した。1、2年で変わる環境に自分を合わせ、一から人間関係を作ることを繰り返してきた。「やってみて気付いて学ぶことがある。いろいろチャレンジしてみよう。そんな風な生き方を送ろうと思ってきたんです」。大学はそれまで住んでいた静岡から「行ったことのないエリアで暮らしたい」と、福井の福井県立大学へ。経営学やマーケティングを学んだ。
同社の門をたたいたのも、挑戦心あってこそ。国内外の大手企業やリーディングカンパニーが取引先で、「1年目から担当を任せてもらえる、そこに大きな魅力を感じたんです」。入社当時から「失敗を他人よりこなす」と、失敗を恐れずに業務にまい進した。「それでも、上司に迷惑をかけてしまい、謝っていただいたことは多々ありました。本当に感謝しています」。入社4年で、1つのチーム(部下)を持ち、商材を売ることに責任の伴うマネジャーの役職に昇格した。ここで早くも部下のマネジメントの職責を担うことに。「話し合うことを大事にしています。コロナ禍前は訪問営業の電車移動の時に、部下のキャリアへの考え方、悩み、相談事などを聞くようにしていました。『自分がこの年の時はこうだったよ』というアドバイスを送るようにしています」。7人の若手の部下を抱える現在は、週1回、1人15分の面談の機会を設けており、対話の時間をきっちり割いている。「東宝映像美術」が手がけた、まるでテーマパークのような内装の本社内。鈴木さんの営業チームはガラス張りのオフィスルームでキリキリと仕事に取り組んでいた。
仕事にメリハリの秘訣は「電車に乗ったら頭を切り替えています」
自己研鑽にも余念がない。行き帰りの電車は「自分のスキルへの投資」として資格の勉強に使う。金融分野の担当だった頃はマーケティングやファイナンシャルプランナーの資格を取得。現在は新たな資格取得を目指し勉強に勤しむ。仕事のメリハリを付けるために、「電車に乗ったら頭を切り替えています」。土日は自分の好きな予定を入れ、大好きなコンサート鑑賞を目いっぱい楽しむ。忙しくてもお風呂と睡眠時間は削らない。
役員就任後は、3か月はまったく慣れなかったというが、徐々に板についてきた。企業向けイベントやセミナーで講演の機会がぐんと増えた。「自分1人だけではなく、会社を背負っているという責任感、プレッシャーをひしひし感じます」。社内外での言葉の伝え方は、よりしっかり考えるようになったという。
とりわけ、貴重な経験になっているのは、経団連の会員企業の女性役員向けイベントだ。そうそうたる大手企業の女性役員との交流を通して、「品のある立ち振る舞い、発言内容の深み、会社全体を見ているからこそ気付けるお話。私はまだまだだなと痛感しながら、学ばせていただいています」。また、女性の活躍については、「社内を見ても女性で優秀なメンバー、クライアントを見ても女性で自分の意見を伝えて会社を動かしている方が多いです。もっと活躍される方が今後増えてくるだろうな、と肌感覚で感じています。経団連のイベントでも話を聞くのですが、結婚・出産を終えた後にまた戻って活躍する方を増やしていきたいという、その考え方が日本全体に広がってきていると思います。弊社でも女性の強みを生かす動きを推進していければいいなと思っています」と話す。
期待を背負う逸材。「若手でも売れるという教育面、誰もが売れるようなサポート。営業が得意なメンバーのノウハウや私自身がやってきた営業スタイルを共有できるような環境整備をしていきたいです。営業以外の領域でも、自分のスキルアップ、知識拡充をすることで会社の力になるのであれば、そこを究めていきたいと思っています」と力を込めた。