ダンス指導者・KASAI YUIがダンサーとして現場に出続ける理由 プロを見て学んだことを「スクールに持ち帰る」
24歳で自身のダンススクール「ALL DANCE SCHOOL」を立ち上げた指導者・KASAI YUI。ダンサーとして、星野源、サカナクション、郷ひろみ、坂本冬美、氷川きよしら数々のアーティストのミュージックビデオ(MV)やコンサートに参加。「JAバンク」や「銀のさら」「アース製薬」といったCMにも出演し、最近ではピップ株式会社「ピップエレキバン」のCM「スマイルバンバン!エレキバン!」篇が公開されていた。
「数万人のステージ」のその先-「子どもたちに夢を与える」ことが一番の感動
24歳で自身のダンススクール「ALL DANCE SCHOOL」を立ち上げた指導者・KASAI YUI。ダンサーとして、星野源、サカナクション、郷ひろみ、坂本冬美、氷川きよしら数々のアーティストのミュージックビデオ(MV)やコンサートに参加。「JAバンク」や「銀のさら」「アース製薬」といったCMにも出演し、最近ではピップ株式会社「ピップエレキバン」のCM「スマイルバンバン!エレキバン!」篇が公開されていた。
自身がダンサーとして大活躍しているにもかかわらず、KASAIが幼い頃から思い描いていたのは「ダンスの先生になること」だった。大学の通信教育で教員免許を取得し、早くも夢をかなえ生徒を指導するKASAI。その教え子たちは全国ダンスコンテストで準優勝し、選抜メンバーは小学生ながらすでに芸能の現場に立っている。ダンサーとして数々の現場を見ているKASAIの、「指導者」としての思いを聞いた。(取材・構成=コティマム)
――ダンスを習っていると、「自分がダンサーになりたい」と思う気がするのですが、KASAIさんはそこを通り越して「指導者」を目指したのですね。
KASAI YUI(以下、KASAI)「ダンスを習っている人の多くがダンサーを目指しますし、ダンサーになれた人も『数万人のステージがよかった!』『舞台に立てて感動した!』と思うと思います。でも私の場合はそこだけで終わらず、子どもたちに夢を与えダンスを通して何かを学んでくれることが一番の感動です」
――ダンサーとして自身が現場に出ていると、忙しくて子どもたちの指導は大変では?
KASAI「自分の現場が入ったときは、スクールは代行講師に依頼しています。私の夢は『指導者』なのに、どうして代行してまで現場に出るかというと、学生の頃から『すべてがむしゃらに全力で取り組む』というのがモットーで。必要として下さるところがあるなら、優先度は考えつつも、『できることは全力で取り組みたい』と思っているからです。CMやMV、コンサートの現場には、芸能人だけでなく活躍するプロの子どもたちもいます。そういう子どもたちを見て学んだことを、スクールに持ち帰ることもできる。スクールの子どもたちにとっても、現場で活躍している講師から学ぶことで良い影響があるのではないかなと思っています」
――すべてが子どもたちのため、ですね。
KASAI「『うまい』だけじゃなく、『何事も挑戦し続けるかっこいい講師がいるスクール』にしたいからこそ、学生の頃から踏ん張り続けています。大学はダンスの仕事があり実質1か月に1回くらいしか行っていません。(仕事終わりの)新幹線の中でレポートを書いて、高校もあと1回休んだら卒業が危うかった(笑)。でも『ちゃんと教員免許もとって、ダンス経験も豊富なダンスの先生になりたい』と思い、将来の子どもたちを想像しながら頑張りました」
パッケージとして見せる意識「ダンサーは背景にならないといけないときもある」
――ダンサーとして意識していることはありますか?
KASAI「プロとして振りを間違えないことは当たり前ですが、『全体の空間を把握する』ことを常に意識して踊っています。サカナクションさんの『新宝島』のMVでは、ポンポンを持ってボーカル・ギターの山口一郎さんを邪魔するような振りがあります。あれは山口さんの方に顔を向けてポンポンを出せるわけじゃなく、顔はカメラを見る。だけど、ポンポンが山口さんの目に入ったらアウトです。全体の距離やラインがそろっているかを把握しながら、全集中で研ぎすませて、俯瞰的に見ることを意識しています。『自分を見せる』じゃなく、今の自分の行動・踊り方がいいのか確認しながらやっています」
――ダンサーだけれど、「自分を見せる」のではないと。
KASAI「ダンサーという職業を、『自分のかっこいいダンスを披露する仕事』“だけ”だと思っている人もいるかもしれないのですが、私はそうではないと考えています。『うまい』ことは前提で、『背景となって引き立てるダンス』もできなきゃいけません。例えばMVの場合、ファンが見たいのはアーティスト。私たちダンサーは、『曲をパッケージとして見せたいから、背景に踊りが必要』ということで呼ばれているのです。だから自分のエゴで自分のダンスやうまさ“だけ”を見せたらいけない。ちゃんと『背景』にならないといけないときもあります」
――背景に徹することも求められるのですね。
KASAI「それから、『なんでもできなければいけない』と思っています。アーティストがバラード曲をやるならば、しなやかな動きが必要。ヒップホップだったら強く、でもきれいに美しく踊らなきゃいけない。その動きのためにはバレエが大事だと思っています。私のスクールでもバレエを教えていて、『バレエはダンスの基本』と伝えています」
――バレエをやっているのとやっていないのでは、違うのですか?
KASAI「個人的には、全然違うと思います!バレエは『爪・指・かかと』の順番で着地するので、音を一切出さずに着地できます。アーティストは生歌でやる人もいるし、ちゃんと歌を『見せる』演出がしたい。だからバックでバタバタと音を立てていたら、ご迷惑になる場合もある。プロの現場では、ドッタンバッタンと音を立てるダンサーは滅多に見かけませんね。また現場では当日にその場で衣装や新しい靴を渡されることもあります。どんな衣装や靴でも対応できるよう、基礎のバレエで培った体の軸を使って感覚の調整ができると感じています」
――そこまで違いが出るのですか!
KASAI「バレエを習っている人は『振り覚え』も早い。普段からバーレッスンで、その場で(先生の)振りを覚えて、30秒後に音楽を聞いて同じ振りをする練習をしているので、『その場で振りを吸収する力』が圧倒的に違います。この力は現場で生きてきます」
――最近ではピップエレキバンのCMが公開されていましたが、どんなことを意識されましたか?
KASAI「キャッチーでインパクトが強いCMながら、振りの動きはすごくコミカル。また、エレキバンの『バン!バン!』の動きもとってもリズミカルです。最後に『ピップエレキバーン』の『バーン』の部分でジャンプするのですが、そのシーンはみんな本気で楽しんで飛びましたね。斬新な動きを常に意識していました」
――ダンサーとして、指導者としての信念は?
KASAI「踊り『を』教えるではなく、踊り『で』何を教えるか。子どもたちにはダンスだけでなく、『礼儀・あいさつ・靴をそろえる・人の前を通るときはかがむ』など、『自分に厳しく人に優しく』を意識して伝えています。オーディションに受かったときに、落ちた人がいる前で大喜びするのが人に優しいか? 自分の早着替えが終わったら、それで終わりなのか? 周りを見るということは、全てに共通します。自分が踊るときもそうですが、『人に優しく踊れているか』が、一番大切です」
□KASAI YUI 27歳、埼玉県出身。5歳よりクラシックバレエ・ジャズ・ヒップホップ・タップ・創作ダンス・殺陣・体操などオールジャンルのダンスを学ぶ。12歳で「埼玉県ジャズダンスコンテスト」決勝進出。学生時代から日本で最も有名なコレオグラファーの元で仕事を経て、ダンサーとして数々のCMやMV、歌番組やコンサートなどに出演する。メディア出演数は80件以上。24歳のときに「ALL DANCE SCHOOL」を開校。大学時代に保健体育一種教員免許(中学・高校)取得。