取ったパンを戻す行為はマナー違反? SNSで賛否両論…店側にとっても悩ましい陳列事情
パン屋で陳列されているパンを取って戻す行為は「マナー違反」なのか?――。SNSで論争が巻き起こっている。「罰金にしてほしい」「許せません」と辛辣な言葉が並ぶ。トングで客が取る方式、パンが包装されているケースなど事情は変わってくるが、新型コロナウイルス禍において、衛生面に関して人々の意識がより敏感になっている現状もある。取りかけてトングを離すなど、どこまで許容されるのか、線引きは難しい。パン業界に詳しい専門家に、トラブルを避ける方法や、コロナ禍におけるパン販売の実情について聞いた。
コロナ禍によって販売手法に変化も 「一般社団法人パン好き協会」会長の石臥博代さんが解説
パン屋で陳列されているパンを取って戻す行為は「マナー違反」なのか?――。SNSで論争が巻き起こっている。「罰金にしてほしい」「許せません」と辛辣(しんらつ)な言葉が並ぶ。トングで客が取る方式、パンが包装されているケースなど事情は変わってくるが、新型コロナウイルス禍において、衛生面に関して人々の意識がより敏感になっている現状もある。取りかけてトングを離すなど、どこまで許容されるのか、線引きは難しい。パン業界に詳しい専門家に、トラブルを避ける方法や、コロナ禍におけるパン販売の実情について聞いた。
「パン屋さんで取ったパン戻す人初めて見た‥それはマナー違反過ぎん??」と報告するツイート。袋詰めされていないパンをトングで取ってトレーに置く形式で、5個取って3個を戻していた客を目撃したと記されている。「マナー違反というかモラルが低過ぎると思います」「私的には袋に入ってようが入ってまいが嫌です」「綺麗なトレイとトングでしょう それほど悪いかなあ」などの反応が書き込まれている。
ネット上では他にも、「パン屋さんでトレイに取ったパンを戻す人も許せません」「パン屋でとったパン戻すやつ罰金にしてほしい」といった批判的な声が。また、トングの不衛生な扱いとして「パン屋さんにくるお客さんで、一度使ったトング元の場所に戻す人いるけどそれやめてください、、なぜ戻すのか理解できない」という苦情が寄せられている。中にはこんなケースも。「パン屋でパンを自分で取る店で、パンの上で大声で飛沫を飛ばしまくる トングで取らず、素手で取って見定めてから棚に戻す 店員に言って廃棄してもらった」。これは問題行動と言えるだろう。日常の買い物で、不愉快な出来事に直面している人は多そうだ。
パン販売店で生まれ、ほぼ毎日3食パンを食べる愛好家で、パンのイベント運営を主宰している「一般社団法人パン好き協会」会長の石臥博代さんが取材に答えてくれた。
石臥さんは「そもそもこうあるべきという絶対的なルールはなく、利用客それぞれの感覚・価値観、時代の変化に影響される問題なのかなと考えています。コロナ禍によって人々が衛生面でこれまで以上に過敏になり、食の安全・健康に対してより注意するようになりました。より衛生面で誰もが気を付けなければいけないことは確かです」と指摘する。当然、利用客の不衛生な問題行動は許容されないという。
今回のように、一度トレーに取ったパンを棚に戻す行為はどう考えるのか。「皆さんが気にしているのは衛生面のことです。もし自分が取ってやっぱりこれは要らないと思ったら、レジまで持って行って、店員さんに買わない旨を伝えて対処してもらうことがベターでしょう」と適切な対応を教えてくれた。一番避けたいのは、客同士のトラブルだ。目撃した側が感情に任せて注意をすることでよからぬ騒動に発展してしまっては本末転倒だ。石臥さんは「個人間のやりとりだと、価値観の相違によってぶつかってしまう可能性があります。店側は品質管理に責任を持っています。店側に相談して対応を任せましょう。もちろん、個人個人の価値観は十分に理解できます」と話す。
そもそも、パンをそのまま包装せずに売ること自体について昔から賛否の議論が起きているとのことだ。そこに、コロナ禍によってパン店が感染防止対策に乗り出したことで、販売手法に変化が訪れたという。パンをビニールで個別に包装する方法に切り替える店が多くなった。また、ビニールシート越しまたはショーケースの中に置いたパンを店員側が客の注文を受けて選ぶ方法へ変更する店も増えた。
店側の視点から考えると、さまざまな課題が浮き彫りになるといい、「お店側には焼きたてのパンをおいしい状態で早く提供したいという思いがあります。そのため、焼き上がりのパンをオープンに置いて、客側に取ってもらうスタイルが生まれました。それなりのよさがあります。ただ、ビニールで包むと湿気が出てしまい、種類によっては味と品質が落ちてしまいます。ショーケースの場合は焼き上がりの順番で小まめに入れ替えて、店員と客とのコミュニケーションも生まれますが、大型店では人員を割くことが難しいでしょう。そもそも、衛生面で店員が使うトングはどのタイミングで替えるのか。実は考え出したらキリがないんです」。
それに、パンイベントを運営するからこそ、日本の客商売文化の難しさを実感する場面もあるという。「もともと店側が客側に何かを言うことが難しい文化があります。例えば、パンを戻した客に丁寧に注意をするのですが、『注意書きに書いてないじゃない』と“逆ギレ”されることもあるんです。それに、店側がすべての客の行動を逐一チェックすることは不可能です。『子どもがパンを触っているけどお母さんは買わない』といったケースなど苦情は多様です。今の時代、より対応が難しくなってきています」と、悩ましい実情を明かした。
「時代の流れに合わせたうえで、どう対応すれば皆さんがもめなくて済むのか。着地点が見つかれば」と石臥さん。1人1人がより衛生面に注意を払って、節度を持つことも大事になりそうだ。